凝縮されたものの中から汲み取れるものがあるはず。
ー 今回はフランスにあるルーヴル美術館とのコラボレーションということで、話がきたときにどういう絵を描こうと思ったのか教えてください。
長場:自分の作風、そして自分の線のおもしろさを伝えるには、モチーフ選びが重要だと思いました。それでまずは誰もが知るモチーフで描きたいと思いました。最初に選んだのは「モナ・リザ」で、それを自分流に解釈したらこんな絵ができましたよ、というのを提示できたらおもしろそうだと思ったんです。あとは「サモトラケのニケ」や「ミロのヴィーナス」など、誰もが知る作品を選びましたね。
ー 「モナ・リザ」は過去にも作品として描いたことがあるそうですね。
長場:そうなんです。それでむかし描いたやつをルーヴルに提出したら、まさかのNGがでてしまって(苦笑)。この紙に描いた絵がそうなんですけど。
長場:それでどんなところがNGなのか、どういう絵を描いて欲しいのか、ルーヴルからの回答をもらって、それを汲み取ってからふたたび描き直しました。「モナ・リザ」は結構苦労しましたね。
ー ルーヴル美術館からの要望は結構多かったんですか?
長場:絵とテキストを組み合わせた作品を描いて欲しいと言われて。出来上がったものには作品名が書かれているんですけど、当初はその作品が製作された年号や、所蔵年号を入れたいと提案していたんです。でも、いざ調べてみると不明なものが多くて断念せざるを得なくて。それでタイトルだけが残ったという感じです。だけど、「モナ・リザ」以外はすんなりOKをもらえたものが多いですね。
ー 「モナ・リザ」といえば、ルーヴル美術館の中でも人気の作品ですもんね。
長場:それがあるからルーヴルサイドも譲れないものがあったんだと思います。それを突っぱねることもできたのかもしれないですが、お互いハッピーに仕事をしたいし、お互い納得したコラボレーションにしたいと思ったから、相手の出方を探りながら描く作業を楽しんでいました。
ー 実際にルーヴル美術館へ行かれたことはあるんですか?
長場:20歳のときにバックパッカーみたいな感じで、フランスやイタリアなど、ヨーロッパを巡ったことがあるんです。そのときに一度だけ行きましたね。
ー 当時の記憶が助けになったりしましたか?
長場:それもありますし、ぼくの曽祖父の兄弟に澤木四方吉さんという方がいて、学問として日本に西洋美術を伝えた人なんです。それこそ「モナ・リザ」や「ミロのヴィーナス」など、ルーヴルにある作品を日本に紹介したりしていたんですけど。今回のお仕事をいただいて、四方吉さんのことをふと思い出し、本を読み返したりしましたね。
ー 長場さんの描く作品はすごくシンプルだと思うんですけが、そうして知恵を蓄えながら線を描くことによって、生まれてくるものに違いが生まれるんですか?
長場:自分の気持ちが乗ってくると、やっぱりいい線が描けるんですよ。そこに吸収した知識などを出したいという想いがあって。さっき話したように、線を減らすことをしたいけど、ただ単に減らすんじゃなくて、凝縮されたものの中から汲み取れるものがあるはずなんです。そこに絵のおもしろさや豊かさが宿るんじゃないかとぼくは思っていて。それを感じて欲しいなと思っていますね。
ー どの線を拾って、どの線を削るかという判断が難しそうですよね。
長場:そうですね。モチーフの特徴的な部分を自分を中でチョイスして、そこは生かすようにしています。逆に必要ないと感じたところは潔くバッサリとカットしてますね。