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FEATURE
A GIFT TO MYSELF Vol.01 賢者の贅沢。自分へ贈る最高のギフト。
MONTHLY JOURNAL DEC. 2022

A GIFT TO MYSELF Vol.01
賢者の贅沢。自分へ贈る最高のギフト。

今年も残すところあと僅か。1年の締めくくりに自分へのご褒美を考えている方も多いはず。いろいろな選択肢があるなかで、一通りファッションを楽しんできた大人たちはこれまで一体何を手にしてきたのだろう。ここでは〈マディソンブルー(MADISONBLUE)〉の中山まりこさん、〈ゴッド セレクション トリプルエックス(GOD SELECTION XXX)〉の宮﨑泰成さん、選曲家で音楽プロデューサーの田中知之さんに声を掛け、自分へのギフトについて話を聞きました。それぞれのご褒美に対する考え方からモノ選びのこだわりが見えてきます。

01 : Interview with Mariko Nakayama ものから導かれて生まれる、未来のスタイル。

PROFILE

中山まりこ
スタイリスト、デザイナー

1980年代よりスタイリストとして活動をスタートし、89年にニューヨークへ。帰国後は雑誌や広告など、さまざまな媒体でスタイリングを手がける。2014年に自身のブランド〈マディソンブルー〉をスタート。
Instagram:@marikonakayama

ー中山さんは、何か頑張った後にご褒美を買うのではなく、「先に買う」スタイルだそうですね。

中山:そうなんです。今回紹介したいのはクルマです。私は今年58歳なんですけど、このクルマは40代の終わりに購入したもの。50代に向けた生き方が見えてくるんじゃないかと思って手に入れて。

ー〈メルセデス・ベンツ〉の「280 SL」ですね。

中山:私は1964年生まれなんですけど、服づくりに関して60年代のものにインスパイアされることが多くて。あるとき、それが自分が生まれた年代と関係していることに気づきました。

本当は64年式のクルマが欲しかったんですけど、当時はまだマニュアルしかなかったから、71年式のオートマを手に入れました。ムードは60年代ということで(笑)。

クルマ好きだったという元持ち主のもとを旅立ち、アメリカからはるばるやってきた1台。クラシックかつキュートなデザインをセレクトするあたりに中山さんのセンスの高さが伺える。

ー50代に向けた生き方が見えてくる、というのはどういうことなんですか?

中山:30代から40代になるときって、ちょっとふわっとした感覚だったんだけど、50代を迎えるときって、なんだか節目の感じがすごく強くて。それでふと、自分が好きな60年代のものを意識しながら生きてみたらどうなるんだろうって思うようになったんです。ファッションにしても、映画にしても、60年代のものがやたら気になるし、自分にすごく影響を与えているので。それで何を買おうかなと考えていたとき、旦那さんに「クルマがいいんじゃない?」と言われて。

ー〈マディソンブルー〉を始めた頃は、そうした60年代に対する意識はあったんですか?

中山:始めた頃はまだですね。ただ、自分で服をつくるようになって、自分の好きなものを深掘りするなかでそれに気づきました。だから〈マディソンブルー〉はすごく大きなきっかけを与えてくれたと思う。

ーなるほど。

中山:運転手はだいたい旦那で、自分ではあまり運転しないんですけどね(笑)。だけど、手に入れたときは二人の子供も親離れして、生活スタイルも一変した時期だったんです。昔は大きなクルマに乗って家族でキャンプに出かけたりしていたけど、そういう生活から徐々に変化していった頃。子育てがひと段落して、ネクストステージに向かう段階が50歳を目前にして重なったから、いいタイミングでした。

元持ち主の家で撮影された一枚。当時のクルマの走行距離は3万キロ程度で、ガレージに眠っている状態だったという。セピア色になった写真が時の流れを感じさせる。

ークルマはいろいろ探したんですか?

中山:あっち行ったり、こっち行ったりして(笑)。それまではスタイリストだったから、運転のしやすさだったり、荷物がたくさん入るとか、道具としてクルマを見ていたんです。だけど、50代の生活に向けてクルマを選ぶにあたって、自分がそれに乗る姿を意識しました。それまでは車高の高いクルマに乗っていたけど、50代でヨイショって乗るのは美しくないでしょう。 それよりも、乗るときの所作が美しかったりとか、さらには服装もそれにマッチするものがいいなって。そうした自分の考えにあのクルマがフィットしたんです。色気があって、スポーティな感じもして、なおかつ60年代のムードみたいなものもあったから。

ー実際に50代をこのクルマと共に過ごされて、変化はありましたか?

