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今夜、ヒップなカクテルバーで。
MONTHLY JOURNAL Aug. 2023 vol.1

今夜、ヒップなカクテルバーで。

「ウォッカ・マティーニを。ステアせずシェークで」なんて007のようにスマートにオーダーできないし、ましてや「あちらのお客様から」のこちら側になることなど夢のまた夢。だけど、火照った体を冷やすため、少し背伸びをしてバーでグラスを傾けたい気分です。それもオーセンティックバーではなく、進化の一途を辿るエポックメイキングなバーのカクテルがいい。今回は、編集部員が気になる店や行きつけをレコメンド。信頼の置ける店が紹介するお店も聞いてみました。「とりあえず生」もいいけれど、カクテルを嗜むのもヒップです。

CONTENTS

「LIQUID FACTORY」
recommended by 村松
「LOBBY」
recommended by 黄田
「JANAI COFFEE」
recommended by 常重
「THE HISAKA」
recommended by 須藤

「LIQUID FACTORY」 recommended by 村松 バーのイメージを覆す、奥渋にできた秘密基地。

渋谷の喧騒から少し離れたエリアを指す奥渋谷。そのメインストリートから一本中に入ったところにお店を構えるのが「リキッド・ファクトリー」です。場所的に隠れ家的なバーを想像しがちですが、お店は開放的で一見さんでも入りやすい雰囲気です。

「バーというと、どうしても重たい扉のあるオーセンティックな店を思い浮かべがちですよね。だけど、うちは20代の若いお客さんも多くて、その世代のひとたちが考えるバーって、もっとカジュアルなんです。だからこうして開けた感じのお店が増えてきているんだと思います」

カウンターでカクテルをつくるオーナーの齋藤さん。

そう話してくれたのは、このお店のオーナー兼バーテンダーの齋藤恵太さん。もともとバーのコンサルティングやイベントの企画、カクテルのプロデュースやレシピ開発などを行なっていた齋藤さんが、その試作品をつくったり、仕込みをするスペースとして見つけた場所を店舗としても機能させるようになったのです。

「こしらえたものを生産する工場です。だから “ファクトリー” なんです」

店内はファクトリーの名に相応しいインダストリアルなムード。金網で隔てられた奥のスペースは工房のようになっていて、そこになんだか気になる機械が置いてあります。この機械こそ「リキッド・ファクトリー」がつくるカクテルの特徴を形づくっているといっても過言ではありません。

店の奥にある蒸留機。

「これは蒸留機なんです。例えば、カクテルに入れるためのフレーバーウォーターをつくるためのものですね。最近だと、栃木で手に入れたヤングコーンを蒸留してみたり。ただ、それが使えるかどうかはやってみないと分からない。だからうちのメニューは、ほとんどが限定で時期によってコロコロ変わるんです。もちろんレギュラーメニューもあるんですけどね」

蒸留する素材は食べられるものだけではなく、白檀の木や苔など、植物由来のものもあってユニーク。話のネタとしても面白そうだから、飲んでみたくなります。素材は蒸留する以外にも漬け込んだり、シロップ状にしたりしながら液体にしてカクテルに使っています。

蒸留した素材はスプレーボトルに詰めて保存。カクテルを出す際に齋藤さんがワンプッシュして提供してくれる。

この日、オーダーしたのはレギュラーメニューの「BUDDHA’S DAY OFF(ブッダの休日)」。オリジナルで蒸留した広島産のベルガモット、さらに白檀のフレーバーウォーターをプラスしたカクテルで、口に入れるとさっぱりとしていて、アルコールもそんなに強くないからスルスルと飲めてしまう不思議な飲み物。グラスを口元に持ってくると、柑橘系の爽やかな香りからはじまり、次にやってくるのがお酒の味、最後に白檀の香りが鼻元を優しく撫でてくれます。

