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コロナ禍における美術の動き。それぞれの立場から見た2020年のアートシーン。
TENDENCY in ART

コロナ禍における美術の動き。それぞれの立場から見た2020年のアートシーン。

未曾有の事態に苦しめられた2020年。「おうち時間」「Stay Home」という言葉がSNSの流行語大賞にも選ばれたように、今年は自身の生活を見つめ直した人も多いはず。そんな中、家に好きなアーティストの作品を飾り、アートを楽しんだ人も多いのではないでしょうか。とはいえ、アート業界も厳しい時代を迎えたことに変わりはありません。そうした時代において、当事者たちはどんなことを思いながらこの年を過ごしたのか。アーティスト、ギャラリー、コレクター、それぞれの立場から2020年のアートを振り返っていただきました。

  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

Case 01_Artist 中村穣二 時代や流行に左右されることなく作品をつくる

中村穣二
1974年生まれ。画家としての活動をベースにしながらも、様々なアーティストとのプロジェクトやグループ展も企画。また、ブックレーベル「K.M.L. BOOK」の運営も行う。
Instagram:@joji_nakamura

ー 2020年はどんな年でしたか?

中村:今年は予定していた展示がキャンセルになったりと、大変な年でした。

ー 3月に六本木の「CLEAR GALLERY TOKYO」で個展をされていましたよね。

オランダで開催されたグループ展のフライヤー。中央にあるのは中村さんの作品。

中村:そうですね。でも、会期中にコロナがどんどんひどくなってきて、途中で中止になってしまいました。5月にはオランダでのグループ展があって、ぼくも現地に行って参加する予定だったんですが、作品だけ送る形になってしまいましたね。そのグループ展のあとに現地のアートフェアにそのまま展示する予定だったんですが、それも結果的に中止になってしまって。

ー 中村さんの作品は主に海外で人気があるそうですね。

もともとは線画を描いていた中村さん。そこからモノクロのペインティングをスタートし、ここ数年でカラーの作品を描くようになった。

中村:そうかもしれません。過去にフランスでも作品を展示して、現場で見てくれた人が買ってくれましたね。あとは3月に個展をした「CLEAR GALLERY TOKYO」を介して、「ARTSY」というサイトで作品を販売しているんですが、そこではドイツやチェコ、メキシコの方々がぼくの作品を買ってくれました。今年も問い合わせがあったんですけど、コロナがどんどんひどくなって連絡が途絶えてしまって。気分的にアートにお金を払う気にならないっていう人も多いように感じます。

ー それでも中村さんのインスタグラムを見ていると、コンスタントに作品を描いている様子が伝わってきました。

中村:そうですね。ぼくは自宅で作業しているので、その点は変わらずです。コロナを気にしてないといえばウソになるけど、気にしてもどうにもならないと思っているところもあります。もちろん自分ができることはするけど、気を揉んで手を止めてしまうのはどうかなという気持ちです。誰でもそうかもしれないけど、もともと発表する場がないときからぼくは描いていたから、いまはその頃に戻っているというような感覚。その頃の辛さをすでに味わっているから、当時に比べれば知っているぶんいまのほうがマシかなとは思います。まぁ戻りたくはなかったですけどね(苦笑)。

ー 他のアーティストの展示は見に行かれましたか?

中村:あまり行ってないんですが、五木田智央さんとバリー・マッギーの展示は印象に残っています。ふたりとも交流があって、歩んできた道が見えるというか、ここでこういう作品を出すんだっていう見方ができてとてもよかったですね。

最近は生き物のような作品を多数描いている。動きのある質感に躍動感が見られ、命が吹き込まれたかのような感覚を覚える。

ー ご自身の作品との向き合い方について考えることはありましたか?

中村:仲のいい写真家の題府(基之)くんが最近、ツイッターで「芸能人みたいなアーティスト、アーティストみたいな芸能人」とつぶやいていて、それって今年起こったことを集約しているような気がしました。アートがここ数年でファッションや音楽との繋がりを強くしたと思うんですけど、すこし過剰な盛り上がりというか、トレンディなもてはやされ方をしているように感じます。そうした現象はしょうがないといえばしょうがないし、アートを手段に有名になりたいという若い子たちがでてくるのも悪いことではないと思う。

ただ、一方ではずっとコンスタントにやり続けているアーティストもいて、そうしたシーンとの乖離みたいなのものを強く今年は感じました。ぼくは絵を描きたいから描いていて、ただそれを繰り返しているだけ。そうゆうことを今年はよく考えました。ちゃんとしたアーティストにはそれぞれの道があって、時代や流行に左右されることなく作品をつくるだろうなぁ、と。ぼく自身もそうした道を歩みたいな、と強く思ったというか。

ー そうした盛り上がりが、若い人たちの活躍の場を広げることに繋がればいいですよね。

中村:そうですね。一過性のブームで終わらせずに、その先にあるものを見据えながら一緒にやっていくことが大事だと思います。若い人たちの作品をコレクションするコレクターがいて、その人たちがきちんとキャリアアップしていくやり方ができればいちばんいいですよね。

ー 2021年はどのような年にしていきたいですか?

作品は筆などを使わず、手で直接描かれる。それが作品に躍動感を与えている。

中村:じつはフランスのギャラリーに所属することが決まったので、それは自分にとって明るいニュースです。まだまだ状況が見えないのでなんとも言えないですが、パリでの展示も決まっていて、状況がよくなればぼくも現地へ行って数ヶ月滞在する予定です。国内では長崎で展示をおこなう予定があります。あと、立体作品にも挑戦しようと思っています。来年はいい年になるといいな!

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