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ラザール・ステュディオがアイウェアブランドとして特別たる所以。
lazare studio : resurrected classic eyewear

ラザール・ステュディオがアイウェアブランドとして特別たる所以。

世界が認めるアイウェアの名店「グローブスペックス(GLOBE SPECS)」。その代表を務める岡田哲哉さんが、フイナムのブログ内で「久々に有望な新ブランド」として仏発の〈ラザール・ステュディオ(lazare studio)〉を熱のこもった長文で紹介していたのが、昨年8月のこと。どうやら、デザイナーから直接コレクションの説明を受けるなかで取り扱いを決断したとのことだが、すでにシェイプは出尽くしたといわれるアイウェアの世界において、〈ラザール・ステュディオ〉の何がそんなにスペシャルなのか。今回はそれを知るために、今年4月「グローブスペックス渋谷店」で開催されたトランクショーのため、来日したアレキサンドル・カトンその人に、ブランドの哲学と具体的なデザインアプローチについて訊いた。話のポイントは2つ。「細部を積み重ねることで個性が生まれる」、そして「過去をベースに新しいモノを生み出す」。

  • Photo_Syuya Aoki(W)
  • Text_Hiroaki Nagahata
  • Edit_Ryo Muramatsu

ー今日は、岡田さんが熱心に推している〈ラザール・ステュディオ〉の真髄に触れるべく、このインタビューの場を設けてもらいました。まずは昨日「グローブスペックス」で開催されたオーダー会について。そこでどんな手応えを得られましたか?

アレキサンドル:まず、お店のスタッフがみんなプロフェッショナルで感動しました。また日本のお客さんと触れ合って痛感したのが、みなさんデザイナーの私と同じくらいアイウェアの細部にまで気にしているということ。これが日本の文化なんでしょうね。多くの人が細かいところまで理解してくれるおかげで、私のようなつくり手もどんどん成長できると感じました。

ーそれは日本のオーディエンス特有だと感じますか?

アレキサンドル:そうですね、日本的じゃないかな。ヨーロッパには細部へのこだわりを持つ人はあまりいないので。

ーそれよりも全体のコンセプトに興味がある?

アレキサンドル:はい、彼らはまず、デザインやムードに注意を払うんです。例えば、日本のブランドの魅力を理解するためには、細かいディテールにまで目を向けなければならない。一目見ただけでは分からないことも多いですし、実際に触ってみないと分からない。これは日本の文化ゆえだと思うのですが、私がデザインする際もそういう在り方を意識しています。

ーそういえば、お店のブログでヒンジの構造が紹介されていて、これはすごいこだわりだなと感心しました。

アレキサンドル:アセテートフレームにはケブラー材(注:強度が非常に高いスーパー繊維の一種。防弾ベストなどに使用されることが多い)を、メタルフレームにはテフニック材(注:テフロンの一種で摩擦軽減とスムーズな動きを与える)を使った特殊な部品を開発し、ヒンジの内側に挿入して、開閉の動きをスムーズにしているんです。〈ラザール・ステュディオ〉のフレームは、一見するとクラシックなものに見えると思いますが、そういう細部が他とは違う。パーツを独自に開発し、内部にも多くのディテールが詰まっています。

ーケブラー材は、普通のアイウェアには使わない素材ですよね。

アレキサンドル:そうです。ヒンジ(蝶番)の内側に摩擦が発生しなくなるので、開閉が緩くならない。またデザイン面でも、ヒンジの色を黒にすることで、全体の色合いをフラットにしています。

ーそこまで細部のデザインに意識がいくのは、生まれつきのことでしょうか?

アレキサンドル:それは分かりません(笑)。誰に教えられたわけでもないので。子供の頃から何事も細部まで気を配っていたのは確かです。いまでも、日々の暮らしのなかで細かいことに気を配っています。私はモノが大好きなので。旅行の時も自分が気に入っているモノを常に携行しているんですよ。それも時間をかけて選び、何年も同じものを使います。

ーご自身の服も同じように選んでいるんですか?

