ちょっとした部分をいじることで、その商品の魅力を引き出す。
ーおふたりが「ビームス」で一緒に仕事されていたのはいつごろでしょう。
吉川: 谷が「イマジン」をオープンしてもう5年くらい? その前の5年くらいは一緒にいたよね。
谷: ぼくはずっと関西にいて、2013年に上京してきたから、もう10年くらいの仲やね。関西の「ビームス」にいた頃から「東京には吉川ってやつがいて、ブイブイいわしてる」って噂になってて。
吉川: またそんなこと言って。
谷: ほんまやって! 半年に一回商品説明会があって東京に行くんですけど、そのときの吉川はめっちゃロン毛で、髪が腰くらいまであって。
吉川: 谷もレザーのライダースを着て、バッキバキの格好で来てたよね。
谷: 自分は関西から行くから負けたくないっていうのがあったんで(笑)。吉川も「俺を見ろ」みたいな感じやったやん。
ー当たり前ですけど、ファッションのテイストというか雰囲気は違いますよね。
吉川: 同い年なんでルーツ的な部分は同じなんですけど、関西と東京なんで、そのテイストの違いはあるよね?
谷: せやね。見て来たものは一緒だけど、育って来た場所がちがうから表現方法はちがうというか。
吉川: 雑誌だとぼくらは『BOON』があって、そこからヴィンテージの知識を蓄えて育ってきて。
谷: あとは『カジカジ』と『カスタマ』っていう雑誌が関西にはあったんですよ。東京の雑誌を見ても、買いたいものが大阪になかったりしたからひねくれるんです(笑)。本線とはちょっとちがうものを選ぶというか。それでどうスタイルをつくるかの勝負なんです。“総合格闘技”って称されるほどグッチャグチャにミックスされたスタイリングになるというか。
吉川: 関西はクセの強い着こなしをしているひとが印象的だった。
谷: そうそう。自分はそういうところで育ってきたのに対して、彼は裏原のカルチャーを生で体験したりしてるから。その差は大きいよ。
吉川: ぼくは地元が新潟なので、東京に出てきたのは裏原のあとなんだよね。だけど、新幹線で東京に来て「NOWHERE」に行ったりしてて。着いた頃にはもう商品が売り切れていて、スタッフの人たちが好きな音楽流してお店にいるだけ、みたいな。
ーそうして関東と関西のちがいがあって、バイイングを通してお互いの感性を表現していったんですか?
谷: ぼくが大阪から東京へ来たばかりのときに、企画会議をしていると、ぼくだけちがうことを言ってるんですよ。
吉川: あったあった(笑)
ーどうゆうことですか?
谷: たとえば、〈エアーウォーク〉の話をしているときに、ぼくの中で〈エアーウォーク〉といえば「ワン」なんですけど、みんなは「エニグマ」っていうんです。
吉川: もちろん「ワン」も名品なんですけどね。
谷: そういう微妙なズレが多くて。定番品はもちろんリスペクトしているんですけど、それよりも「こっちのほうがおもろいやろ?」っていう考え方が関西人にはあるんですよ。
吉川: メインを理解しつつも、その脇にある名品をピックアップしたほうがおしゃれじゃん? みたいな。
谷: そうそう。だからぼくの提案は企画会議で通りづらくて。一年くらいそういう時期がありましたね(笑)。
ーそれはある意味、「ビームス」は日本のファッションを背負っていて、きちんとメインストリームを押さえないと、という気持ちがあったということですよね。
吉川: そうですね。ファッションの多様性を認めつつも、散らかるのはよくない。だから、きちんと「ビームス」のアメカジを正しく体現したいと常に思ってます。
谷:
企画とかをしていてすごく感じたのは、「ビームス」のオリジナルや別注アイテムのセンスのよさで、すごい絶妙なさじ加減で大きな変化をもたらすんですよ。
ぼくは関西人なんで大胆な変化を提案していたんですけど、吉川はちょっとした部分をいじることで、その商品の魅力を引き出すんです。それはアイテムに対する知識や熱量がないとできないことだし、そゆうところに彼の美学やセンスを見た気がします。
アイテムが完成されたときにぼくは、それをどうスタイリングで崩すか、みたいなのを考えるのがめっちゃ楽しくて。
吉川: 「ビームス」のオリジナルをよく着てたよね?
谷: そうやね。「ビームス」のオリジナルって本当にすごいし、別注の仕方もすごく勉強になったね。