BUDDHA’S DAY OFF ¥1,450

「うちのカクテルはベースっていうものがないんですよ。“○○ベースのお酒” とかってよく聞くと思うんですけど、ぼくは何かと何かを組み合わせて複合的につくっています。もともとレストランのバーで働いていたのでお酒を食事に合わせることが多くて。だからペアリングみたいなことを考えることが日常だったんです。何かひとつの味をつくるというよりは、AとBとCを組み合わせて、そのすべてを味わいながら、組み合わさった部分も楽しめるようにしたいんです」

お店のスタイルはもちろん、主役であるカクテルに関しても、一般的なバーのイメージとはちょっと違います。肩肘張ることなく気軽に入れるこういうお店が、奥渋のような場所にあると通ってしまうわけです。

「日本でお酒を飲める店って、その大半が格式が高いバーやレストランか、安い居酒屋の両極端ですよね。海外を見ていると、カジュアルでみんなワイワイと飲んでいるのに、お酒もちゃんとおいしい店っていっぱいあるんです。ぼくもそういう店をやりたかったんですよ」

オーセンティックなバーとは一線を画すカジュアルな店構え。店内に飾られたオリジナルのエプロンは購入も可能。

そうして「リキッド・ファクトリー」がスタートしたのは2019年。今年9月でオープンから4年になりますが、これからどのような展開を考えているのか気になるところ。

「いまぼくがやっていることって、目標とは違うことなんですよ。だからあまり具体的な目標とかないんですけど、強いて言うならレーシングチームをつくりたいです(笑)。いまできることをコツコツとやりながら、思いもよらないことができればいいですね」

LIQUID FACTORY

営業:9:00〜25:00(17時までカフェ営業、土曜・日曜は11時オープン、日曜・祝日は24時クローズ、月曜定休)
住所:東京都渋谷区宇田川町42-12 SALON 渋谷1階
電話:03-6416-5252
Instagram:@liquid.factory

齋藤さんのおすすめの店
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西洋文化と東洋文化が邂逅したカクテル。

齋藤さんがおすすめしてくれたのは、今年5月に恵比寿にできたバー「アンノウン」。聞くところによると、かつて一緒のチームだったバーテンダーが店に立っていて「クオリティは間違いない」と話します。

「焼酎など日本のお酒をベースに、お茶などを使用したカクテルを出しています。オーナーはもともとお茶の専門店で働いていたひとで知識や技術が豊富。カクテルは西洋からきたものですが、それが東洋の文化と交わるのが面白いんです」

unknown

住所:東京都渋谷区東3-25-3 ライオンズプラザ恵比寿
電話:03-6427-2239
営業時間:18:00〜26:00(日曜定休)
Instagram:@unknown_ebisu_tokyo

「LOBBY」recommended by 黄田 “驚き”を求めて池尻大橋にピットイン。

レモンサワー2杯で顔が真っ赤になる自分にとって、お酒に求めるのは量より質。ワガママを言うなら、驚きもほしいところ。それらを満たしてくれるのが、池尻大橋にある「LOBBY」です。駅から徒歩3分。雑居ビルと駐車場の間にある扉を開けると広がるのは、異国にあるホテルのロビーのような天高の空間。運営・空間デザインを手がけるのは、クリエイティブスタジオ「&Supply」。シンプルな空間には彼らによるアートワークや経年変化を見越した木製やスチールの什器が並び、居心地の良さも相まって高揚感が湧いてきます。

スタッフの萌子さんは元看護師。お酒好きが高じて、1年前に入店。「私なんてまだまだですよ」と言うけれど、シェーカーさばきは鮮やか、そして絶品。「ロビー」に並ぶワインのセレクトも担当している。

「ロビー」が掲げるコンセプトは、“ストリートバー”。誰でも気軽に立ち寄れる場所でありたいという思いが形になっているから、お酒の弱い僕でもふらりと店を訪れられるのです。だけど、軟派な店というわけではありません。

メニューには、LIGHT、MIDDLE、STRONGの3つのカテゴリが並び、オリジナルカクテルは20種近くがオンメニュー。その日の気分やお酒の強さによって、セレクトできるというわけです。

