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コロナ禍における美術の動き。それぞれの立場から見た2020年のアートシーン。
TENDENCY in ART

コロナ禍における美術の動き。それぞれの立場から見た2020年のアートシーン。

未曾有の事態に苦しめられた2020年。「おうち時間」「Stay Home」という言葉がSNSの流行語大賞にも選ばれたように、今年は自身の生活を見つめ直した人も多いはず。そんな中、家に好きなアーティストの作品を飾り、アートを楽しんだ人も多いのではないでしょうか。とはいえ、アート業界も厳しい時代を迎えたことに変わりはありません。そうした時代において、当事者たちはどんなことを思いながらこの年を過ごしたのか。アーティスト、ギャラリー、コレクター、それぞれの立場から2020年のアートを振り返っていただきました。

  • Text_Yuichiro Tsuji
  • Edit_Yosuke Ishii

Case 02_Gallery MISAKO&ROSEN 「『オンライン・レボリューション』が起こった年」

ローゼン美沙子&ジェフリー 
Photo: 森本美絵

MISAKO&ROSEN
2006年にオープンした、東京・大塚にあるアートギャラリー。リチャード・オードリッチ、有馬かおる、南川史門、加賀美健、題府基之など、国内外のアーティストが所属し、海外のアートフェアにも多数参加している。今回はギャラリーのオーナーであるローゼン美沙子さんがインタビューに応じてくれた。
www.misakoandrosen.jp/
instagram:@misakoandrosen

ー はじめに「MISAKO&ROSEN」がどういったギャラリーなのか教えてください。

ローゼン美沙子:今年でオープンして14年なのですが、徐々に自分たちらしいコンセプトを構築してきました。いまは「『MISAKO&ROSEN』といえば」というテイストがきちんと打ち出るようになったと思います。

加賀美健「アブストラクション」
展示風景 2020年 MISAKO&ROSEN
Photo:KEI OKANO

10月から11月にかけておこなわれた加賀美健さんの展示。抽象画をテーマに開催された展示は、加賀美さんらしいユーモアを感じる内容だった。

ローゼン美沙子:それを一言で表すのは難しいのですが、加賀美健さんやトレバー・シミズさん、あとはC&K(COBRA&加賀美健)といったコメディの要素がある作品を展示するアーティストがいれば、一方では抽象的な側面のある作家もいたり、あとはペインティングにすごく集中している作家もいて、多方面で色がでていますね。

ー お客さんはどんな方が多いですか?

ローゼン美沙子:いろんな方がいらっしゃいますね。ものすごい富裕層の方や、普通にいつもお勤めしているサラリーマンコレクターの方もいらっしゃいますし、アカデミックな面でいえば美術館に作品を売ったりすることもあります。海外にも日本にもコレクターさんはいます。

ー 2020年は、アートギャラリーにとってはとくに大変な年だったと推測するのですが、今年はどんな年でしたか?

ローゼン美沙子:「オンライン・レボリューション」が起こった年だと思います。要はなんでもオンラインになってしまったなと。設営の際に作家が来れないからリモートで指示をもらったりして。私たちはベルギーにもスペースを持っているんですけど、行くことができないから、それもオンラインで「もうちょっと右!」みたいに現地にいる人たちに指示をだして設営をしてもらいました。あとはお客さんが来られない時期はオンラインで作品を紹介したり。

ー 仕方ないといえばそれまでですが、どうしてもやりにくさを感じてしまいそうですね。

ローゼン美沙子:やりにくいし、そんなにもう楽しさも感じませんでした。作家を呼べないということは経費もかかりません。でも、いままでどうしてそこに経費をかけていたかというと、一緒に作業をしたかったし、海外のアーティストなら日本に来て欲しかったからなんです。だから寂しいですよね。それは作家自身も自分の個展を見れないということだから。

パウロ・モンテイロ「A red of blood and fire and some everyday works」
展示風景 2020年 MISAKO&ROSEN
Photo: KEI OKANO

リモートで設営をおこなったという展示。空間を上手に生かした配置を眺めていると、リモートで設営をすることがいかに大変であるかは想像するに容易い。

ローゼン美沙子:4月にパウロ・モンテイロというブラジルのアーティストの展示をおこなったんですが、彼も来られるようにギリギリまでねばったんですが、最終的には来ることができず、展示だけをおこないました。

日本にいる作家さんもそんな感じでした。有馬かおるさんという石巻市の作家さんは1日だけ東京へ来て、パパッと設営をしてすぐに帰ったり、高知の竹﨑和征さんは今年大きな展示が控えていたこともあって、あまり移動できないということで大事をとってリモートで設営しました。

ー それでも展示をしなきゃいけない状況に変わりはないわけですよね。

ローゼン美沙子:そうですね。私たちはこれがビジネスなので、やらないと経営を成り立たせることができませんから。

ー こうした状況の中でコレクターの方々の購買意欲は感じられましたか?

