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New Normal. New Thing. vol.2 クリエイターは、ニューノーマル時代になにを手に入れたのか。
MONTHLY JOURNAL NOV.2020

New Normal. New Thing. vol.2
クリエイターは、ニューノーマル時代になにを手に入れたのか。

ぼくたちの生活にコロナという言葉が飛び交い合うようになって数ヶ月。新しい生活様式と向き合うなかで、意識や価値観が変化した人も多いことでしょう。前向きにとらえれば、自分らしさを見いだせる、いい機会なのかもしれません。それは、お金の使い方にも言えることで、誰もが本当に良いものだけを買いたいと思案しているはず。そこで目利きのクリエイター4人を訪ね、消費動向や心境にどんな変化があったのか伺ってみました。新時代の方位磁針となるのは、意外と身近なモノなのかもしれません。

  • Photo_Masaru Katou
  • Text_Shogo Komatsu
  • Edit_Shun Koda

PROFILE

伊勢春日

東京都出身。2014年、中目黒にアートギャラリー「ボイルド(VOILLD)」を設立し、ディレクター/キュレーターとして活躍。アートに関連する展覧会の企画やディレクションを手がけ、アーティストやクリエイターを集結させた「TOKYO ART BAZAAR」などもプロデュースする。その活動を追えば、アートの自由さから感性を刺激され、生活に寄り添う身近な存在と気づかせてくれる。

一点もののアート作品から伝わる緊張感。

ー コロナ禍を経て、買うものに変化はありましたか?

伊勢: 以前は消耗品にもお金を掛けていましたが、今はどちらかと言うと、残るものにお金をかけるほうに、比重が大きくなりました。極端な話ですけど、自分が亡くなったあとを考えてみると、残るものなら誰かが私の想いを受け継いでくれるのかな、って考えるようになったんですよね。

ー 今まで以上に、アート作品に対する価値観が高まったということですね。

伊勢: 好きだし、職業柄もあって、アート作品はずっと買い続けていますが、視野が広がりました。例えば、身につけたり、外に持って行ったりするものって、目的となる人や場所の対象があって、成立すると思うんですよ。でも、作品は自分だけが向き合える。そういう意味では、家でひとりっきりでも楽しめる。だから作品を見ていると、買ったときのことを思い出したり、元気をもらえたりもできます。

ー 最近購入した作品で、特にお気に入りを教えてください。

伊勢: 加賀美健さんを代表する作品のひとつ「ミルクマン」です。ずっと欲しくて探していたら、オークションに出品されていたので、本人に許可をいただき購入しました。頭にイチゴ、おしりにバナナが刺さっていて、本当にユニーク(笑)。見るたびに前向きな気持ちになります。加賀美さんの商品やステッカーは持っていますが、ちゃんとした作品を手に入れたのは、これが初めてです。

2000年に誕生したキャラクターで、貯金箱やTシャツにもなって親しまれる。アメリカのバンド「ディアフーフ(Deerhoof)」がミルクマンからインスピレーションを得たアルバムをリリースし、そのジャケットを飾った。

ー 実際に手に取ってみて、いかがですか?

伊勢: 緊張感が伝わってきます。気軽に購入できるプロダクトもいいですけど、作品は一点ものだから、所有する側にも飾る緊張感があります。アーティストが費やした時間を買ったような感覚で、当時の加賀美さんが向き合っていた空気も感じられます。

アーティスト・BIENさんによるドローイング作品。

加賀美 健さんと平山昌尚さんによる共作

額装するだけで、魅力が倍増。

ー そのほか、購入してよかったものは?

伊勢: アートディレクター、グラフィックデザイナーの高田 唯さんが、最近個展を開催されていて、これまでとは違った新鮮な手法の作品を展示していたんですよ。それがとても素敵で、欲しかったんですけど、作品は販売されていなくて。でも、グッズとしてステッカーがあったので、購入して額装しました。

ステッカーは二つ折りで、ミシン目が付いていたため、セパレートして額装。シルバーのステッカーに合わせた額が一体感を成している。フレームも作品に合わせて、コーディネートされていた。

ー 額装するだけで、ステッカーも立派に見えますね。

伊勢: アートのとらえ方は、人それぞれの感覚だと思っています。例えば、ほかの人にとっては無価値に見えるものでも、自分が輝いて見えれば価値のあるアート作品。私、好きなものはなんでも額装するんですよ。すると、さらに魅力が際立つんですよね。自粛期間中、少し時間があったので、いろんなものを額に入れてみました。すると、目に触れる機会が増えて、作品も生き生きとして見えるようになりました。

ー 好きなものを目にすると、日々の暮らしも豊かになりますよね。

伊勢: アートは、癒しと刺激を与えてくれて、生活を豊かにしてくれる大事な要素だと思います。日本はまだ、アートを飾ることに馴染みが薄いかもしれません。でも、海外だったらいい家具を買うような気軽さがあるんです。特別なことではないので、お花を買うくらいの感覚で生活に取り入れてもらえたらと思うんです。

ー 飾り方を考えるのも楽しそうですね。

伊勢: 配置する場所や、作品同士の組み合わせによって、さらによく見えたりもしますからね。飾る場所を変えるだけで模様替えにもなります。作品を購入することで、直接的にアーティストの支援になる部分も大きいですし、そういうお金の使い方って有意義でいいですよね。

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