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時代は健康なのか。6人のクリエイティブを支える健康白書。後編
What the Health?

時代は健康なのか。6人のクリエイティブを支える健康白書。後編

猛威を振るうコロナウイルスをまえに、自粛の日々がつづいています。それに伴い、さまざまなものに対する考え方を見直す機会も増え、とくに健康に対する意識はそのアップデートが必要不可欠となりました。幕を開けたばかりのニューノーマル時代ですが、その変化をいち早く察知し、順応しようと先鞭をつけるクリエイターたちがいます。彼ら彼女らは何を考え、どう行動したのか、そしてそれぞれのものづくりにどんな影響を及ぼしたのでしょうか。それを知るべく、今年1月、6人のクリエイターにインタビューを敢行しました。後編では、熊谷隆さん、谷尻誠さん、新羅慎二さんの3人が登場です。(3月24日発売の雑誌『フイナム アンプラグド Vol.12』より抜粋)

  • Text_Shun Koda(熊谷隆志)、Shinri Kobayashi(谷尻誠)、Taiyo Nagashima(新羅慎二)
  • Illustration_Yoshimi Hatori

No.1 熊谷隆志

PROFILE

1970年生まれ。渡仏後、スタイリストとしてキャリアをスタート。現在ではフォトグラファー、ショップ&ブランドディレクター、ガーデナーなど、ジャンルや肩書きの垣根を越えて活動する。
Instagram:@takashikumagai_official

心と体のバランスを保つセルフ・アメとムチ。

〝生きるために食べよ。食べるために生きるな〞とは、古代ギリシャの哲学者・ソクラテスが残した言葉であり、熊谷隆志さんが実践していることだ。隆々たる肉体を持ち、サーフィンやキックボクシング、スキーといったスポーツに精通する彼が、いま夢中になっているのはファスティング。それをはじめるに至ったのは、会食を断るための大義名分だったそう。

「コロナの前は連日連夜の会食で、焼肉、寿司、鍋みたいな生活でした。高カロリーな食事を避けようと和食に切り替えたり、いろいろと試行錯誤したんですが、結局どこに行ってもお酒を飲みすぎてしまうんですよね。禁酒したいわけじゃないけど、量は減らしたい。そんなときに、知人から教えてもらったのがファスティングブランドの〈ノウン〉。でも、はじめは地獄のような苦行でした。3日間、なにも食べないなんて人生で初めての経験だったし突然クラクラっときたり、仕事をしていてもまったく集中できない。それでも、なんとか気力でファスティング期間を乗り切りました。だけど、そのあとの食事がこれまで味わったことがないくらい旨味を敏感に感じられて。体も軽くなるし、五感が冴え渡るような感覚があったんですよね」

準備期2日、ファスティング5日、回復期2日。9日間にもわたる苦行を乗り越えた先に訪れるカタルシスが、熊谷さんをファスティングに開眼させた。月に一度のメソッドをつづけて、すでに1年が経過している。継続の裏には持ち前の高い忍耐力もあるだろうが、それだけではない。自分をすこしだけ甘やかすのが、いいスパイスなのだと教えてくれた。

「断食する前の準備食はひとそれぞれで、なかにはおかゆやスープしか食べないってひともいます。だけど俺はしっかりと食事した感覚がほしいし、気分を高めたい。なので、蕎麦の名店を巡って十割蕎麦を食べるんです」

熊谷さんにとって、蕎麦は出陣前の腹ごしらえであり、食の誘惑を断ち切るトリガーにもなっている。自身に向けられたアメとムチは、身体面だけでなく、ライフスタイルにもいい影響を及ぼしているようだ。

「ファスティングをはじめて1年でキロの減量ができて、40歳から通い出した人間ドックもいまがベストスコア。それと会食に行かなくなると時間に余裕が生まれるんです。家に帰ってきてやることがないから掃除したり、家事をする。そうすると妻にも感謝される。一石何鳥なんだって思うくらい、いいことずくめです。だけど、体重とともにネットフリックスで観るものもどんどん減っていくんですよね(笑)」

胃と心の休息が、コロナの特効薬!?

体型もスマートになれば、時間もスリムになる。そう聞くとファスティングが魅力的に感じられて仕方がない。とはいえ、食事制限によって体の免疫力が低下するのでは…と懸念も抱いてしまう。「俺も最初はそう思ってたんですが、まったく逆。消化のために働いていた細胞が、食事をとらなくなると体のメンテナンスをしはじめるんです。それがはっきりと実感できるし、睡眠の質も断然よくなる。『断食でガンが治る』なんて言われているのはそのため。コロナ対策として、これ以上の方法はないんじゃないかな。だけど、必要な栄養をとることや適度な運動ももちろん大事。いまゴルフにハマっていて、トータルで10キロぐらいのウォーキングになります。激しく動くこともないから、ゴルフはファスティング中に最適。体と胃が休まれば、心も休まる。結局はすべてつながってるんだと思います」

胃と心の休息。そのフィロソフィーは、せかせかと生き急ぐ現代社会にひと筋の活路のように感じる。では、いまを生きる若者たちに対してどう考えているのだろうか。

「若いうちは大盛りを食べたり、毎日お酒を飲んでもへっちゃら。だけど、何事にも節度が肝心。35歳を過ぎて暴飲暴食していると体の構成が変わってくる。そうなるとなかなか体質が改善されないんです。だから、30代のうちからやった方がいい。食べたいときは食べて、休むときはしっかりと休む。ファスティングはその繰り返し。俺自身ももうすこし年を重ねていけば、もっと会食を減らして、健康食に切り替えていきたい。だけど、骨と皮だけみたいな老人にはなりたくない。適度に肉付きがよくて健康的、そんなおじいちゃんに密かに憧れてます」

熊谷さんの話を聞いていると、ファスティングの本質は食を断つことではなく、食生活を考えることだと気づかされる。健やかな未来のため、熊谷さんは今日も〝生きるために食べよ〞を実践している。

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