世間話もそこそこに「外暑かったのですっきり目で」と、萌子さんにオーダー。

ほうじ茶&Cacaoのwhisky sour ¥1,300
数滴で深みと苦味が加わるという、アンゴスチュラ・ビターズが味の決め手。

華麗にシェーカーを振り、ものの数分でサーブされたのは、ほうじ茶&Cacaoのwhisky sour。京都の西出製茶場の香り高いほうじ茶の茶葉を漬け込んだウィスキーをベースに、ひよこ豆の煮汁“アクアファバ”とレモンジュースをブレンド。ほうじ茶の豊かな香りが訪れたあと、すっきりとレモンのフレーバーとアクアファバのコクが全体をまろやかにまとめ上げてくれます。ほんのりと苦味もあるけれど、爽やかな飲み口で夏にはちょうどいい一杯。

Tirami su! ¥1,450
デザート感覚でするっと飲める一杯。岡村靖幸の『カルアミルク』が頭の中で流れた。

「私のお気に入りです」と萌子さんが言っていたTirami su!も気になるところ。メニューには、“食すティラミスから飲むティラミスへ”と書かれており、甘党の自分としてはスルーできそうにない…と、誘惑に負けて注文。赤らむ顔はさらに色濃く染まります。

スプーン不要のティラミスを口元へ招くと、確かにティラミスの風味が口いっぱいに広がります。甘みの奥に感じるのは、チーズのまろみとコーヒーのビターな味わい。カルアミルクよりも軽くて、さらっと飲める。晩夏や初秋が恋しくなりました。

どのカクテルも、こんなアプローチがあったんだと驚くものばかり。これらのカクテルを監修しているのは、目黒のバー「014」の健介さん。業界人やグルマンからも一目置かれる方が、「ロビー」のムードに合わせて考案しているから、さまざまな“味体験”が堪能できます。それを支えているのが、カウンターに並ぶ色とりどりのオリジナルリキュール。“プレミックス”とも言うそうで、ほうじ茶の茶葉を漬け込んだウイスキーをはじめ、マスカルポーネチーズを合わせたブランデーや粒マスタードを漬けたジンなど、多種多彩。「ロビー」にとって、秘伝のタレとも言うべき代物が、新しい味わいを生んでいるのです。

壁面に描かれたアートワークをはじめ、Tシャツなどのマーチャンダイズも「&Supply」が制作。姉妹店として神泉の「Hone」、代々木公園の「nephew」がある。

いやはや、カクテルって、科学のように広くて深い、とグラスを片手に独り言ちる。ビールやワイン党の萌子さんもこの店で働くようになり、カクテルの魅力に目覚めた1人です。「ここで働くまで、カクテルはそんなに飲んでなかったんです。でも勉強もかねて飲むようになると、同じメニューであっても店やバーテンダーさんによって解釈やアプローチが違うってことに気付かされて。微妙な違いなんですけど、段々とそのニュアンスがわかってくるようになってきました。そうすると面白くて、奥深い世界だなって」

カクテルについて丁寧に教えてくれるし、萌子さんのように他愛のない会話に付き合ってくれるスタッフさんばかり。しかも、オーセンティックバーに漂うようなピンと張り詰めた緊張感はここにはない。だけど、味は本格的で知られざる世界へと連れて行ってくれる。この開放感と気軽さに誘われて、今日も池尻大橋の小道へと足を運んでしまうんです。

LOBBY

住所:東京都目黒区東山3-6-15 エビヤビル 1F
電話:03-6303-4814
営業時間:19:00〜24:30(金曜・土曜は25時まで)
休日:日曜・月曜
オフィシャルサイト
Instagram:@lobby_ikejiri

萌子さんのおすすめの店
SWIG

陽気と洗練が溶け合う、渋谷の社交場。

「スタッフさんもイケてるし、マジでかっこいいお店」と、萌子さんがプッシュするのは、中目黒の伝説的なバー「ベリー(Berry)」の2号店「スウィグ(SWIG)」。営むのは、Fred、Jack、Inukのクールな3人で扉を開けた瞬間に「ここは間違いない」と確信するほどのスタイリッシュさ。

