言いたいことが言えなくなりつつある、これからの時代のさんまの生き様。
ー そもそも、ものをつくることがお好きなんですか?
みんな好きだと思うけどね。昭和の男はプラモデルから入っているから、ものをつくるのが好きかもしれない。
ー とはいえ、みんなよりも圧倒的に忙しいわけじゃないですか?
圧倒的に忙しい(笑)。でも圧倒的に寝ないからね(笑)。その分を取り戻している感じです。
ー 普段はどのくらい寝るんですか?
大体、毎日5時間くらいかな。55歳から、寝なきゃダメっていう周りの勧めもあって、一番軽い睡眠導入剤を使ってます。この年齢で寝ないと、舞台上の声に大きく影響するんですよ。だから寝るようにしている。何も考えずに、目をつぶれば、70パーセントくらいの睡眠を取れているという風に、人間の体はなっているらしいけど、それはほんま。自分の人体実験で実証済み(笑)。でも、何も考えずに5時間目をつむるのはしんどいよ。何か考えてしまうねん。座禅やないけど、そういう心境でやっている。
ー では、最後に仕事の話をいくつか。これだけ第一線で長く活躍されている方はなかなかいないですよね。
テレビができてまだこれだけやからね。バラエティで2年当たれば十分やっていう、“バラエティ2年説” というのが我々の時代にはあったけど、『オレたちひょうきん族』が8年続いて、わあっと言うてたんですけど、いまのように20年、30年と番組が続いているというのは、不思議な感じがするのは事実。本人が言うのもなんですけど、本当に不思議だし、本当に60歳で引退するつもりやったけど、今66歳。6年もラッキーが続いているという感覚ですね。次はいつ辞めようという感じやけど。
ー それでも若いひとたちと同じ土俵で戦っていたいという気持ちもありますか?
そういう感覚でいていたい。若手や他を褒めたりすると、年取ったなと思うんです。俺の場合は、認めつつも、認めたくないという、その間のライン上にいたい。若手が笑わせたことを悔しがっていたいね。
ー 若手からは…。
邪魔やろうね(笑)。20年くらい前にビッグ3…俺とたけしさんとタモリさんが楽屋に一緒にいた時、ナインティナインの岡村が爆弾を仕掛けたかったらしいんです(笑)。「その3人を爆破したかったんです」って、冗談半分、本気半分で(笑)。上が詰まっているということ。
ー そこは実力で追い抜いてほしいという気持ちですか?
もちろんもちろん。本当に追い抜かれたら、悔しいのはあるんやろうけど、テレビはそういう風にできているし、俺は後輩のために道をつくってきたと思ってる。でもそう思ってきたけど、所(ジョージ)さん曰く、「後ろに誰もいないよ、さんちゃん。同じところをぐるぐる回っているだけだよ」ってよく言われるんやけど、的を得ていると思う。この間、今田(耕司)にその話をしたら、「隣の道でさんまさんを見ますけど、全然違う道です」と(笑)。時代も違うし、テレビのあり方も違うから、同じ道を来いと言っても、同じ道は本当はないのかも。後輩のためにと言いながら、自分が走ってばっかりなのかもしれない(笑)。
ー 以前、ウェブなどテレビではないものは敵と発言されていました。
テレビはふるさとやから。ふるさとは大事にしたい。ネットとかはニュータウン。あっちの街は高層ビルがあってと羨ましいと思うこともある(笑)。けど、ふるさとはこの田舎町なんやから、ここで過ごしたいし、66歳ではニュータウンに移れない。あとは、○○を見ました、面白いですねと言ってくださるのは、みんなテレビやしね。テレビは消えないと思うし、そのなかでやっていくのが自分の人生やろうなと。
ー これからも主戦場はテレビですか?
これから俺は舞台が多くなっていくと思う。テレビで言いたいことが言えない時代になっていくし、(みんな)面白いと言ってくれた『オレたちひょうきん族』や『恋のから騒ぎ』は、いまの時代ではできない。そこが面白かったところでもあったんだけど。本当に自分が面白いこと、楽しいことは、いまは舞台でしかできない。舞台でさえもいろいろと言われはじめているらしいんで、面白くない時代になるんやろうなと。
最終的には、すごい熱心なファンを家に呼んですごく高い入場料でおしゃべりするかも(笑)。本当のことはテレビでは言えなくなってきているけど、うちのマンションではまだ大丈夫(笑)。10人くらいでお茶して、本当にさんまが面白いと思う話を言いたいように言うっていう。テレビではやる方も観ている方も、これからストレスが溜まっていくと思う。俺たちが面白かった時代のテレビに戻したいけども、なかなか難しい。時代…それは時代やと思う。あと10年もすれば、いまの仕組みをクリアするような、お笑いの若手が出てくると思う。いま、俺が45歳ならいまの仕組みに合わせていると思うけど、66歳はもう合わせてもしゃーない。そういう感じですね。
ー スポーツ選手はよく引退をどうするかということを考えていると思うんです。さんまさんは、終わり方を考えていますか?
60歳でスパッと辞めようと55歳で思っていたんやけどね。会社でもピラミッドの上がごそっといなくなると、伸びるやつが出てくるらしいんですね。例えば、仕事ができる5人がいてたら、それがいなくならないと伸びないらしんです。我々、上が辞めた方がいいらしいですよって、たけしさんに言ったことがあるんですけども、やだねと。テレビからオファーが来て、ひとりでもファンが見てくれたら、それでいいんじゃないかと。
実際に、60歳の時に、まだ世間のひとは俺を必要としてくれている。62歳でもまだ俺を…という周りからの手応えがあったんでね。ツッコミや言葉が出てこないとか自分の脳のスピードが遅くなるか、テレビで映る顔が汚くなるか、どっちかになったら辞めようと思います。周りには、ツッコミが遅くなったら、遠慮なく言うてくれって言っているんですけども。
ー 当分先でしょうね(笑)。
必死に頑張らせていただいてます(笑)。
ー さんまさんは、明石家さんまという役を引き受けている感じがしますね。
古い考えやと思うんやけど、ファンやお客さんあっての…ということは大事にしようと思ってます。こないだテレビを観て救われましたとか、舞台を見て病気が治りましたとか嘘みたいな言葉をいただくからね。改めて、自分のやっていたことが正しかったと思う…、というか思わせてくれる。
ー それはひとつのカッコよさというか…。
美学やな。単なる自分の勝手な美学やな。いや、微妙の微の「微学」かな。全世界のひとに言えるのは、“美しく学ぶ” じゃないと思う。“微妙に学ぶ” でいいと思う。美しいという字は絶対に間違っていると思う。何も美しくないもん。自分の生き様…その様を大事にしたい。