ローゼン美沙子:結構高い作品が売れたりして、購買意欲は高かったように思います。コレクターの方々は旅に出ることができないから、世界でアートをみれなくなってしまった。すると、チャンスが私たちに巡ってきて、海外と同等の作品を扱っている私たちのギャラリーをフォーカスしてくれるんです。

たとえば、「グラッドストーン・ギャラリー」というニューヨークのメガギャラリーで作品が扱われているリチャード・オードリッチという作家の作品を私たちも扱っていて、検索などでそれを知った人が「MISAKO & ROSEN」をチェックして、それに紐づけてうちの他のアーティストの作品も見てくれたりとか。それで売れたりもしましたね。もちろんオンラインにも限界があるんですけど、それでもなんとかがんばって悪くない結果がでました。

インターネットで作品の情報を載せて待っているだけでは決して売れないんです。オンラインというのはあくまで手段でしかないんですよね。それを利用してお客さんにきちんといま取り上げている作品を紹介して、そこからコミュニケーションを取っているんです。
ときには作品にスレスレまでカメラを近づけてディテールを見せたりもしましたよ。

そういう意味では、これまで足を運んで各地へ旅しながらがんばってコミュ二ティーを構築したり、いろいろな国のお客さんとのパイプをつくってきたからこそこのような状況でもオンラインでなにかが実現するのだと思います。

C&K(COBRA&加賀美健)「ロマンティック・コメディー」
展示風景 2020年 MISAKO&ROSEN
Photo: KEI OKANO

Relationship (History)
2020
C-print
Image : 59x39cm Frame 62.4×42.2cm / dimensions variable
Courtesy of the artist and MISAKO & ROSEN

トイレットペーパーを使用した展示。この後コロナによる買占め騒動が起こり、バッシングを受けたそうだが、展覧会は2月からおこなわれていた。「アーティストは時に、予言的な作品を制作することがあります」とローゼンさん。

ー 一方では、アートに興味を持つ人が増えたという声も聞こえたりするのですが、そうした実感はありますか?

ローゼン美沙子:それはもう20年以上も前から「アートの興味を持つ人が増える…」がどうのこうのと言われているので、とくに目新しい動きだとは思っていません。「若いアーティスト支援」とか言いますけど、若手という言葉が一人歩きするのではなく、これまできちんと活動をしてきた中堅のアーティストにもきちんと目を向けるべきです。彼らだってこれからも、若手と同様に沢山キャリアを積む必要があります。こういったアーティストの作品もぜひ積極的にコレクションしていただきたいです。

「若い」でいえば、いまはアート業界にいる私よりもひと世代下の皆さん、さらにその下の若い世代ががんばっているように思います。とくに、いわゆる「アーティスト・ラン・スペース」といわれているアートスペースの動きが活発になっています。「XYZ collective」「4649」「im labor」といったスペースが代表的ですね。

ー 今年おこなわれた展示で印象に残っているものはありますか?

竹﨑和征「雨が降って晴れた日」
展示風景 2020年 高知県立美術館
Photo:田中和人

ローゼン美沙子:高知県立美術館でおこなわれた竹﨑和征さんの「雨が降って晴れた日」ですね。コロナによって作品が借りられず、すべて新作で披露されたんです。4月にそれが伝えられ、展示がスタートしたのは10月。それでも彼はやり遂げました。新作とはいえ、彼が歩んできた道というものも見れて、山を越えて、谷を越えて、その土地の湿度を愛して、風景をどうやってアーティスト自身が捉えているのかが十分に表現できた素晴らしい展覧会でした。

ー 最後に今後の「MISAKO&ROSEN」の目標について教えてください。

ローゼン美沙子:来年の1月17日からトレバー・シミズさんの展覧会をおこなう予定で、いまはその準備をしています。巨大な絵を飾るんですが、そのキャンバス張りを終わらせたいというのが年内の目標ですね(笑)。先ほどもお話した通り、私たちは展示をするしかないんです。仮にここを閉めてくださいって要請がきたとしても、ギャラリーの中に作品があれば展覧会はおこなわれていることになります。そうすればオンラインでお客さんに見せることができますし、とにかくやり続けるしかないですね。

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