Case02_Toshiharu Kaneko(CAL O LINE) 〈パタゴニア〉を知っていれば他のブランドは知らなくてもいい。

金子敏治(CAL O LINE デザイナー)
1973年生まれ、千葉県出身。幼い頃からサッカーを続け、高校は千葉県の名門校に進学。大学在学中にサーフィンに魅了され、以来サーファーとして海へ。大学卒業後はアパレル会社へ就職し、いくつかのブランドに携わったのちに、2015年より〈キャル オー ライン(CAL O LINE)〉をスタートする。
ー 金子さんが〈パタゴニア〉のアイテムを集めはじめたのはいつ頃ですか?
金子:はじめて〈パタゴニア〉を買ったのは1993年か94年くらいですね。当時、大学生だったんですけど、ちょうどアウトドアブームだったこともあり、アウトドアブランドのひとつとして知りました。それからブランドについて知れば知るほど、どんどんその魅力にはまっていたという感じです。〈パタゴニア〉が掲げている理念に対して共感するというか、リスペクトしているという言葉のほうが正確かもしれません。
ー 具体的にはどのような部分に?
金子:やはり自然を大切にしているところでしょうか。創設者のイヴォン・シュイナード自身もサーフィンやクライミングをはじめ、さまざまなアクティビティに精通していますよね。自然がもたらす厳しさや優しさ、地球の美しさというものを大切にしているのを強く感じるんです。〈パタゴニア〉のそういう姿勢がとても心に響きます。
ぼく自身も18歳からサーフィンをやっていて、他のブランドでもかっこいいアイテムがたくさんあるんですけど、やっぱり自分のライフスタイルのなかにあるサーフィンの“ギアを扱っている”というのはすごく大きいですね。以前、誰かが「アウトドアブランドはパタゴニアを知っておけば他はもう知らなくてもいい」って言っていたのを思い出しますね。ぼくはそんな大それたことは言えませんが、一方ですごく共感してもいるんです(笑)。
ー 金子さんがはじめて「スナップT」を手に取ったのはいつ頃のことですか?

金子:最初に買ったのは95か96年くらいだったと思います。ビビッドな色使いのもので、おそらく80年代後半から90年代初頭のアイテムがよく古着屋で出回ってたんですよ。いちばんカラーが激しかった時代ですね(笑)。
ー それからどんどん集まってしまったと。
金子:シンプルに好きなんです(笑)。軽いし暖かいし、洗濯してもすぐ乾く。何よりも丈夫で、多少手荒く扱ってもへこたれないし、劣化も少ないですから。

金子:何よりもこの色使いが好きで。生地、パイピング、ネックの裏に至るまで、普通では組み合わせないようなカラーリングで、これを見るたびに「色の相性や組み合わせなんてなんでもいいんだな」って思わせてくれるというか。ものづくりをしている身として、毎回勉強になります。
一方で、どうしてこのアイテムが開発されたのかということを調べたりもしました。当初はウールのセーターの代わりになるアイテムとして生まれたわけですけど、それで完成ではなく、いまでも進化しているアイテムなんです。生地に使われるポリエステルが環境に悪影響だからリサイクルに切り替えるとか、フェアトレード・ソーイングを採用しているとか、とにかく進化が止まらない。そこに買い続けてしまう理由があるような気がします。
ー 今日お持ちいただいたアイテムの中でいちばん古いのはどれですか?

金子:これですね、胸にフラップポケットがないやつ。調べると、88年以前の初期につくられたものはポケットがないんです。おそらく87年くらいのものです。
どんどん着古していくと生地が毛玉のようになっていい表情が出てきます。一度、ベンチュラの本社に併設されているショップへ行ったことがあるんです。どのスナップTだったか忘れてしまいましたが、スタッフの方がぼくの着ているアイテムを見て「それめっちゃいいじゃん」と言ってくれたことがありましたね(笑)。そうして長く着られるのは、つくりの良さであったり、廃れないデザインがあるという証拠に他なりません。
ー 現行のアイテムも購入されたりするんですか?

金子:しますよ。先ほども話した通り、環境への影響を考えてリサイクルでつくられたポリエステル生地に切り替えたりなど、やはり進化しているところがすごくて。洗濯の最中にポリエステルの繊維が抜けて、それが水に流れると水質にも影響がでるということでウォッシングバッグもつくっていたりとか、隅々まできちんとしていて、本気度が伺えますよね。自分のブランドでもできる限りそうした配慮はしたくて、心がけてはいるんですけど、〈パタゴニア〉の徹底ぶりは本当にすごいです。
それと、毎回カタログを見るのも楽しみのひとつです。自分にとっては優れたアウドドアの写真集としても楽しんでいますし、環境問題がどうであるべきかという指南書でもあるんです。いまのファッション誌ではそうした記事がなかったりすので、〈パタゴニア〉のカタログを眺める時間はそうした状況について学ぶ時間でもあるんです。
ー 今後、〈パタゴニア〉に期待することはありますか?
金子:ぼくの頭の中で考えられることで期待することは何もありません。いつも想像を超えたことをしてくれるので、今後も驚かし続けてほしい。ただそれだけですね。