PROFILE
1966年、湘南・鵠沼生まれ。88年に渡仏し、3年後に帰国。デニムのカジュアルウェアメーカー、岡山のデニム工場で経験を積み、98年〈スロウガン(Slowgun & Co)〉を、2018年に〈オーベルジュ〉をスタートさせる。
80年代後半の “フレンチ” を彷彿とさせる、オーベルジュのバスクシャツ。
ー 今回、〈オーベルジュ〉のバスクシャツが世代を問わず好評だと耳にしてお話を伺いに来ました。小林さんご自身として、人気を博している理由をどのように分析されていますか?
小林:前提として、日本人の思うフレンチシックというのは、80年代〜90年代にセレクトショップ間で繰り広げられたインポートブームが機縁していると思うんです。「フレンチとは?」とか「パリっぽいとは?」とか、こんな問いにフランスのブランドの集積やコーディネイトを各ショップが切磋琢磨して、いつしかフランス人すら気付かないレベルの、日本人にとってのまぶたの裏のフレンチ像が完成していたんですね。このとき編集されたフレンチイメージのなかで、まさになくてはならないアイテムの筆頭がバスクシャツなんです。
昨今の80’S〜90’Sのリバイバルブームで、スタイルカウンシルの曲が流れてくると “あのとき流行ったバスクシャツ!” こんな風に勝手に体が反応するのは、まぶたの裏のフレンチ像がそうさせているのかもしれません。
ー 「シャルロット」と「ビックシャルロット」について教えて下さい。
小林:映画『なまいきシャルロット』(1985年)で、ゲンズブールの娘がケミカルジーンズにバスクシャツをタックインし、オーバーサイズのシルエットで着ていたときの生地の余り方やボーダーのピッチは、日本人が思う “フレンチ” の象徴であり、憧れなんです。そうした “憧れ” を圧倒的なクオリティーでつくり上げるのが〈オーベルジュ〉の基本です。袖を通したときの懐かしさと新しさ、この感覚をコラージュするぼくらのアプローチは先ほどお話した、フランスを超えたジャパニーズフレンチに他ならないんです。
ー プロダクトとしての特徴もお聞かせ下さい。
小林:フランスって「肌着はシャツ!」な国なので、カットソー文化が実は希薄なんです。ユーロヴィンテージのカットソーの古着を見てもドイツ製のものが多かったり。結局、日本人が日常的に親しんでいるTシャツ文化ってやはりアメリカ由来なんですよね。戦後伝わってきたこのカルチャーをラグジュアリーやヴィンテージの拡大解釈で、本家本国を超える独自の進化を遂げたのが日本のカットソー業界なんです。ヨーロッパのハイブランドもこぞって使っているんですよ。ジャパンメイドのカットソー生地を。そんな恵まれた環境下で〈オーベルジュ〉のバスクシャツは企画されています。
たとえば、原材料として〈シャネル〉や〈エルメス〉が使うような「スビンゴールド」というスビンコットンのなかでもトップクオリティのもの使用し、編み立ても前例のない程の超度詰めでバキバキに仕上げているんです。ミリタリー的なガッシリ感とラグジュアリーな艶が共存してるイメージです。
縫製もフランス製のいいところは取り入れ、気になる部分は徹底的に修正します。たとえば、ボートネックの襟のつくりで言うと、フランスってロックミシンをかけて折り返してステッチかけて終わりなので、着るうちにどんどん伸びて鎖骨が見えて途端にフェミニンになってしまう。当時からバスクの下にシャツやワッフルTを着たりするのは日本の知恵ですが、「こうなったら嫌だよね」はみな感じていたはず。なので「シャルロット」と「ビッグシャルロット」は寸法の変わらない襟のつくりにしています。
ー 「ビッグシャルロット」が売れている理由は、「まぶたの裏に焼き付いたフレンチ」と、みなが不満に思っていたところを解消するつくりを合わせたところにあるのですね。
小林:当時のフランスメイドで誰もが感じていた洗うとガツンと縦に縮んだり、ネックが際限なく伸びてしまうなどのマイナス要素を逆にセールストークにしたんです。フレンチメイドのファンとして「もっとこうだったらなー」のすべてを改良し、つくり込んだのが「シャルロット」シリーズなのです。シルエットも当時にはない、いまを感じるゆとりを何としても入れ込みたい、でも大人には大きく着る理由が欲しい。なので映画シャルロットのイメージを中心に据え、シャルロットの着方がソースになっていることを明確に伝えて、個々の素敵なフレンチの思い出の線上にサイジングといういまっぽさをプラスしてアレンジしました。
ー 小林さんが1988年にフランスに行かれたときも、バスクシャツは憧れのフレンチの象徴という印象は強かったんですか?
小林:やっぱり強かったですね。着るだけでアメリカじゃない感じを醸せるキーアイテムでした。自分が理想とするフレンチを30年間ずーっと味わい尽くしてきて、それらを日本のデリカシーを持って形にしたのが「シャルロット」と「ビッグシャルロット」。その前談をYouTubeで説明しておくと、店頭に並んだ瞬間に、お客様と温まった状態でお会いできるんですよね(笑)。
ー まさに伺いたかったことのひとつが、小林さん自ら商品を紹介される「AUBERGEチャンネル」についてでした。どういった考えからはじめられたのでしょうか?
小林:一言でいうと、「製造プロセスのエンタメ化」というテーマがピンときたんですよ。ボロボロのクルマをきれいにするYouTubeの動画があるじゃないですか。あの感じかもしれないですね。
きっかけとして、いい素材がある。面白いディテールの古着がある。頑固者の職人がいる。この3つの点を繋ぎながら服ができ上がっていくプロセスを番組化するんです。成功事例やときには失敗も盛り込みながらでき上がっていくさまをうんちくを交えながら報告するんです。いつしか視聴いただいているみな様のなかに成長を見守る親心みたいなものが芽生え、完成披露の展示会では説明不要の我が子に会いにきていただく程になっている。製造のプロセスとは、実は服好きにとってエンターテイメントになり得るおもしろさが秘められているんだなってことに気づいたんです。すると、服づくりが動画ありきの企画立案となり、いろいろ伝えないとみたいな使命感が湧いてきました。動画の説得力や喋りの文字量は雑誌とは比にならないほど情報を詰め込めますし、ひとやものにフォーカスしていろんな角度でやれることがある以上、結果的に買ってもらうチャンスにもなる。完成した服を見ていただくまでの導入として、とても強い力がある。YouTubeを観るのは仕事終わってからじゃないですか。そういう意味では夜の部活、同好会みたいなことなんですよ(笑)。
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