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新宿に巨大なパブリックアートをつくり出した美術家・松山智一の歩み。
PUBLIC ART in SHINJUKU by MATSUYAMA TOMOKAZU

新宿に巨大なパブリックアートをつくり出した美術家・松山智一の歩み。

平均して1日に350万人以上の人が行き来する、世界中でもトップクラスの規模のターミナル駅、新宿。そんな場所に突然アートスペースが出現したのは、今年の7月。この作品の生みの親であり、グローバルに活躍している美術家の松山智一さんは、実はフイナムにとっても縁深い人だったんです。今回は、新しく新宿駅に生まれた「hanao-san」のことから、あまり語られたことのない渡米前の話しをじっくり訊いてみました。

すごく異物感があると同時に、その場所に馴染んでいるということが大切。

ー 具体的に今回のプロジェクトにおいて、”周辺環境も含めての作品”とはどのようなことだったんですか?

松山:この新宿という街は本当に多種多様な文化が混ざり合っていて、その中でも特にこのロータリー周辺は雑居ビルに囲まれた作りになっていて、人口密度も高い。まずはそこらへんをキーワードに考えたんです。ぼくの作品はもともと相反するものを1つにまとめてレイヤー化させることが多く、そうしたものが好きなので、モニュメント全体をミラー化することで、これら雑居ビルなど周囲の景色自体を作品に取り込もうと考えたんです。それに加えて、周囲にある広告看板などさまざまな色彩要素を地面にも投影させています。そうすることで何が起きるかというと、雑然としたこのロータリーの景色が徐々に整理整頓されてくるんです。例えばあそこのアルタやかねふくの看板の色味が全てここに取り込まれていて、この場所を起点に作品と周辺が調和してくるようなイメージで制作していきました。そうすると駅前にいきなりこんな巨大モニュメントスペースが登場するのに、自然と視界に入ってくる景色がすべて馴染んでくるんです。すごい異物感があるのに、馴染んでいるというか。そういう世界観を目指したんです。

ー (松山さんとロータリー内を歩き回りながら)なるほど。このスペース自体が違和感はあるのに自然と景色には溶け込んでいて、どこか不思議な感覚になりますね。

松山:それに加えてモニュメント自体にも色々な細工をしています。具体的には、ファッションテキスタイルで用いられるボタニカルプリントや、鎌倉時代の仏教彫刻に使われてた紋様、中世ヨーロッパの壁紙柄などをミックスしているんです、あとはグーグル内にあるラインセンスフリーで使えるパターンも取り入れてる。そうした、異なる時代、異なる空間、異なる価値観の中で用いられてきたパーツを重ね合わせて表現することで、この新宿という街にある交錯、雑踏感、カオス感、多様な価値観、多彩な背景を持った人々をまとめて表現できたらなと。

誰もが気兼ねなく目にできて、訪れることができる場所にあるアート。

ー まるで、美術館などで観るコンセプチュアルな巨大インスタレーションのようですね。

松山:そもそもこんな雑多な場所に、アートピース置くこと自体どうなの? て意見も正直あったんです。例えば、少し雑な言い方かもしれないけど美術館みたいに真っ白い箱の中に置いちゃえば自然と格好良くなる部分ってあるじゃないですか。そこに置いてあるだけでも意味を持たせられるというか。でもここの場合って、本当にこの場所自体を一緒に編集し直さないと光らないんです。だから、ここの場所が持つ特有の臭いのようなものを、もし”香り”として転換できれば、周囲と調和しつつ、いい意味ですごく目立つ場所になるんじゃないかと。色々な歴史的要素が織り混ざった人物像が、この新宿に住まう地元の人、仕事や学校に通う人、引きつけられ集まる人、国内外から遊びに来た人すべてを、この場所で出迎えてくれる。そんなイメージを込めて、このモニュメントのテーマを構築していきました。

ー タイトルにある「花尾 / Hanao-San」という呼び名に込めたものは?

