デッドストックを蘇らせる“LIVE STOCK”という造語。
ーはじめに「エディストリアルストア」の根幹でもある“LIVE STOCK”とは、どんな経緯で生まれたアイデアなのか教えてください。

小沢:もともとぼくはブランドをやっていたんですけど、紆余曲折を経て、服作りを一度ストップすることにしたんです。それで事務所を片付けていると、パッキンがたくさんでてきて。ぼくらの規模でこれだけの量があるということは、他のブランドさんやメーカーさんは、もっと大変だろうなと思ったんです。痛みとして、それが自分の心の中にずっと残っていて。
モヤモヤとした気持ちがある中でコロナ禍を迎え、世の中の価値観が一変したときに、モノの価値って人によって違うんじゃないかということを、ふとしたきっかけで気づかされたんです。
ー新しい、古い、値段が高い、安いという軸だけでは測ることができない、ということですよね。
小沢:ぼく自身、ずっとファッションの世界に関わってきて、この業界が抱えている問題に対して、自分なりにアプローチできることがあるんじゃないかと思ったんですよね。それで1年前に「エディストリアルストア」をオープンしたんです。
このお店では、ぼくが雑誌でやってきたことをそのまま表現していて、たとえば各セレクトショップのオリジナルアイテムが同じラックに掛かっていたりするんです。
ー雑誌の世界では同じページにいろんなショップのオリジナルアイテムが並んでいますが、お店となるとそうはいかないですよね。

小沢:そうですね。だけど、ぼくにとっては雑誌にリアリティがあった。だから雑誌を3D化したらおもしろいんじゃないかと思ったんです。そして商品を集めるために、そのアイデアを持っていろんなところへプレゼンしに行ったんですよ。
ーそのアイデアに賛同してくれたショップやメーカー、ブランドのアイテムが「エディストリアルストア」には並んでいると。
小沢:倉庫に足を運んで、ちょっと前まで店頭に並んでいた経年在庫を、スタイリストの審美眼みたいなもので再編集しているんです。つまり、デッドストックを蘇らせているということで、“LIVE STOCK”という造語をつくったんですよ。
ー従来はシーズンが過ぎた服はアウトレットやファミリーセールに回されていましたよね。ある種、ファッションの世界で型落ちのアイテムが店頭に並ぶのはご法度だったと思うんですが、そうした固定概念が壊れたということですよね。ファッション産業が抱える課題を解決しようという動きが強まっているのでしょうか。

根岸:世界的な風潮としてそれは感じます。「ロンハーマン」の場合、できるだけ在庫を余らせないような買い付けや、商品展開の方法をもともと心がけていたんです。
だけど、私自身も気づかされたことがあって。2018年にアパレル以外の業種の方々も参加する東京都主催のイベントに参加して、そこでさまざまな産業の未来や環境負荷の話になったんです。もちろんアパレル産業が抱えている問題については多少なりの知識はあったんですけど、私たちが属している産業が石油産業のつぎに環境負荷がかかっていることを知ったんですよ。それがものすごくショックで、私自身、小さな頃からファッションの世界に憧れて、とにかく夢があって、みんなが幸せになれる素敵な職業だと思っていたんですけど、その裏側では深刻な問題を抱えていた。
それで私たちもこのままではいけないということで、エシカル協会の講座に参加したり、社長や執行役員も巻き込んでいろんな知識を身につけたんです。
その中で、専門家の方々にも参加してもらいながら、ショップとして、ブランドとして、なにを変えていけばいいんだろうということを考えて。やっぱり取り扱っている商品の価値は、自分たちで決めようということで、2023年中に全店舗のセールを廃止するべく動いてきました。適量を見極め買い付ける量を少なくしながら余剰在庫をなくして、セールをせずにしっかりと利益が取れていくような体質にしていけるように改革をはじめたんです。