ラグジュアリーのエリアだと、価値の転換が起こる。
ー 皆さんの関係性がようやく掴めました。「SKWAT」という活動は、端的に説明しづらいと思うんですが、改めて「SKWAT」はどんなプロジェクトか教えてもらえませんか?
中村:
もともとは、「東京五輪」を見据えたプロジェクトでした。「オリンピック」が終わったら、空き家問題をはじめとした街が空白化するレガシー(遺産)問題があります。それに対して、ぼくがやってる「ダイケイ・ミルズ」としてどういうアプローチを取れるか考えた時に、空き家を占拠して、そこでコンテンツをつくり、いろんなコラボレーターと交わり、新たな文化をつくっていくというようなことを考えて、まずスタートしたのが「トゥエルブブックス」とやった最初のお店ですね。
「SKWAT」には「最小限のやり方で最大限のパフォーマンスを出す」という考えがあって、無駄を出さないとか、すでにあるものを利用するとか、そういう思想のもとでコンテンツをつくっていく。それはソフトもハードもそういう思想でやってます。「SKWAT」は場所でもあり、思想でもあり、チーム名でもありという形がないようなものなんです。


「SKWAT」の第一弾は今年2月。東京・原宿のクリーニング屋だった建物を使用し、「トゥエルブブックス」がアート本を販売。遠目からでも分かる青の外観が印象的だ。
ー ここ青山に来たのはどうしてでしょうか?
中村: もともと一軒目の原宿のクリーニング屋のスケールで終わらせる気はさらさらなかった。ぼくたちは文化としてのアートや、社会に対してのメッセージみたいな反骨精神は常に持っていて、コロナで社会状況が変わっていくなかで何ができるのかと。当初から、こういうど真ん中で、価値を転換することが何かできないかなと思ってました。そうしたら想像以上に展開が早く進んで、ここに来たわけです。

ー 最初から大きな目標としては、こういう中心地でやることを考えていたと?
中村: むしろそこをメインに考えていました。
濱中:
ある意味、原宿という場所は中心地で、もともと「バカント」もあのエリアでスタートして、文化の中心地になっていたと思うんです。原宿の一箇所目のあの場所は、当初中村が見つけてきて、そこで何かやろうってなった時に、それはそれでひとつの中心地だと思いました。その後、いろんな縁でこの青山の話になった時も、ますます東京の中心だなという感触がありましたね。
原宿の場所ではじめた時に「このくらいのスケール感でこの感じでやるのが『SKWAT』なんだね」っていう固定概念をつけたくないと考えていました。そのなかでこの青山の話が来た時、現地に来て、デカいスケール感でも同じ精神性とクオリティでつくれる良いチャンスになるとお互いが同意したんです。
同時にこのサイズ感を守ろうとするわけではなくて、まためちゃくちゃ小さいサイズ感だったり、数日で終わるような活動をしていくことで、「SKWAT」の活動を見ている人たちが、スケールとかに囚われないいろんなことをやっていく集団なんだなって面白く見てくれるんじゃないかと。
中村: 価値の等価という精神でやっていて、あまりスケール感とか関係ない。むしろラグジュアリーブランドが並ぶエリアでやれると、価値の転換が起こるっていうのはチャンスだなって思っていて、そういう意味でもここは必要な場所なんです。
ー 「バカント」での反省点や学んだことで、「SKWAT」に活かされてることってありますか?
中村: クオリティ、思想をはじめ、無限にありますね。「バカント」をはじめた時は、当時23、24歳で、ホント何も考えてなかった。ただ楽しいことだけを追っていた。それはそれで良かったんですけど、持続させていくとか、これをどういうスケールでやっていくかとか、そこまでは考えてなくて。
濱中: その場のノリばっかりだった。脈絡が無かった。ただ脈絡は無いけど、みんながいろんなものを突っ込んでた感じは、自分たちのなかではカオスで面白いかなと思ってましたけどね。いま思うと計画性も無いし、大きなビジョンも無いまま感覚でやってたのかなって。いまも根本の精神性は変わってないんですけど、より社会の状況を考えながら、自分たちがどう動くべきなのかという視野は広くなりました。
ー 「トゥエルブブックス」は、ここに事務所ごと入られてるんですよね?
濱中:
空間を「SKWAT」と一緒につくろうってなった時に、「トゥエルブブックス」の基本事業は、書店に卸しをする代理店業務なので、決して書店をつくろうとは考えず、あくまで代理店業務という基本事業をできる限り空間として面白く落とし込んで、一般開放する。それが結果的に書店という見え方になるようにつくろうって話をして。
基本的にここはショールームであり、在庫も全部ここに出しているので倉庫でもあり、一般の方にとっては書店のような見え方にもなるので、来る人ごとでスペースの果たす機能が変わるっていうのを意識してつくりました。なので、書店的な視点でセレクトしてるわけではなく、国内代理店として卸せるものだけがここに置いてあります。


「トゥエルブブックス」の事務所、ショールーム、本の倉庫などさまざまな顔が交錯する空間。代理店の在庫本としてのアートブックが1,000タイトル以上、2〜3万冊揃い、来場者は自由に閲覧できる。内装は簡素。蛍光灯が吊るされた天井はダクトがむき出しだが、それすら格好良く見えるから不思議だ。
ー 種類で言うとどれぐらい?
濱中: 1,000タイトル以上、在庫でいうと2、3万冊はあると思います。
ー POPもなく、利用者が自由に手に取って見るという形ですか?
濱中: 新入荷とかレコメンドとか、極力出さない陳列にしています。一般的な書店は新しいものが目立つように置かれますけど。それはひとつのビジネスとして良いとは思うんですが、新刊だけを追ってるお客さんばかりではないですし、本には賞味期限もないので。売る側の考え方次第ですし、新しく入ったものだけを見てもらうって考え方はしていません。新しい本は入ってきますけど、アーカイブとして在庫を持ち続けますし、在庫があれば需要があるところに卸せるので、そういう意味でアーカイブもしっかり見てほしいと思っていました。
ー 一階に〈ルメール〉が入った経緯は?
濱中: この青山で「SKWAT」をやろうってなったとき、この場所のポテンシャルを考えると、自分たちだけじゃなくて、「SKWAT」の活動に興味を持ってくれる方との協業をもう少し積極的に考えてもいいんじゃないかなって話があって、事前にスケルトンの時から見に来てもらって、何か一緒にできないかと何人かに声を掛けていて、(〈ルメール〉のPRを担当する「エドストロームオフィス」代表の)淑子さんもその一人。それで見た瞬間にとても良い反応をして下さって、それがきっかけですね。


「エドストロームオフィス」がPRを手がける〈ルメール〉のショップは1階。以前から東京で出店することを考えていたデザイナーのクリストフ・ルメールとサラ リン・トランが「SKWAT」の考えに賛同し、ショップを出すことに。大阪にあった築100年の古民家の廃材が使われた什器など、「SKWAT」らしい手腕が光る。