店内には英語が飛び交い、皆ゴキゲンなムードで、活気に満ち溢れている。そりゃ萌子さんが絶賛するわけだ、と深く納得しました。「味も内装も雰囲気もハイクオリティ。でも入りやすいんですよね。とりあえずスパイシーメスカリータを頼んでください。パンチがあって、夏にぴったりでした」。確かにガツンとしたスパイシーさが鼻腔をくすぐります。友達だけじゃなく、年上の先輩に紹介しても恥ずかしくないバー、それが「スウィグ」でした。

SWIG

住所:東京都渋谷区渋谷1-6-3 ヴィラファースト渋谷
営業時間:19:00〜25:00(日曜・月曜定休)
Instagram:@swigtokyo

「JANAI COFFEE」recommended by 常重 隠し扉の先に広がる、
居心地のいいユートピア。

あの扉の奥にこんな空間が広がっているだなんて、だれが想像できたでしょう。上品でおしゃれなフレンチから人懐っこい町中華まで揃う恵比寿に位置し、表向きは完全にコーヒースタンド。その名も「ジャナイ コーヒー(JANAI COFFEE)」。

でも実はこのバー、だれでも簡単に入れるわけじゃないんです。といってもそこまで難しい話でもありません。とある謎さえ解いてしまえば、バーへの扉がギギっと開き、気づいたときには優しいコーヒーの香りが漂う空間に誘われているのです。謎解きのヒントはオフィシャルサイトにあり。読み進めると、なんだか改行が不自然なような……。「いや、まさかね」なんて思わずに、まずは指を動かしてみてください。指をくるっと、ね。

そんな仕掛けの背景には、「来店してくださるお客さまに共通の体験をしてもらうことで、ポジティブな空間が生まれるのではないか」という構想があったそう。

ホテルのラウンジのような内装も、お客さまにゆっくり楽しんでほしいという気持ちの表れ。話を聞かせてくれた、共同代表の大槻将之さんはこう続けます。

「とにかく居心地のいい空間にしたかったんです。お客さま同士、そしてバーテンダーとのコミュニケーションが弾むような。お酒を選んでいただく際も、“〇〇年ものの〇〇”とか、“〇〇産の〇〇”だとか、そんな堅苦しい話はせずに、名前やジャケットで選んでいただくようにしているんです。バーに慣れていない方はそういう話で身構えてしまうケースって多いと思うんです。そういうお客さまを増やさないよう、“バーの敷居を下げること”はつねに意識してやってきました」

Coffee Lemon Sour ¥1,400

その話の通り、カウンター奥の棚には見慣れた定番のお酒から、思わず選びたくなるような素敵なジャケットのボトルが所狭しと並びます。この日オーダーしたのは、お店の定番だという「Coffee Lemon Sour(コーヒーレモンサワー)」。

「通常は焼酎をベースにするレモンサワーですが、うちはジンをベースに大分県産のサフランをインフュージョン。香水にも使われるようなものなので、グラスを近づけたとき爽やかな香りが鼻を抜けてくれます。さらに“ベルジュ”という未熟なブドウから作られた酢と、自家製で発酵させたレモンシロップを合わせて、柔らかい酸味を出しています。上には“ハニープロセス(コーヒーの加工法のひとつで、収穫したコーヒーの果肉だけを取り除き、粘液質を残したまま乾燥させる精製方法のこと)”で甘さがしっかりとしたコーヒーをフロート。コーヒー感をしっかりと残したまま、そこに酸味とリフレッシングな香水のような香りが楽しめるカクテルです」

飲み進めるごとに次々と味が変わり、苦味と酸味、そしてほのかな甘味も同時に楽しめる不思議な1杯。定番として人気であり続ける理由は、そんな口を飽きさせない心地よい驚きが詰まっているからかもしれません。

