時代に合わせて“整える”ということ。
ー 〈LE〉が発足してから1年半が経過して、つくるもののクオリティが上がっている感触はありますか?
金子: 生産チーム含めて4、5人くらいでやっているんですが、その連動が良くなっている感覚はあります。最初から妥協したものづくりはしていないので、仕上がりは常に一緒なんですけど、意思伝達がスピーディになっていますね。みんな目指す方向が一致するようになってきたんです。
ー 目指す方向というのは?
金子: 〈LE〉のアイテムには、世の中にこういうアイテムが足りていないからそれを埋めようというアイデアが盛り込まれています。その理解の一致ですね。初めにシャツをつくったときも、身幅と着丈の組み合わせで9サイズつくって、普通は非効率だからそういうのをやりたがらないんです。でも、みんながその意思を理解してくれて、多少無理を言っても「やりましょう」と一緒に船に乗ってくれる。手間がかかることでも、やろうっていうムードになってるんです。
¥55,000+TAX SIZE:1,2,3
ー ショップのオリジナルアイテムで、そうした非効率なことをやるのは珍しいですよね。
小森: オリジナルで思い出したんですけど、とあるセレクトショップのオリジナルを見に行くと、いつもよくできているなぁと思うんです。誰が着てもかっこよくなる服をつくっていて。それに対して〈LE〉は、すごく地味なんです。だから〈LE〉が売れているという話を聞くと、お客さんはみんなあえて普通のものを選んでいるのか、金子さんのマジックにかかっているのか分からなくなります。客観的に見ると、そのセレクトショップのアイテムのほうが時代感がきちんと反映されているのは明らかなので。
ー よりトレンドが意識されているということですか?
小森: そうですね。でも見方をお店単位にすると、デザイナーズとオリジナルの区別がつかないんです。全部同じような感じに見えてしまう。一方で〈LE〉は、本当に昔ながらのショップのオリジナルになっていて。
ー もともと「レショップ」は定番アイテムを主食と捉えて、それに合わせるお惣菜的な服をセレクトするお店としてスタートしたんですよね。そこから時を経て、〈LE〉を始動する際のこのインタビューでは、「『おいしいご飯も置かなきゃな』というのが頭の片隅にずっとあった」と金子さんが仰っています。
金子: そうですね。実はおいしいお米があんまりないということに気づいて。それなら自分たちでつくるしかないと。
ー つまりはセレクトショップのオリジナルアイテムが、どんどんデザインコンシャスになってきていて、お惣菜的になってきていると。
金子: そうですね。ぼくらがやっているのはデザインではないんです。今の時代に着てもいいアイテムを紹介している感覚なんですよ。だから、間違っていないというか、今の空気からズレないものを提案していて。


ー 時代の空気には敏感だけど、トレンドを意識しているわけではないですよね。
金子: そうですね。そっと馴染むようなものを意識しています。だから何も考えずに着てもらっても、ズレることはないかなと。なおかつ、時代が変わっても色褪せることもないはずです。他のセレクトショップのオリジナルアイテムは、時代が変わることでどんどん古臭くなっていくと思うんです。小森さんもプロダクトをつくることに意識を集中していて、ニュアンスとか雰囲気というのは抑えてもらっているんです。
小森: 僕はいじらなくてもいいものは、いじらないんです。とはいえ、今回のダウンのように元ネタを見てみると、いじるところがたくさんあったりして。
金子: だから整えるっていうことですよね。〈LE〉がやっているのは、時代に合わせた調整なんです。小森さんはその適任者ですよね。僕の物語からアイデアが生まれるんですけど、それを具体的にどう仕上げるかという部分で、具体案はないんです。それを形にしてくれるのが小森さんの役割で、アイデアを投げたら、あとは細かいことはあまり言わずに小森さんに任せるっていう。
小森: でも、まったく直さないときもありますよ。バルカラーのコートなんて生地を提案しただけで、何もやってないですから。
金子: それでもいいんですよ。ちゃんと小森さんのフィルターを通すことが重要だと思っているので。

ー そのお二人の信頼関係が自然とできあがっている感じがすごいですね。それはすごく感覚的なことだと思うんです。
小森: でも、未だになにが正解かはわからないですよ。〈コモリ〉をやっていても、「これは金子さんが良いっていうだろうな」なんて思わないですから。金子さんが考えていることは想定できないんです。
金子: それが20年以上続いているよね(笑)。でも、僕も小森さんの予想を超えていきたいんです。小森さんに新しい価値を吹き込むことをしていかないと、一緒にできないと思っていて。むしろ、小森さんの想定内のものしか提案できないなら、僕がいる必要性がなくなるというか。
小森: 金子さんが「これ欲しいな」っていうのが、あるかないかだと思いますね。無理やり絞り出してやってるわけではないですもんね。絞り出さず、ふと自然に出てくるからいいのかな。ノルマがあると、どうしても無理矢理アイテムをつくっちゃうじゃないですか。最初のはいいけど、残りは気持ちが入ってない、みたいな。そうなるなら、残りのやつはいらないんじゃないかって僕は思っちゃうんです。
金子: 一応、きちんと決められた予算があるんですけど、誰もそれをプッシュしてこないので、本当に思いつきベースでつくっています。だからめちゃくちゃ不安定な供給になってしまうんですけど…(苦笑)。

左が新色のブラック、右が10月に発売になったネイビー。
ー だからこそ安定したクオリティーでものづくりができるというメリットもあります。今までリリースしたアイテムはどれもらしさがあるし、「レショップ」という屋号のトーンに合ったものづくりがされていますよね。
金子: 「レショップ」は店舗数もそこまで多くないですし、少数精鋭だからこそできるというのはあるのかもしれません。
ー より個店に近い感覚がありますよね。
金子: 一方ではベイクルーズという大きな組織の下でやっている分、生産背景がしっかりしているから、というのもありますね。アイデアを形にするのに、時間がかかってたらお客さんに伝わりづらくなっちゃうじゃないですか。でも今はアイデアが生まれたら最短3ヶ月くらいでできちゃうものもあるんです。そうしたスピード感があるからこそ、お客さんに生で伝わるのかなと思います。