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FEATURE|It’s a family affair. ハイバイ・岩井秀人と写真家・植本一子。家族に理想のカタチはあるのか。

ある意味これ、被害者の会。

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いま、写真と文章だと、どちらが比率的に多いんですか?

植本うーん。文章のほうがちょっと多いかな? 写真家なんですよ、基本は。

岩井ね。それをすっかり忘れてました。

植本減りましたね。でもいま、本当に見逃せないから、石田さんのことを。書き続けなきゃと思ってて、ちょっと集中しようかなって感じがありますね。

本にも書いてあったと思うんですけど、ずっとやってきた写真ではなく筆を取ったのは、そっちのほうがより強いからですか?

植本より伝えられる……そうですね。伝えたい欲求がすごい強い感じしますね。

岩井なんなんですかね。伝えたい欲求ってね。

植本あ、でもね、すごく孤独だったからだと思います。

岩井もともと?

植本うん。実家にいるとき、家族に味方がいないなって思ってたんですよ。なので、お母さんと仲いいっていうのは、すごいうらやましくて。

岩井兄弟は?

植本お兄ちゃんがいるんですけど、9歳上だから。

岩井じゃあ、ちょっと。

植本うん。ほぼほぼひとりっ子みたいな。

岩井お父ちゃんは空気だし。

植本そうそうそう。

岩井お父ちゃん空気って、どのくらい空気なんですか? 働いて帰ってきて、すーって?

植本そう。趣味人なんですよ。

岩井巻き込んでくれないの?

植本昔はね、バレエとかオーケストラとかを一緒に観に行ったりもしました。音楽が好きで、防音の部屋をつくって閉じこもっちゃうみたいな感じ。

岩井それは、子ども邪魔って思ってそう。

植本そうそう。そうでしょう。

岩井怖いもん。精密機器、壊されたらね。

植本オーディオマニアでレコード大好き。でも映画を借りてくれたりとか、CD借りてくれたりっていうのは、全部お父さんで。そういうところはよかったなって思うんですけど。

岩井父ちゃん、(植本さんの本を)読まない?

植本いやー、なんか読んでるっぽいですけどね。

岩井ノーコメント?

植本ノーコメント。うん。ノーコメントです。いや、怖いですね。お父さんが観に来てたっていう岩井さんの話。本当に怖いなって思って。

岩井抜き打ちでしたからね。

植本あー怖いっ。

岩井いるはずのない所に、いるはずのない人がいると最初わからないですね。「あれ、誰だっけ? この人」って、レイヤーが重なるまでに時間がかかって「父ちゃんだっ!」って。ニヤニヤしながら寄ってきて。

終演後に気づいたんですか?

岩井終演後ですね。

植本どうでした? ハッて?

岩井だから、やばいと思って。まさに父をモチーフにした登場人物が出てたんで。「モロじゃん」と思って。そしたらニヤニヤしながら近づいてきて「いやあ、もう全然わかんなかった」って。その瞬間は「え、こんなに意味ないことってある…?」って思って。一番あいつに伝えないとダメなのにって思ったんですよ。だけど、ここで父が「あれ、俺のことだ」っていうようなタマだったら、そもそもあそこまでの狼藉はすまいと。じゃあ、なんのために俺はやってんだろうって思ったけど、結局ある意味これ、被害者の会、ってことでいいんじゃないかと。

一同(笑)。

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岩井もしくはその予備軍。自分も含めて「ああなっちゃう可能性あるよね、われわれ」って。予備軍として、予防接種してる感じで受け取るしかないのかなと。

劇団初期の頃の登場人物で、すごいファシストな演出家がよく出てたんだけど。演劇界って、とんでもない演出家が結構いるんですよ。大学のときに面白かったのが、演出家が(ある学生に)スリッパをバーンって投げて「身に染みてわかれよ!」って言ったんです。ぼくは演出助手だったので、どうするんだろって横で見てたら、もう片っぽのスリッパもバーンって投げて、「身に染みてわかれよ!」って言ったんですよ。で、「あれ、もう1回言った」と思って。

その日の稽古終わりに打ち上げがあって、その演出家が「岩井、聞いたか?」って言い出して。「え、なんすか?」って言ったら、「今日俺、身に染みてわかれよって言ったよな? 身に染みてわかれよだぞ?」って、めっちゃ自分の発言に酔ってるんすよ。これ、ヤバいなこの人…と思って。だからその人から本当に目が離せなくて。とんでもない空気なんだけど、これを客席が囲んでたら、絶対みんな笑ってくれると、ずーっと思いながら見てて。