アレキサンドル:自分が着るのはシンプルなデザインのものばかりですが、服を選ぶのは好きです。そして長く着用する。その感覚を自分のコレクションにも反映させています。ファストファッションにはしたくないから。

ーご両親も何かものづくりに携わっていたのでしょうか?

アレキサンドル:いえいえ、全くそうじゃありません。私の父は医者で、母は主婦をやっていました。しかし、父はいつも細部に気を配っていて、現代美術やデザイン全般に魅了されていたようです。私は子供の頃、父と一緒にたくさんの美術館を回った記憶があります。毎週日曜にはマーケットにも連れて行ってもらいました。

ー蚤の市のことですか?

アレキサンドル:蚤の市ではなく、道で野菜を買うような市場ですね。私は四人兄弟ですが、市場に連れて行かれるのはなぜか私だけでした。父はそこで果物や野菜をひとつひとつ、じっくり時間をかけて選んでいました。その背中を見て学んだことは大きいはず。いまはフランスでも定期的に市場に通う人は少ないのですが…。

ー生まれ育ったリヨンの街から受けた影響もあるのでしょうか?

アレキサンドル:あるかもしれませんね。リヨンには二つの側面があり、ひとつは現代的な都市、もうひとつは旧市街です。まさにアンティークと呼ぶに相応しい街並みで、2000年も前の建物がまだ残っています。

ーアレキサンドルさんはそういった歴史や過去に愛着を感じているのでしょうか?

アレキサンドル:いや、というよりも、私はいつも過去と未来の対比、レトロフューチャーと呼ばれるものに魅了されています。20世紀にはアイウェアが深く研究され、あらゆる色合いや形が開発されました。19世紀以前まで遡ると、フレームはすべて医療用具なので形も丸や楕円形のものばかり。しかし、1910年、20年あたりから、メガネで人々をより美しくする方法が模索されはじめたんです。

ーでは、過去のものを引用して新しいものをつくり出すことに、どのような意義を見出していますか?

アレキサンドル:私たちは過去を受け継ぎ、それを強化するための新しい方法を探しています。一方で世の中には、ずっと伝統的なやり方でつくられているものもありますよね。もちろん、それはそれでいい。ただ、いま多くの製品は「ただ早くつくること」が目的になりすぎている。そのなかで、伝統的なものづくりは改めて重視されて然るべき。例えばシェイプにしても、上品とされるものはすべて1920年代〜40年代に生まれたもの。だからこのブランドでは、昔の優れたバランスを残しつつフレームに新しい表情を与えています。つまり、〈ラザール・ステュディオ〉のコレクションはクラシックな形をベースにしていますが、それらをよりモダンなタッチで表現しているんです。

「30年代前半のシェイプに19世紀にあったX-Bridgeを組み合わせています。エイジングをしたような色味は日本のわび・さびの精神から影響を受けています。モダンなタッチのフレームに、X-Bridgeのディテールがアクセントになっています」 ¥92,400

「コレクションのなかではフェミニンなタイプですね。形は70年代のクラシックなフレームを参考にしています」 ¥75,900

ーモダンという言葉に対するご自身の定義について教えてもらえますか?

アレキサンドル:私にとってのモダンは、時代のなかにあり、時代と共に生きるということ。私のフレームはどこがモダンなのでしょうか? 例えば、ヒンジの技術、これは現代的だといえます。現代におけるモダンな製品をつくるために、最先端の技術や素材を取り入れる。フレームの削り具合も、丸すぎず、磨きすぎず。昔のフレームは研磨する過程でかなりエッジが丸まるので、そのタッチを上手く残したくて。

ーなるほど、絶妙な塩梅ですね。

アレキサンドル:そうなんです。タンブリング(注:組み上がったフレームと研磨剤を一緒に八角形のドラムに入れて回転させることにより、表面を磨き上げる工程)が昔と変わったことで、いまのアイウェアの縁は鋭角に仕上がっています。しかし、私たちはかつてのニュアンスを表現するために、昔の工程の仕上げを一部で取り入れている、ということですね。

ー最先端の技術と伝統的な工程や仕様、両方を混ぜるということですか?

