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時代は健康なのか。6人のクリエイティブを支える健康白書。後編
What the Health?

時代は健康なのか。6人のクリエイティブを支える健康白書。後編

猛威を振るうコロナウイルスをまえに、自粛の日々がつづいています。それに伴い、さまざまなものに対する考え方を見直す機会も増え、とくに健康に対する意識はそのアップデートが必要不可欠となりました。幕を開けたばかりのニューノーマル時代ですが、その変化をいち早く察知し、順応しようと先鞭をつけるクリエイターたちがいます。彼ら彼女らは何を考え、どう行動したのか、そしてそれぞれのものづくりにどんな影響を及ぼしたのでしょうか。それを知るべく、今年1月、6人のクリエイターにインタビューを敢行しました。後編では、熊谷隆さん、谷尻誠さん、新羅慎二さんの3人が登場です。(3月24日発売の雑誌『フイナム アンプラグド Vol.12』より抜粋)

  • Text_Shun Koda(熊谷隆志)、Shinri Kobayashi(谷尻誠)、Taiyo Nagashima(新羅慎二)
  • Illustration_Yoshimi Hatori

No.3 新羅慎二

PROFILE

2003年に湘南乃風のメンバーとして「若旦那」名義でミュージシャンデビュー。その後、ソロ活動を開始してからは、プロデュースや作詞・作曲業、俳優としても活躍。2018年からは本名「新羅慎二」で活動している。
Instagram:@waka_danna

自分の個性に合った健康でいい。先人に倣ったルーティン。

湘南乃風の『睡蓮花』のサビでタオル(あるいはカラオケのおしぼり)を振り回したことはあるだろうか。ぼくはある。何度もある。湘南乃風のフロントマン・若旦那こと新羅慎二さんのつくる曲はいつだって上がりまくる季節を連れてくるけれど、今回尋ねたのは、「健康」についての話。新羅さんの穏やかな語り口は、前述のようなアッパーなイメージを軽やかに上書きしていく。

「体っていうのはそのひとの個性そのもの。だれもが強い部分と弱い部分を持っていて、100点の健康はないと思います。ぼくの場合は気管支が弱くて、呼吸が苦しくなることがあるんです。でも、それも自分の個性。向き合うなかで自分の趣味が生まれたりするんですよね。自分のできる範囲で自分の日常をうまく生きられているひとが健康なんじゃないかな」

自らの体の特徴を受け入れて活かしていく。まるで人生の真理を説く高僧のように新羅さんは話してくれたが、その考えに至るきっかけはなんだったのだろう。

「読書と、周囲の知人とのコミュニケーションのなかで、こういう考えにたどり着きましたね。体が資本の商売なので、自分が倒れればグループも倒れるし、経営している会社にも迷惑をかけてしまう。10代の自分は正直言って真面目な人間ではなかったけれど、20代でタバコはキッパリやめて30代以降は毎日の生活を楽しみながら健康でありたいと思うようになりました。酔っ払ったり、騒いだりする楽しみ方じゃなくて、生きることそのものを大切するというか」

さまざまな経験を通して新羅さんがたどり着いたひとつの答えというのが、「人生を楽しむために、自分なりの健康を探ること」だ。そんな彼のライフスタイルには、週4回のランニングが欠かせないとつづける。

「月水金はひとりで7キロくらい。土曜日は仲間と一緒に30キロ近く走っています。月間で大体150キロですね。とにかく楽しいんですよ。〈ギャクソウ〉のデザイナーの高橋盾くんたちとよく一緒に走っています。本当の意味でファンランニング。疲れたら休むし、寒かったら電車にだって乗る。それくらいのラフな感じで、走ることが日常のなかに組み込まれています」

かなりの長距離ランナー! きっとレースでも大活躍なのだろうと思いきや、大会には出るつもりがないのだという。「いまは競い合うことにまったく興味がないんですよね。昔はだれよりも有名になりたかったし、強くなりたい、やるからにはもっとタイムを縮めたい、って思っていましたが、勝ち負けという概念自体があまり好きではなくなってきました。「『負けんじゃねえ~』とか歌いながら、『いや負けてもいいっしょ』って思ってる自分がいる(笑)」

「負けんじゃねえ泣くんじゃねえ」とは湘南乃風の楽曲『晴伝説』の一節。その価値観の変化は、若旦那というグループのフロントマンから新羅慎二というひとりの表現者への変化を象徴している。そんな彼の生活の鍵となっているのが「ルーティン」だ。

「とにかく忙しい時期は会議を3つ同時に回したりしていたんです。ハードな生活を乗り切るためにどうすべきか、と考えているときに、大好きな小説家の村上春樹さんや池波正太郎さんが、それぞれルーティンについて書いていたことを思い出して。ランニングをはじめ、さまざまなルーティンを生活に組み込んでみたら劇的に効率がよくなりました。湘南乃風をはじめた頃は1曲つくるのに1年以上かかっていたのに、いまでは3時間でレコーディングをやり切ることができるようになったし、そうやってつくった曲がちゃんとヒットしたりして」

競うことにこだわらない。どうあるべきかを考える。

自分の生活を徹底的にシステム化し、ハードな仕事を乗り越えた新羅さん。その効果は絶大だったが、ある出来事がきっかけとなって、効率を追い求める生活を見直すことになる。

「新型コロナウイルスの影響でライブができなくなって、立ち止まっていろいろ考えましたね。それまでは年間に100日以上、旅をしながらライブしつづけていたんです。でも、『そんなにやる必要あったっけ?』と思うようになりました。アーティストのレースから外れてしまうことに怖さがあったんですけど、そこに固執するのではなく、ミュージシャンとして、ひとりの人間としてどうあるべきか、社会と芸術と自分のやってることをどうつなげていくか、ということを考えたいなと」

では、具体的にこれからどんなビジョンを持って生きていくのだろう。最後に尋ねてみた。

「本当にいろいろ、語り尽くせないほどあります。そうだな、地方にコミューンをつくって、自分の手の届く範囲の経済圏を体感してみたいです。野菜や米の生産者といい関係を築いて、物々交換に近い生活をしてみる、というか。東京で身に付けた文化的な知識や感性と、地方だからこその美しい自然や資源を掛け合わせて、行政も巻き込みながら、新しい社会のあり方を考えていきたい」

なるほど。新羅さんが思い描いているのは、個人を超えた「社会の健康」なのかもしれない。

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