こんな時代だから、楽しいほうにフォーカスを当てる。

ーA.M.C.の第3回目も最高でした。楽しませていただきました。
小林: よかったね、本当にね。浜ちゃん最高だったよ。想像していたより、はるかによかった。浜ちゃんに頼んで本当によかったなって、ライブを聴きながら思ってた。
ーあの小さな空間の中で聞く浜崎さんの声とギター、圧倒されちゃいました。
小林: 浜ちゃんが全国で弾き語りツアーやってたのは知ってたんだけど、あえて行かなかったのね、どこにも。 出演の依頼してんのに(笑)。お客さんと一緒で、予定調和じゃなく、どういう曲をやって、どんなふうに歌うのかを前段なしで聞きたかったから。思った通り、いや、思った以上だった。
ー浜崎さんとはプライベートでも会うことはあるんでしょうか?
小林: そうね。たまに会ったりはするし、今回もこうやってお願いすることになって、何回か飯も食ったよ。ウチのかみさんに至っては俺よりも長く浜ちゃんを知ってるし、彼とはいつ会っても不思議と普通に喋れるんだよね。
ー毎回思うんですけど、A.M.C.が持っている空気感は、どのイベントとも違って心地よいなと。
小林: いまは、世の中から降ってくるニュースは嫌な話ばっかじゃない? そして本当に遊びづらくなってる。だから「〇〇禁止」とか書いてない場所で、 普段なかなか会えない連中が年に1度だけここに集まってさ、わいわいやってっていう感じ? それがいま言ってくれた空気感に繋がってるのかもね。


ー小林さんとの面識がある人も多いなかで、同窓会のような雰囲気も感じました。
小林: その感じがいいよね。やっぱり集まる口実がどうしても必要でしょう、大人になると(笑)。
ーただ、小林さんがおっしゃったように、世の中はずっと暗いムードが続いていますよね。
小林: 嫌なことなんて、ほっときゃどんどん降ってくるわけだから、どこにフォーカスして生きていくかはとても大切だと思ってる。BE GOODの状態をキープして生き続けたいんだったら、あまり負のエネルギーが渦巻いてないところにフォーカスするべきだろうなって。イヤなことばかり考えてると、精神的にやられちゃうもの。

小林: 都会にはさ、気兼ねせずに逃げられる場所はもうないでしょ。例えばほら、商業施設で楽しいところがあっても、騒いでると怒られちゃうだろうし、クラブでも外に出て話してたら警備員が駆け寄って来て「すぐ解散してください」みたいなさ(苦笑)。当然、近くに住んでる人の身になりゃ当たり前なんだけど、 なんかそんな話ばっかりになっちゃった。楽しいはずの人との絡みが、すぐめんどくさい話にされちゃうし。 だから、自分で自分たちが楽しい場所をつくるしかなかったんだろうね。
ーその場所が「水源の森 キャンプ・ランド」だし、A.M.C.であると。
小林: そう。だって、俺が長年通ってきた長野の森の中までみんなに来てもらうわけにいかないもの(笑)。しかも、キャンプをするっていうはっきりとした方向がないとみんな来てくれないんじゃない? 自然やテントの中で過ごすの楽しいよね、みたいなことを共有できる連中が、要するに山に心寄せる連中が集まれる場所があるといいよねっていう。
ーまさに「HOLIDAY IN THE MOUNTAIN」ですね。
小林: そうだね、そういうことです。
ー浜崎さんもライブ中に「チャージされる」とおっしゃってました。
小林: ああ、言ってたね(笑)。すごい面白がってやってたみたいだよ、ライブを終えてからの初キャンプ。

ーA.M.C.はいい意味でずっと変わらないなと感じるんですけど、規模を大きくしようとかは考えていないんですか?
小林: みんないまの時代「広げないと」って強迫観念にかられてるじゃない?でも、俺らは広げられた情報より、自分で取りにいく情報のほうが大事だったわけでしょ。情報を与えられるのがパワーじゃなくて、ない情報から鼻をきかせて情報を取りに行くのがパワーだから。
ーいまの時代でも、楽しい話はあまり表には出てこないかもしれないです。
小林: そうでしょ? 拡散とかシェアとか言うけど、それを考えるより先に、楽しい状況を設定してあげることの方が大事だとずっと信じてきたし、それが誰かに広がる話じゃなくたって構わないと思ってる、それがちゃんと楽しいことならね。
ーたしかに拡散やシェアに関しては、多くの人が取り憑かれていると言ってもいいかもしれないです。
小林: A.M.C.みたいに超クローズドサーキットにすると、なにをやるかわかってもらいやすいし、知らない誰かに対しての過剰な“すみません”もないしね。なにより、禁止がないのが最高だな。だから企業広告は一切入ってないし、そんなの、一円ももらいたくないっていう気持ち。
ーなるほど。

小林: ただ、そのクローズドサーキットのなかで、みんなが楽しめるものをつくれるかが大命題で。正直、採算は合わないけど、この祭りでは採算は大事な話じゃないんだよね。ちょい脱線するけど「COW BOOKS」も街の本屋がやりたいっていう強力な気持ちがあるから……古本屋が効率の悪い商売でもずっと続けたいし。「本屋のない街は最低だ」ってところからはじまってるからね。
ー「COW BOOKS」の話が出た流れでお伺いしたのですが、長年見守ってきた中目黒の街もだいぶ変貌を遂げています。そこに対する思いはありますか?
小林: ポップになってきたね。うちらとバランスが違う人も増えてきて、おもしろい。時代時代で、街角の顔役は変わっていくものだからさ。俺が好きだった中目の店はことごとくなくなってるけど、街の変化はおもしろがる以外ないよね。そもそも、俺らだって歴が長いだけで、その実とんでもない数の砂粒のひとつなわけでしょう!?(笑)。だから、どうってことないよ。

ーありがとうございます。話を戻して、やっぱりなにごとも、手のひらサイズがいい、ということになるのでしょうか。
小林: そうだね、それぞ自分にとっては極上。嫌でも広がっていく世の中だから、もう、広がる話を前提にしなくてもよし、と。おもしろかったことって、絶対ほかの人にしゃべるんだからさ。SNSがあろうがなかろうが、伝わるスピードがちょっぴり違うだけの話なんじゃない? そもそも、まずは自分でおもしろがるっていうのは俺らの原点でしょ。
バンドのライブとかも同じだと思うんだけど、お目当てのアーティストを見にいってブチ上がるのはもちろんなんだけど、同時に知らないバンドの音をうっかり聞いた瞬間に全知全能かたむけて、そこに対して体が開けるか、要はおもしろがる力が本当に大事だと思うんだよね。
ー今回もありがとうございました。また来年も、楽しみにしています。
小林: またおいでよ、待ってるからさ。