アレキサンドル:まさしく。同時に、私たちは日本で製造された部品を使っているので、文化もミックスさせています。伝統的な方法でフレームをつくっているのはフランス、ドイツ、イタリア、日本、たった四ヵ国なんですよ。数多くの名作を生み出したアメリカでも、いまはもうつくられていません。そして、日本とフランスでは工程や細部の考え方に違いがある。だからこそ私たちは、両方の文化をミックスさせてフレームをつくるようにしているんです。

「素材は未来的で、デザインは伝統的。これは少し男性的なデザインですが、どんなシーンでもかけられると思います」 ¥92,400

ーフランスと日本の文化の違いについて、やはりアイウェアの受容のされ方にも同じような違いがあるのでしょうか?

アレキサンドル:いまは多少変わってきたと思いますが、かつてフランスではアイウェアは見た目がカラフルなものが好まれていて、逆にいうと細部にこだわらないものが選ばれていました。しかし、日本のブランドがフランスに輸入されるようになり、フランスの人々も細かなところを見るようになったんです。ちなみに、私は自分のブランドを立ち上げる前、フランスで眼鏡店を経営していましたが、そこで日本のブランドをたくさん売っていました。

ー日本の部品を使うことはブランドの創業当時から決めていたことですか?

アレキサンドル:部品については、日本のメーカーが最高だと言わざるを得ません。製造工程や金型の精密さにおいては、世界のどこよりも高いクオリティを誇ります。

ーそもそも、アレキサンドルさんはなぜアイウェアという分野を選んだのでしょうか?

アレキサンドル:若い頃は建築家になりたかったんですが、あるとき友人が眼鏡職人のことを教えてくれました。そこで、人々が日常的に必要とする小さなプロダクトのなかにさまざまな技術とデザインが詰まったアイウェアというモノのクレイジーさに感動したんです。人々は朝から晩までメガネフレームを装着している。ということは、私もこのプロダクトを通して人々に何かを届けられるんじゃないかなと。

ーそれは分かりやすい説明ですね。ここまでで、〈ラザール・ステュディオ〉というブランドが製品において何を重んじているのか、そしてアイウェアの魅力をどう捉えているのかよく理解できました。次は、メガネとファッションの関係性についてお伺いします。イメージの部分で、アレキサンドルさんはどんなものに影響を受けているのでしょうか?

アレキサンドル:これはもうはっきりと、映画ですね。私はこれまで何千本もの映画を観てきました。いまでも、毎日少なくとも1本は映画を観ています。古い映画も、新しい映画も、全部。私は、過去にも未来にも旅ができる方法として映画を捉えています。たくさんのアイデアを持っている映画制作者は本当の意味での芸術家だと思います。

ーうん、そうですね、私もそう思います。

アレキサンドル:例えば「ジュリエット」というフレーム。このモデル名は『ブルース・ブラザーズ』(1980年公開、ジョン・ランディス監督作)のジュリエット・ブルースから採っています。あるいは、『ブロウ』(2001年公開、テッド・デミ監督作)でペネロペ・クルスが演じるミルタ・ユングという人物から名前を拝借したフレームもあります。

「50年代のクラシックフレーム、特にウェイファーラーのような形をイメージしています。これが先ほどお話したジュリエットというモデル。よく見るとフレームにマーブルが混じっているのですが、私たちはこれをキャンディ柄と呼んでいます」 ¥75,900

ーそれはつまり、デザインの出発点として、映画のなかでキャラクターがかけているアイウェアがあるということなのでしょうか?