ここまで読んでいただければお分かりのように、バー店内に入るための“謎解き”の仕掛けは、お客さまを想う従業員の創意工夫のひとつに過ぎないのです。1杯のカクテルへのこだわり、くつろげる空間へのこだわり…、それを追求し続ける風土が「ジャナイ コーヒー」にはあるのです。

「従業員のことを“プランナー”と呼んでいるんです。トップダウンで何かを決めるのではなく、思いついただれかがメニューを提案して試飲会をしてみたり、こういう内装がいいんじゃないかと提言したり…。お店をよりよくしたい、よりお客さまに楽しんでもらいたいという想いを全員で共有できているというのは、組織として誇らしいことだと思っています。これからも初心を忘れることなく、組織一丸となってよりよいお店づくりに努めていきたいです」

JANAI COFFEE

営業時間:18:00-24:00
住所:東京都渋谷区恵比寿南2-3-13山燃ビルB1
オフィシャルサイト
Instagram:@janai_coffee_b

石田さんのおすすめの店
Bar Tram

禁断の味がする!? 薬草酒を楽しむならココ。

この日、バーテンダーとしてカウンターに立たれていた石田さんが紹介してくれたのは、同じく恵比寿エリアに佇む「Bar Tram」。今年で20周年を迎えた“間違いない”バーとのこと。

「アブサン(ニガヨモギを主原料としたリキュールで、独特な香りと心地良い苦味をもつお酒)を中心とした世界の薬草酒と、それらを使ったカクテルが楽しめます。この時期ならではの『アブサン・フラッペ』で爽快感を楽しんでみて」

Bar Tram

住所:東京都渋谷区恵比寿西1丁目7-13 スイングビル 2F
電話:03-5489-5514
営業時間:19:00〜27:00(日曜・祝日は26時まで)
Instagram:@bar_tram

「THE HISAKA」recommended by 須藤 二面性をもつ、高田馬場のクラフトジンバー。

“MAIN BAR(裏側)” のスペースの内装は、海外のバーの雰囲気を意識したそう。たとえば白い蛍光灯がランダムに配置された照明は、小倉さんが台湾に行った際に訪れたバーから発想を得た。

学生の街と謳われる、東京・高田馬場。カクテルバー「HISAKA」は駅から5分ほど歩いた、ビルが立ち並ぶ路地に店を構えています。他店にはない魅力を挙げるならば、 ”クラフトジン” をベースにしたカクテルが楽しめる点でしょう。そして聞くところによると、店内には “表側” と“裏側” のスペースがあり、月曜日は学生デー、地方をテーマにゲストアクトやセミナーも実施、と気になるキーワードがちらほら。そんな断片的な情報をもとに、同店にお邪魔しました。

オーナーの小倉広康さんは、2019年の自身が27歳だったときに旧店舗となる「Bar hisaka」をオープンさせました。「前の店舗はいまのお店から徒歩5分くらいのところで、四坪の狭いお店でした。そのときからクラフトジンのカクテルをテーマにしていて、高田馬場問わず、いろんな街からお客さんが来てくださってました」

現店舗は19坪と、前の店の5倍もの広さで、小倉さんはそれを2つのスペースに分けたという。「表側である “TASTING ROOM” は立ち飲みでジンも買える角打ち居酒屋のような雰囲気、裏側である “MAIN BAR” は海外の潜り酒場のような感じ。裏側は、表側にある棚をスライドすると入れる仕掛けです」

アメリカの禁酒法時代に生まれたもぐり営業のバー “スピークイージー” を例に出しながら教えてくれた小倉さん。そのカルチャーは東京でもコロナの影響で再燃しているよう。「あの時期、お店によっては会員制にしたり、工事中の紙を貼ってるけど営業をしていたり、みんな試行錯誤をしていました。コロナ禍でもお客さんの希望を叶えようとしていましたね」

肝心のクラフトジンはというと、どちらのスペースも棚に所狭しと並んでいます。海外から取り寄せたものから、日本の山奥にある蒸留所のものまで、ここに来ればクラフトジンの現在地を知れるのではないかと思うほど種類が豊富です。

