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新宿に巨大なパブリックアートをつくり出した美術家・松山智一の歩み。
PUBLIC ART in SHINJUKU by MATSUYAMA TOMOKAZU

新宿に巨大なパブリックアートをつくり出した美術家・松山智一の歩み。

平均して1日に350万人以上の人が行き来する、世界中でもトップクラスの規模のターミナル駅、新宿。そんな場所に突然アートスペースが出現したのは、今年の7月。この作品の生みの親であり、グローバルに活躍している美術家の松山智一さんは、実はフイナムにとっても縁深い人だったんです。今回は、新しく新宿駅に生まれた「hanao-san」のことから、あまり語られたことのない渡米前の話しをじっくり訊いてみました。

PROFILE

松山智一

1976年岐阜県生まれ。25歳で単身渡米して以降、現在までニューヨークを拠点に活動を続ける。ペインティングを中心に、彫刻やインスタレーションを数多く手がけ、世界各地のギャラリー、美術館、大学施設等にて個展・展覧会を多数開催。2019年にはニューヨーク「バワリー・ミューラル」の壁画も手がけ、その作品は、LACMAやMicrosoftコレクション等に多数収蔵されている。現在国内ではこの新宿駅前ターミナルの作品の他、明治神宮の屋外彫刻展「天空海闊(てんくうかいかつ)」(2020年3月20日~2021年12月13日)にて作品を展示中。これまでの作品はドバイ王室コレクションに収蔵されるなど、世界のアートコレクターから熱い視線を集めている。

ようやく東京のニュースタンダードが生まれる土壌が整ってきた。

ー 今日初めて実物の作品を見たのですが、この大きさに驚きました。

松山:台座を入れて約8mあるんですけど、実はこれフランク・ゲーリー(※1)の立体物をつくるぐらい構造が複雑で、さらに真下に地下道がある特性上、確実に安全性を保たないといけないという特殊な彫刻なんです。しかも途中コロナ禍によってオンラインでの遠隔作業を強いられたりで困難続きだったんですけど、さすが関わってくれたスタッフが世界最高峰の技術を持っていたので、しっかりイメージ通りに仕上がった。ぼくも日本で初めて完成した現物を見れたのですが、思わず感動してしまいましたね。
※1カナダ出身の建築家、複雑な形状を持つ建築物で世界的に有名。

ー この新宿駅の目の前でここまで大規模なパブリックアートスペースをつくること自体、前例がなさそうですよね。

松山:そもそもこの東口から中央東口にかけてのロータリーは自転車が無造作に散乱していたり、長い間手つかずの場所だったんです。夜もかなり暗くてどこかダークな空気が流れているような、気軽に人が通る場所じゃなかった。それでルミネさんとJRさんが南口を再開発した次のステップとして、アートを主役にした文化発信の場を作りたいというオファーをいただいたんです。ぼくはぼくでこういう取り組みを今まで海外を中心に継続してきてたので、それでお声がけをいただいたのが今から2年半前ぐらいですね。

ー 2年半前というと、ちょうど松山さんが10年振りに東京で凱旋個展をされていた時期ですよね。少し話しがそれますが、そもそもその10年間という期間が空いていることには何か理由が?

松山:ぼくがニューヨークに渡ったのが2002年で9.11テロが起こった数ヶ月後だったんですけど、その当時って例えばヒップホップにもまだどこかアンダーグラウンドな匂いが残っていたりと、それぞれのシーンにキャラクターがしっかりあったんです。でも、ここ最近だとそういった境界線ってもう無くて、ファッションにしても音楽にしてもすごく混ざり合って飽和状態になっている。ストリートシーンとラグジュアリーのコラボレーションひとつとっても、それがボトムアップなのか、トップダウンなのかわからない状態ですよね。

ー 正直、そのようなコラボレーションを目にしても、もう以前のような驚きはないですよね。

松山:でも、ぼくとしてはそれがすごく面白い状況だと思っているんです。そして、さらに言うならその震源地が東京な気がしていて。この10年ほどニューヨークから東京を見ていてすごく感じるのが、東京っていい意味であまり外を見ていないというか。例えば海外だったら最初に何か動き出すときに当然グローバル全体への発信を考えるんですけど、東京の人って、どこかでまずは東京での認知拡大を目指す感覚が根強く残っている気がするんです。それが逆に良い風に作用していて、独自の文化がどんどん熟成されていっている。それに海外の敏感な人たちが気づきだしてて、グローバル視点でみてもすごく東京自体が面白い場所になっているなって。言うなれば、裏原文化が生まれて注目を集めた時代に似ているというか。

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