アレキサンドル:いいえ、映画からフレームをデザインしているわけではありません。フレームをデザインしたら、そのフレームと同じようなものをつけているキャラクターが登場する映画を探すんです。そういう意味で、私は映画自体から直接インスピレーションを得ることはない。つまり、映画を観て、「よし、このフレームをつくろう」と思い立つわけではないんです。あくまで私のインスピレーションは自分の頭のなかか、気分のなかにあるので。

ーなるほど、よく理解できました。

アレキサンドル:単純に、自分が大好きな映画から名前を借りてくる行為に喜びを感じているだけであって、実のところコレクションにおいてそこまで重要なわけでもない。私にとって重要なのは、あくまでデザインと品質。そのために、私は毎日フレームの絵を大量に描いていて、「これは面白いデザインになるかもしれない」と思ったら、何度も何度もシェイプのバランスを調整します。そしてプロトタイプをつくり、いろんな人の顔にフレームを装着してみて、ベストと思えるバランスに仕上げるんです。

ー先ほど、映画を「過去や未来に旅するためのもの」と解釈されていましたが、映画を通じていろんな時代からインスピレーションを得ている、という言い方もできますか?

アレキサンドル:それは確かにありますね。特に20世紀は10年ごとに新しいスタイルが開発されていました。この時期のファッションは目まぐるしい変化がありました。1910年代から80年代までの10年ごとに、それぞれムードとデザインがまったく異なっている。私のデザインには、それらすべての要素が混ざっています。男性像や女性像も然り。いまや女性が男性用のフレームを、あるいは男性が女性用のフレームをかけることも普通になりましたよね。

ーその中で特に思い入れの強い年代はありますか?

アレキサンドル:女性像に関していえば、1970年代の華やかさに憧れています。70年代といえば、伝統的なものから少し離れて、新しいマインド、新しいファッション、新しいデザインが開発された時代。そういう意味で実にクリエイティブだったと思います。アイウェアのデザインという点では、丸と楕円形のフレームがスタンダードであった20年代が自分にとっては特別かな。あの形は時を経ても完璧だと断言できます。

「この形は、70年代のグラマラスなスタイルから連想しています。フレームの正確無比なカッティングにぜひ注目してみてください」 ¥58,300

ー今日お話を伺っていて、単に過去を再解釈するだけではなく、アレキサンドルさんの脳内に再生されているさまざまな時代の記憶が、〈ラザール・ステュディオ〉のコレクションを通して表現されているような印象を持ちました。

アレキサンドル:まさに! 私は「未来の記憶」というフレーズが好きなので、そうやって受け取ってくれるのは嬉しいですね。私の場合、新しいアイデアを発見しようとして何かを頑張ることはなくて、本当にただ思いつくだけなんです。自分のデザイン哲学として、街で見かけた人や古い写真からシェイプだけを切り出して、アンティークのフレームを再現するようなことはしたくないので。

ーファッションの世界では、「ピンタレスト」や「インスタグラム」からピックしてきたデザインを再現する、みたいなことが平気で行われています。自分自身、その軽さを全否定はできずとも、どこかモヤっとしていたので、いまのお話にはハッとさせられました。

アレキサンドル:(ブランド名の由来となった)ラザールの物語をご存知ですか? 聖書のなかで、ラザールは死から復活した唯一の人間なんです。私はコレクションでクラシックなシェイプを “復活” させることを試みています。伝統的なシェイプをベースにして、新しいフレーム、新しいコンセプトのものをつくることで、過去を背負う。ただし、過去を再現するわけではない。

ーそこが重要なポイントですね。

アレキサンドル:そう。私がやりたいのは、過去を再発明する、ということです。

「私がオプティシャンとして働きはじめた頃、『グローブスペックス』のような、伝統的な眼鏡とデザイナーズ眼鏡を世界中からセレクトした専門店はいまほど多くありませんでした。私がはじめて日本に行った時も、『グローブスペックス』を訪れることが主な目的だったくらい、世界でも先駆けの存在だったんです。だから、代表の岡田さんが〈ラザール・ステュディオ〉の取り扱いを決めてくれた時はとても光栄に感じました」

INFORMATION

グローブスペックス 渋谷店

営業:12:00〜19:00
住所:東京都渋谷区神南1-7-5 1階、3階
電話:03-5459-8377
オフィシャルサイト

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