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コロナ禍における美術の動き。それぞれの立場から見た2020年のアートシーン。
TENDENCY in ART

コロナ禍における美術の動き。それぞれの立場から見た2020年のアートシーン。

未曾有の事態に苦しめられた2020年。「おうち時間」「Stay Home」という言葉がSNSの流行語大賞にも選ばれたように、今年は自身の生活を見つめ直した人も多いはず。そんな中、家に好きなアーティストの作品を飾り、アートを楽しんだ人も多いのではないでしょうか。とはいえ、アート業界も厳しい時代を迎えたことに変わりはありません。そうした時代において、当事者たちはどんなことを思いながらこの年を過ごしたのか。アーティスト、ギャラリー、コレクター、それぞれの立場から2020年のアートを振り返っていただきました。

  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

Case 03_Collector 横町健 「若い作家を応援したいという気持ちが強い」

横町健
1973年、東京生まれ。2008年に内装デザインを手がける「アネアデザイン」を立ち上げると同時に、自身がオーナーを務める「アネアカフェ」をオープン。2014年には塊根植物をはじめとしたエキゾチックプランツのセレクトショップ「ボタナイズ(BOTANAIZE)」もスタート。プライベートではアートを収集し、さまざまな作品を所有している。

ー 2020年はどんな年でしたか?

横町:コロナの影響で今年開催しようとしていたイベントが白紙になったりと、大きな打撃を受けた年でした。ぼくの会社では飲食と植物の販売をしているのですが、飲食はとくに強い影響を受けました。一方で植物のほうはというと、おうち時間を充実させようということで、オンラインで売り上げが伸びていたのが救いでしたね。それもアートに通づるというか、家にいる時間が長くなると身の回りのものもを豊かにしたいという気持ちが芽生えるのでしょうね。

ー 横町さんご自身もそうした身の回りの品物に目が向きましたか?

横町さんが語る“例の部屋”の様子。コンクリート打ちっぱなしの部屋にアートが飾られ、まるでギャラリーのようなムード。

横町:思いっきり向きました。今年はたくさんのアート作品を購入したんです。植物の販売をはじめたのも、好きで集めていたという理由が大きいんですが、数年前に一度舵を切り直して、プライベートで収集するのをやめたんです。そしてその欲をアートやフィギュアで発散するようになりました。自分のアートを飾る場所があって、ぼくは“例の部屋”と呼んでいるんですが、そこに作品を集約しています。

ー 今年は何点ほど作品を購入したんですか?

横町:今年だけでいうと50点弱は買っていると思います。

ー そんなに! すごいですね。

横町:鑑賞することで心を満たすというのはもちろんですが、自分の好きなカラーを持った作品を身の回りに置くことで、所有欲が満たされます。そして、自分の好きなアーティストの作品を買えた満足感もありますよね。そうした欲が自分の場合は強いのかもしれません。同じ作品でも、カラーバリエーションがあると、全色揃えないと気が済まないんです。

ー どんな作品がお好きなんですか?

松浦浩之さんによる『THE APPLE』は横町さんのお気に入りの作品。シルバーのリンゴをかじっているのがユニーク。

こちらは針谷慎之介さんの作品で、横町さんおすすめのアーティストによるもの。

横町:有名なアーティストの作品よりも、ネクストブレイクするような若い作家さんの作品をよく買っています。あくまでそれは傾向で、大前提として自分の好みのテイストを持った作品を購入するようにしていますが。その上でいろいろアンテナを張って、まだ無名のアーティストだったり、学生さんでアーティストと名乗ってない方も参加されているような個展やグループ展によく足を運んでいますね。

ー 若い作家さんをサポートしたいというお気持ちもあるのでしょうか?

横町:そうですね、応援したいという気持ちが強いです。自分がインスタグラムなどで発信することで、誰かの目に留まって活躍の場が広がる可能性もゼロではないと思っています。実際にぼくが作品を買ってSNSでアップしたところ、その後に作品が完売したアーティストもいました。

ー オンラインで作品を購入することはありましたか?

横町:いくつか買うことがありましたが、基本的には対策を万全にしつつ、展覧会に足を運んで購入しました。これまでに比べると少ないんですが、今年は月に1回か2回はどこかの展覧会に行っています。やっぱりそうしないと質感やサイズ感がわからないので。でも、今後どんどんオンラインは進みそうな気がします。

ー 今年購入された作品でお気に入りのものを3つ教えてください。

横町:こちらは雪下まゆさんという方の作品です。先月、渋谷のトランクホテルでおこなわれていた展覧会で購入しました。歯を矯正しているパンキッシュな作品がぼくの好みのドンズバで、ただ見に行こうと思っていた展示だったのに、一目惚れしてすぐに購入してしまいました。作品が3つ展示されていたんですが、すべてエディションが5つしかなく、ひとつだけ買えなかったのが悔しかったですね。

横町:もうひとつはLOTTAさんの作品です。ぼくは袋を被っていたり、目出し帽だったり、ちょっと怪しい雰囲気なのに、どこか可愛らしさを感じる作品が好きで、これもそうした好みにピタリとハマって購入しました。LOTTAさんはもともと水彩画や線画を中心に描いていたそうで、今回はじめてこういうテイストにしたと言っていました。キャラクターを描くのが上手で、今後ブレイクしそうな予感を感じています。

横町:最後は今年買ったものではないんですが、Wrongworksさんという香港のアーティストの作品を紹介させてください。2013年に購入したんですが、最近額装したらとてもいい感じで気に入ってしまいました。某キャラクターを、これまた某ブランドの柄で表現したもので、そのユーモアのセンスに惹かれましたね。Wrongworksさんは実はもうアーティスト活動をやめてしまったんですが、先日この作品をインスタグラムにアップしたところ、ご本人が反応してくれて、「また描こうかな」なんて話していたので、今後の動向が気になります。

ー 今年アートシーンで起こったことで、横町さんが気になったことはありますか?

横町:セカンダリーマーケットの加熱がすごかったことでしょうか。とあるギャラリーの方からは、どなたの作品かは知りませんが「プリント作品が原画の値段を超えてしまった」という本末転倒な話も聞きました。日本ではとくにそうした傾向が強いそうです。それでアートが盛り上がってアーティストの評価も向上すればいいんですが、誠意あるコレクターやファンの方々のもとに作品が届きづらくなっている現状を思うと、もどかしさは感じます。

「100人展」で横町さんが推薦したというSIVELIA- HNDさんの作品。「実は10年前にも一度お会いしたことがあって、運命を感じました」と横町さん。

ー 最後に、今後アート業界はどうなっていくと思いますか?

横町:いま話したように、セカンダリーマーケットの異常な加熱っぷりが今後も続くのかなと思います。オンラインでの動きが活発になればなおさら有名アーティストの人気が上昇するでしょうし、その反面、これからがんばろうとしている若手作家の活躍の場が減ってしまいそうで心配です。今年、日本アートテック協会という団体が主催する「100人展」という展覧会が開催されました。ぼくはセレクターを務めたのですが、そこでは100人のアーティストが参加して、展示された作品は一律10万円で販売され、売れたら満額がアーティストに還元されるという内容でした。今後はそうした機会がもっと増えるといいですよね。そうすれば若手アーティストもやりがいが生まれると思うので。

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