たとえ損してでもやる。
ー 「オリンピック」関係でいろんなところから設計してくれ、本を卸してくれ、写真を撮ってくれとかお三方にオファーがあったと思うんですが、大きな不動産のスケールでやるよりも、自分たちの手の届くこれくらいのスケールでやっていきたいという考えがこのプロジェクトの根幹にあるんですか?
中村:
そもそも、「オリンピック」関連で巨大な施設やホテルの仕事は溢れているはずなんですけど、一件も無かった。でも、それはある意味ラッキーなことかもしれないと捉えてるんです。多くのプロジェクトが、コストを極端に抑えながら異常なスピードで建て、その後の街の在り方はどうなのっていう、未来への問題にあまり目を向けていないようなプロジェクトだと感じていて、そこには少し疑問があって。
そういう考えがあったことで仕事はなかったんでしょうけど、まずは自然な流れで、自分たちらしく色濃くできるスケールのなかでやるっていうのを考えていました。たださっきも言った通り、小さいところにこだわりがあるわけではありません。たまたまそこに表現できる可能性があったからってことです。

ー このプロジェクトは分かりやすいビジネスじゃないので、収益の出し方が難しいと思います。答えづらいかもしれませんが、プロジェクトのお金周りの部分はどのようになっているんですか?
中村: 逆にどう思われますか?
ー クライアントワークとこのプロジェクトを分けて、前者の分をこちらにうまく回されているのかなと思いました。
中村: いまはそんな感じですね。
濱中: 「ダイケイ・ミルズ」「エドストロームオフィス」「トゥエルブブックス」もそれぞれ事業というのがもちろんあるので、基本的には各自やっています。ただ、はっきり「SKWAT」は「SKWAT」、「トゥエルブブックス」は「トゥエルブブックス」という風に分けてるわけではない。そのバランスを取りながらやっているところはありますね。「トゥエルブブックス」で収益を上げて、「SKWAT」に入れてということでもないです。
中村: 結果、いまはそうなってますけど、それで終わらせる気はない。ちゃんと全部がビジネスとして回るようにっていうのは考えてますが、ビジネス先行ではなくて、やりたいこと先行っていうのは変わらないですね。
牧口: これは二人にとっては作品なんだよね。表現活動だから。
濱中: 商業のためにモデルルーム的にやってるわけではない。
牧口: 損してでもやるはずでしょ?
濱中: そう、実際にマイナスの部分もあるから。最初は自分たちが考えてることや表現したいことを、誰かに提案して誰かの場所で誰かのお金でやらしてもらうってことができずに、そういうことに対するフラストレーションがありました。そこで、自分たちで場所を構えたりとか、こういう形で表現するしかないっていうのもきっかけでした。
中村: フェティッシュみたいなものですよね。やらないと気持ち悪いレベル。「やっちゃったけどお金ないね」みたいな感じ。ただそれを帳尻合わせられるって信じてる。
濱中: ビジネスも含めて、自分たちの経験値が上がったので、何かしらやりくりはできる。それすらもショートする可能性もありますけど、最終的には「やるんならやり切ろう」ということになる。
中村: 淑子さんも多分そうだけど、良いって思ったものにどれだけ邁進できるかってこと。あんまりそういう人は、いないじゃないですか。
牧口: 濱ちゃんは好きなものに対する没入感がすごいよね。これって決めたら、ブアーっていく。


ー みんなそういう没入感は欲しいけど持ってないですよね。好きなことが見つからないなんて言われている時代ですから。
中村: いま「SKWAT」に関わっている人間は、没入感が強いというのが唯一の共通点かなと。
ー この場所は、立ち退かないといけない時期は決まってるんですか?
中村: 現状は2021年3月までという契約です。ただ、延長するかもしれないしそうでないかもしれない。その辺りも含め「SKWAT」の面白さかなと思います。