松山:ぼくら日本人って待ち合わせ場所に”ハチ公”とか”モヤイ像”とかネーミングをつけるのが好きですよね。でも新宿にそういう場所ってあまりないなって思ってたんです。アルタ前と言っても広いし、人通りが多すぎてあまり長時間いたくなる場所でもない。あとは、最近海外の方でもメールとかで普通に「~SAN」と付けてくる人が多い。だからその両方を考慮しながら、アイコニックな名前がいいかなと考えたんです。あえて現代アート的なネーミングにしなかったのは、そういう意図がありました。もっとパブリックアートとしての存在にしたかったというか。公共スペースの中で、この「はなおさん」という名前が根付いてくれたら嬉しいですね。

ー 確かにまるでアダ名のような、どこか親近感も湧いてきますよね。

松山:あとは夜になると、このモニュメント自体が周囲の光やネオンを取り込んですごく綺麗なので、ぜひ夜にも訪れてもらいたいですね。この場所が公開されて早々に自身でも夜にふらっと訪れたんですけど、カップルが楽しそうにそこに座って話し込んでいたんです。その光景を見て、たまらなく嬉しくなって。そんな風にこの新宿に往来する人たちの日々の生活の営みが、この場所でも存在していってくれたら、それが自分が一番に望む理想ですね。個人的にオススメなのは伊勢丹側の導線から入って眺めると、このモニュメントの各ディテールが際立って見えてより迫力を感じられるので、自分でも気に入っています。

ー あくまでも、この新宿駅という場所に溶け込んで存在していって欲しいということですね。

松山:そうですね。ぼくも25歳で単身ニューヨークに渡って、もみくちゃにされながら、なんとか名のある大きなギャラリーや美術館で作品が発表できるようになった今思うことは、お金を払ってアートを見ることの素晴らしさと、それと同時に感じる窮屈さなんです。誰もが気兼ねなく目にできて、訪れることができる場所。そういった本質的に公共性のある取り組みに今回参加できて、形を残せたことは自分の中でも大きかった。こうしたパブリックなものをやって行くことが、自分の中で大きなスローガン、テーマになっているので。

アートでインフラを整備する、その意味を知って欲しい。

ー そんな松山さんが今後目指しているもの、理想とは?

松山:このスペースができたことによって、大きな人の導線ができるわけですよね。前はその導線がなくて夜暗くなるとダークな雰囲気が漂ってたんだけど、そこに人の流れができたこと、人が集まるようになったことで次に何が起こるかというと、必ず周辺の地価が上がっていくんです。要するに、その土地に新しい価値がつき始めるということ。アートをこういう場所に置くことで「こんなもの金にならない」っていう人もいるけどそれは全くの間違いで、そこにアートが存在することによって人が集まりだし、そういう流れが起こってくるんです。ぼくが届けたい文化、伝えたいのはそういうことで、それをとにかくみんなに気付いて欲しい。そうすると、綺麗事だけじゃなくて経済的な視点から見ても、アートが街中にどんどんできていくはず。そういった文化によるインフラの整備ってぼくは本気でできると思っているし、アメリカやヨーロッパではそれが当たり前に認知されているんです。ぼくが目指しているパブリックアートってそういう事なんですよね。

ー つまり、アートが街中にあることで経済的なメリットも生まれてくると。

松山:経済と文化はそう行った意味で密接になるべきで、もっとそれに気づく人をどんどん増やしていかなければいけない。それに対する責任は自分にもあると思っています。アートがそこにあって、文化力がその土地に根付いて、イメージアップができると、土地の価値は必然的に上がっていくので。もっとアートでインフラがつくれればすごく面白い世の中になっていくはず。これがアートが持つ、大きな意味での本当のポテンシャルなんですよね。1つのアートが人を変えて、街を変えていける。インフラをつくること自体がたった1つの結果であっても、その先に広がる可能性って無限大ですよね。そのきっかけづくりがアートにはできる。ぼくはそれを実現していきたいんです。コロナ禍の状況でますます先が見えにくい世の中になってきているけど、逆に今だからこそ、社会に何かを提案できると思ってる。何より、ぼくたちみたいなアーティストはもともとアイデアと行動力があるので、こういう状況も得意ですから。

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