中山:変わりましたね。やっぱりスタイルの部分。派手な格好も合わないし、モード過ぎても合わないなって思って、ある種どんどん削ぎ落とされて、なおかつカジュアルになっていきました。40代のときと趣向が変化したと思います。

ークルマが中山さんのスタイルを形づくっていったんですね。

中山:ちょっと話が変わりますけど、女性ならいつかバーキンを持ちたいって思うでしょう。だけど40代で持つのはちょっと早いかなって私は思ってた。なんだか「バーキンを持っている人」になっちゃう気がして。それで40代のときに自分はバーキンを持つべきか、それとも一生持たないべきかずっと考えていたんです。

50歳を超えたとき、〈エルメス〉のスタッフの方に「まりこさん、バーキンどうですか?」って声を掛けてもらったんです。私はまだいいかなって思ってたんだけど、スタッフの方々が「絶対まりこさんに似合う」って提案してくれて、せっかくだから持ってみることにしたんです。すると、不思議なことに自分のスタイルがどんどん削がれていって、50代にしてまたTシャツを着られるようになったりして。

ーものに導かれるような感覚ですね。

中山:私が買い物をするときに思うのは、エネルギーの交換だなということなんです。着たいものを着たり、着やすいものを着てリラックスするのも大事なんだけど、ちょっと背伸びしていいものを買うと、自分がそっちの方向へ転がって、そっちのひとになっていく。持つと、生活がスーっとそっちの方向へ流れていくんですよ。

そうやってお金とエネルギーを循環させていくと、人生がいい方向へと転がっていくような気が私はしているんです。

ーこれから60代に向けて、なにか手に入れようと考えているものはあるんですか?

中山:〈シャネル〉のリトル ブラック ジャケット。1ヵ月くらい前にオートクチュールの会があって、フランスのスタッフが来ていたんですよ。それまでは来てなかったんだけど、今年はたまたま来日してて。60歳に向けて何か自分にギフトをと考えていたときだったので、フランスのスタッフに「ココ(・シャネル)が着ていたジャケットを自分の体に合わせて、自分の好きなツイードでつくりたい」って伝えたら「是非!」という返事をもらえたんです。

オートクチュールでつくるにあたり、写真集を眺めながら、未来のものについて思いに耽る。「このジャケットはセットアップじゃなくて、デニムを合わせたい」と中山さん。

ーすごいですね。

中山:それでパリのアトリエに来てもらえればツイードの生地からブレード、ボタンなどたくさんの種類の中から選んで自分だけの一着をつくることができるということと、1月にオートクチュールのコレクションを発表するっていうことでお誘いをいただいたんです。ココ・シャネルは素晴らしいレガシーを残している女性のひとりだし、私自身、彼女の生き方や言葉を糧に頑張ろうって思うひとりなんです。それで強く感じることがあって、「あ、来たな」って(笑)。オートクチュールをいつかつくってもらいたいという気持ちと、1月のパリっていうタイミングが重なって、これは60代という節目に向けたご縁だなと思いましたね。

ーそれを手に入れた60代、どうなるんでしょうね。

中山:どうなるんでしょうね(笑)。〈シャネル〉のジャケットって、ヴィンテージのものももちろん袖を通したことがあるんだけど、肩パッドの主張が強くて、首周りのラウンドもすごく深いんですよ。それが若い体には似合わない。自分が50歳を過ぎて、肩が痩せてきた頃にようやくパッドが必要だなと感じるようになって、首のラウンドが深いのも、アクセサリーがきれいに見えるようにデザインされているからなんですよね。カール(・ラガーフェルド)やヴィルジニー(・ヴィアール)もそうした伝統的なデザインをしっかり受け継いでいるんですよ。

私は働く女性だから、いままでよりはもうちょっと優雅に過ごしたいと思うけど、まだまだバタバタと動き回る人生が続くんだろうなって思ってて。ツイードっていう生地も、シワになりづらくてスポーティ、それでいてすごくエレガントさもあって。飛行機や新幹線に乗っても、プレスをかけずにそのままどこかへ出かけられるということを50代で発見して。そうゆうことが重なったから、きっとオートクチュールをつくるという縁と巡り会えたんだなと思います。

基本的なことはいまと変わらないけど、60代でも新しいことにチャレンジするひとでいたいし、この先10年を正しく生き抜くための相棒が揃うんじゃないかと思っています。60代の日々を一緒に寄り添ってくれるものを手にいれて、どういう未来が開けてくるのか、それが楽しみですね。

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