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Extreme Sauna Trip 絶景外気浴を求め、東北へ。サウナ旅2021秋 Vol.1
MONTHLY JOURNAL OCT. 2021

Extreme Sauna Trip 絶景外気浴を求め、東北へ。サウナ旅2021秋 Vol.1

旅に出たい。我慢はもう限界スレスレだ。コロナが落ち着いたら、鎖から解き放たれた犬のように、どこかへ弾けて飛んでいきたい。ではどこに行く? 漫然と旅するよりは、何か明確な目的があった方が楽しい。そこで編集部が出した答えは、東北のサウナを巡る旅、通称“サ旅”。事前にリサーチしてみたところ、東北のサウナはあまり詳しく紹介されていないようだったが、むしろその方が好奇心をくすぐられる。よし、東北ならではのサウナへ繰り出そう。これは一泊二日で計5箇所、総移動距離1000kmオーバーという、サ旅強行軍の記録だ。

日本唯一の天然サウナは東北にあった。

須川高原温泉

岩手県一関市厳美町祭畤山国有林46 林班ト
sukawaonsen.jp
宿泊料金:
¥4,800~(素泊まり、2名1室の場合)
¥12,030〜(夕朝食付き、4名1室の場合)

急坂とカーブが続く山道を〈ジープ〉のスモールSUV「Renegade 4xe」で進んでいく。

この蒸気を体に浴びせるイメージ。

最後の絶景サウナは、くねくねした山道の果てにたどり着く山の上の温泉地・須川高原にある。

「須川高原温泉」のサウナは、乾式でもフィンランド式でもない。天然サウナ「蒸し風呂」と呼ばれる、大地から吹き出す蒸気を利用した“ジャパニーズクラシックサウナ”だ。

サウナを利用できるのは、宿泊者のみ。しかもスペースの都合上、4人限定。さらにサウナに行くには、宿から10分ほど山を登った場所にある小屋まで辿り着かなくてはならない。ハードルが高く感じたら、思い出してほしい、サウナ室で我慢すれば我慢するほど、そのあとに来る“ととのい”の境地が強烈だってことを。

山から降りてくる人とすれ違いながら登山道を上がっていくと、件の小屋「おいらん風呂」に着く。なかは壁で仕切られていて、四つの個室に分かれている。各部屋の地面に拳大の穴があり、そこから温かい蒸気が噴き出している。ゴザを敷き、この蒸気口のあたりに腰または腹が来るように寝そべり、その上からビニールシートとバスタオルをかけて、体を蒸すのだ。これが、この地独特の天然サウナの入り方。全身がじっとりと汗ばむまで入る。

横たわっていると、正直この状態はあまり人に見られたくない気がする。個室でよかった。

V字飛行する渡り鳥。このエリアでは珍しくない光景なんだとか。

蒸気に当てられていると、数分もすると汗が出てくる。一般的なサウナ室とは違い、優しくじっくりと温められる。外のベンチに腰かければ、標高1126メートルの山の風が水風呂代わりに体をクールダウン。もちろん周りの景色は抜群だ。

一般的なサウナ→水風呂→外気浴の3セットを“キメるサウナ”とするならば、ここはもう少し優しい。実際、この地域では長く、例えば一ヶ月間宿に逗留して体の調子をととのえる、いわば湯治のような使い方をする人もいるそうだ。

ここの蒸し風呂(天然サウナ)に入っていると、「須川高原温泉」独特のタイムスリップ感のある懐かしい雰囲気と相まって、施設の歴史にもちょっと思いを馳せてしまう。大正初期はこの近辺だけでおよそ20箇所あった蒸し風呂も、天災や老朽化の影響でここ以外は潰れてしまったそう。以前ここを訪れた国営放送のディレクターによると、自然に囲まれた蒸し風呂は日本唯一だろうということだ。

さすが東北。ここにしかない、唯一無二のサウナが現存しているなんて。

帰り際、施設の方にこの後の予定を聞かれた。「ホテルに向かうだけです」と答えると、「じゃあ、露天風呂に浸かっていくかい?」とのお誘いが。この日は寝不足&長距離運転のダブルパンチで身体はボロボロ。前のめりでこう答えた。「ぜひ!!」

いざ浴室に入ってみると、目の前に広がる景色に圧倒された。青く白濁した湯船とその背景にそびえ立つ山々は、アイスランドの「ブルーラグーン」を彷彿とさせ、異国に訪れたかのような気分にしてくれる。温かい湯船にゆったりと身を委ねながら、この絶景を心に刻む。こうして長旅の疲れを癒し、帰路につくのであった。

最初に書いた通り、「だまされた」と感じたこのサ旅も、サウナを巡るうちに、こんな旅に誘ってくれて「シバヤマよ、ありがとう」に変化していた。それは、ととのうことで邪気がなくなったのではなく、東北の個性溢れるサウナのおかげであることは間違いない。

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