TASTING ROOMでは購入も可能。家で気軽にジンを呑み比べられるようにと、自社でわざわざ小パックに詰め替えた商品も。ジンを普及したいという熱い思いを感じます。

その熱量はMAIN BARでつくるカクテルにも。「すべてオリジナルで、メニューは僕が考えています。蒸留所の環境や特徴、使われている素材など、調べられる限りのことを調べて、このジンをどこまで活かせるかを考えます」

生産地を辿ってそこからアイデアを広げていくのは、レストランのメニュー考案とも似ています。しかしカクテルならではのこだわりも。「国内外のトレンドも意識しつつ、あとは仕掛けも大事。たとえば風船がついた花火をカクテルに差して、最後にその風船を割るという演出をしたことがあります。動画を撮りたくなるような、お客さんが喜ぶ演出を加えるようにしています。あとは自分の実体験をそのまま反映させた、五感を刺激するメニューも」

JAPANESE TEA SET

そんな話を聞いたあとにおすすめのカクテルを注文すると、あの街の情景が浮かぶ一杯が出てきました。「『季のTEA』という京都のクラフトジンをベースにしたカクテルです。自分が京都でみたらし団子と抹茶を食べたときに、甘いものと苦いものを掛け合わせるのはカクテルと似ているとふと思い、そのままメニューにしました」

下の層がみたらしで、上の層が抹茶。グラスのフチにはしょうゆパウダーが添えてある。飲む前にふわりと香るみたらしの甘みが京都に誘ってくれるよう。抹茶の渋みは、日本のボタニカルをふんだんに使った「季のTEA」といい調和をはかり、パウダーを舌にのせれば驚きとともに、京都の輪郭がはっきりとしてきます。

今年6月、カクテル大会「ワールドクラス」の世界チャンピオン・金子道人さんを招待し、ゲストイベントを実施。金子さんのお店がある“奈良県” をテーマに、現地の蒸留所を呼んでジンセミナーも行なった。

小倉さんが日々考えているのは、目の前のお客さんに喜んでもらうことと、そして世の中にクラフトジンやいいお酒を広めることだという。「7月から “マンデー学割” を導入していて、毎週月曜は学生証を見せると価格帯を抑えた学生限定のメニューを楽しむことができます。いかに安く飲むかが若い子の発想ですが、きっとバーという存在を気になっている子も多いはず。彼らがトライしやすいように設けました」

その視線は、地方や海外にも向けられています。「日本は地域によってバー事情もトレンドも違うので、それを東京で体感してほしいし、いろんな蒸留所やメーカーがあることを知ってほしいんです。いずれは海外からバーテンダーを招待したり規模を拡大したい。僕らの世代は発信できるのが強みなので、それを活かしてバーの存在をオープンにしていきたいです」

THE HISAKA

住所:東京都豊島区高田3丁目8番5号 セントラルワセダ 1階
電話:03-4363-9683
営業時間:17:00〜23:00
オフィシャルサイト
Instagram:@the.hisaka

小倉さんのおすすめの店
Bar Composition

独創的な世界観で、ライト層にアプローチ。

小倉さんがおすすめしてくれたのは「Bar Composition」。西新宿の飲み屋街に位置していて、階段をおりた地下に入口があります。独特の世界観が構築されたお店ですが、そのコンセプトには同志のようなものを感じるという。

「オーセンティックな雰囲気なんですが、独自の変わったカクテルを出していて、その演出もおもしろいんです。オーナーの小倉さんはソムリエの資格を持っていて、お酒の知識も豊富。年も近くて、『HISAKA』と同様、ライト層にもバーに来て欲しいという思いでお店をされています」

Bar Composition

営業:17:00〜26:00(日曜定休)
住所:東京都新宿区西新宿1丁目15−7 新宿西口ライフビル B1
電話:03-6258-0799
Instagram:@barcomposition

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