大学を出てからその演出家をモチーフにして、興奮していく様をずっと書いていくうちに、この人のセリフいくらでも書けるなって自分で思い始めて。ってことは、自分の中にもそういう部分がどこかあって、多分、これは父親だと。うちの中では、そういう謎の名言が多かったんですよ。自分が若いときには、勉強するのに(寝ないように)足に何か刺したとか、隣の部屋で姉ちゃんが結核で血を吐いてるんだ、とか。それで、こっちも聞き飽きているのがわかったんでしょうね、ちょっと新ネタ出さないとみたいな感じである日言ったのが、「俺は毎朝、毎朝、自分の尻の穴を自分の尻の穴に戻してんだよ!」っていうのを泣きながら言ったんですよ。あとで母に聞いたら、ただの脱肛だった。

一同(笑)。

岩井そのエピソードで自分が苦労してきたことを知らせたって思って、カタルシスまでいってるってことがすごいというか……。ようは、そういう描写を書いたわけですよ、父親の。それを本人が観に来て、さすがに伝わるだろうと思ったら……。

植本伝わらないんですよ、本人には絶対。でも、やっぱりどっかで伝わってほしい、わかってほしいっていうのはすごいあってわたしも書いてたんだなっていうのに気づいて。でも、やっぱ伝わらなかった。っていうところから始まる感じもありますね。

岩井じゃあ、やめるかって言ったら全然やめたくはなくて。やっぱりいろんな人とこれについて話したり、「いや、うちもそうだった」とか言われたら、それ知りたかったりするし。うちは、お母さんが厄介じゃなくてよかったと思いますね。お母さんは唯一の仲間みたいな感じはあったんで。

植本あれ、すごいモチーフよかったです。(『て』のなかで)カラオケを「あんただけ歌ってないでしょ」みたいな。

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岩井あれ、“ザ・日本”なんでしょうね。

植本そう。すっごいやだった。で、お母さんが「ごめんね、ごめんね」みたいな。わかると思って。

岩井ぼくも父ちゃんが「家族でカラオケに行くぞ」って言ってる車から飛び出して逃げたことある。絶対やだと思って。うち、兄が一番やられてるんですよ。木刀でボコボコにされて、血だらけで階段上がってくるのを見ましたからね。「正座しとけ」って言われて、一晩中正座してたりとか。一番恨んでるはずなのに、兄ちゃんの中でどういうふうに消化されてんだろうなって。

植本こういうの許せないんでしょうね。

岩井うん。だから兄がぼくの作品もどういうふうに観てるのか、全然わかんない。

植本観には来る?

岩井『て』は、たまたま来たんですよね。このときも抜き打ちで来て。

植本やだーーー。

岩井演劇の中で兄はすごくいい風に描かれているんですよ。ぼくもだいたいの流れは現実から持ってきてるけど、効果をちょっと強めるために前半の兄を実際よりちょっとだけ悪くして、後半の兄を実際よりちょっといいやつにしてるんですよね。だから現実通りじゃないはずなんですけど、出演者から「お兄さん、どのくらい本当なんですか?」って聞かれたとき兄がサラッと「いや、だから、まあ本当、弟はよく見ててくれたなっていうのは、正直ある」みたいな。おいおい、と思って。

植本上からですね。

岩井すげー上からでしたね。

植本不思議だなー。

岩井までも僕自身も、何してんのかよくわかんなくなりますね。

植本でも向き合わなくて、やり過ごす人たちが大半なんだろうなっていうのは本当に思ってて。そういう人たちに引っかかったり、嫌悪感を示されたりしてる。

岩井嫌悪感も含めてなんですよね。ひどいっていうようなものも含めておかないとまずいんだろうなって気がする。

植本家族幻想みたいなのがあるんですよね。家族はこうあるべきっていうところにハマるのが本当に楽だから、みんな。自分が本当はどう思ってるかみたいなのは、絶対に掘り下げない。なぞっていくというか。そういうのって、しんどくないのかなって思うんですけどね。

「作品を通して、セルフ・カウンセリングをしてる。」
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