困難な状況でも立ち上がって欲しいという願いを込めて。
ー 2019年に台風15号が猛威を振るったとき、今野さんは地元である千葉のためにその義援金を募るプロジェクト「THE 15」を立ち上げましたよね。そのときにHaroshiさんの作品をモチーフにしたオブジェをつくられていました。

今野:さっきの話にもあったHaroshiくんのミドルフィンガーの作品をモチーフにしました。これはすごく思い出深いもので、亡くなってしまったキース・ハフナゲルが生前にアプローブしてくれた最後のミドルフィンガーなんですよ。
台風15号の影響でたくさんの場所が被害を受けて、とくに千葉の南のほうは停電が続いたし、水道も止まってしまっていまだにその痕跡が残っていて。そうした地域のためにぼくらは力になりたくて義援金を募ろうと動いたのが「THE15」なんです。
停電中、灯りがつかない中で、マグライトを口にくわえながら炊き出しをしたりしている人たちがいるのを間近で見て「GLOW IN THE DARK」という活動のコンセプトを決めました。このオブジェも蓄光素材でできていて、光るようにしたんです。暗闇でも輝きつづける存在でいてほしいという願いを込めて。
Haroshi:最初に今野さんとは、ブルーシートをスクラップにして中に詰めようって言っていたんですけど、試してみたらめちゃくちゃダサくて。それで蓄光にしたんです。だけど、青い蓄光ってなかなかないらしいんですよ。だからわざわざつくってもらって。
ー どうしてHaroshiさんと一緒にやろうと思ったんですか?
今野:甚大な被害の中で、みなさん心が折れそうになっていたんですよ。家が半壊して水浸しになって、大事なものが全部浸かっちゃったりして。電気もないし、子供や高齢の方々もいて、本当に大変だったんです。自分の友人も気持ちが強いはずなのに、そのときはすごく辛そうで。
そこで反骨精神というか、こんな状況だけど立ち上がって欲しいという願いを込めたかったんです。ミドルフィンガーだけを切り取るとネガティブなイメージがあるかもしれませんが、そうした状況に対して中指を立てるアクションは必要だと思って、そのイメージとHaroshiくんの作品が合致したんですよ。それでやりたいと伝えて。

Haroshi:これはキースの手がモチーフなんです。あそこに写真が貼ってあるんですけど。その写真をもとに、ぼくがいろいろ測定をしてつくったものなんです。
これは声を大にして言いたいんですけど、ぼくは個人的にミドルフィンガーをつくったことはなくて、いつも誰かに頼まれてやっているんですよ。これがぼくの作風だと思われることが多いんですけど、それはちがいますからね。ぼくは握手しているモチーフとか、割とピースなものをつくっていて、ミドルフィンガー野郎ではないことは伝えさせてください(笑)。
キース自身も、ただ単にミドルフィンガーをやりたかったんじゃなくて、もっとコンセプチュアルな意味合いでぼくに依頼してきたんだと思います。
ー Haroshiさんは今野さんから依頼を受けて、すぐにOKをだしたんですか?

Haroshi:そうですね。最初はチーバくんをつくろうみたいな話もありましたよね(笑)。いろんな案がでた中のベストを探っていて。たとえばひとつ大きな作品をつくって、それを高額で売ったとしても、誰かひとりの所有物になってしまうじゃないですか。それよりはみんなで気持ちを共有したほうがいい。ドネーションってそもそもそういうものだと思うし、ひとりの人が大金をだして成立するものって脆いと思うんですよ。みんなで少しづつ力を合わせて、大きな塊をつくったほうが絶対に強いということで、この形になったんです。
今野:力になってくれる仲間がいるのは本当にありがたいです。このプロジェクトではとある県議会議員の方も協力してくださって、集まった義援金をNPO団体とかを通さずにダイレクトに千葉県へ送ることができたんです。
有名な団体にも相談したんですけど、手数料ですごく高いマージンを取られてしまうことがわかって。なにもしないで大金を取られるのはイヤだし、そのお金でできることってたくさんあると思うんですよ。だから中抜きされない届け方をしたくて、その県議会議員の方に掛け合ったんです。するとすごく気持ちのある方で、県に直接渡る口座を用意してくださって。成田出身の方なんですけど、成田に住むぼくの先輩たちも動いてくれて、本当にいろんな人に感謝しています。