9時〜17時以外の時間にどう生きるか。
完成した製品は、インドからコンテナで世界中に発送されていく。ちなみに、〈プエブコ〉の物流拠点は世界に10箇所あり、卸先はいまや国内外に300以上ある。そして、2024年11月にはイタリアのフィレンツェに、海外初となる旗艦店が完成した。会社としては、順風満帆に見えるが…。

タバコ工場だった建物をリノベートして生まれた商業施設の一角にあるフィレンツェ店。
「最近の悩みは、若いスタッフの “スイッチ” を私が押せていないんじゃないかということ。私の場合、前職時代の会社の社長にスイッチを押してもらったと思っているんです。彼に心から感謝しているのは、考え方の部分。それを教わったんじゃなくて、気づかせてくれたということです。私が〈プエブコ〉の社員に繰り返し言っていることがあります。『教わるんじゃなくて、気づけるようになりなさい』と。一定の基礎を教えたら、それ以降はこれをこうしなさいというより、これはどう考えるべき? と聞いた方が、自分の脳みそを使うと思うんです。自分もその社長からそう育てられました。まだ私が前の会社にいた頃、社長が見たもの、感じたものをみんなの前で話してくれる時間が定期的にありました。社長の話を聞いていると、世の中の常識が実は間違っているということが分かったりと、世界を見る視野が広がって、なんだかスイッチを押される感触があったんです」
自分の頭を使い、主体的に仕事をすること。それはつまり主体的に生きることでもある。
「〈プエブコ〉には、指示待ち人間は絶対に合わない。逆に求めているのは、誠実でやる気のあるひとです。これは決して残業を推奨しているわけではありませんが、結果を出すにはひとと違うことをしなきゃいけません。9時〜17時だけ仕事するだけではなかなか難しい。でも、17時以降に机にかじりついていなくても、やれることはたくさんあります。勤務以外の時間でテレビを観ながら、『こういう言い方は上手だな』とか気付けることはいっぱいある。そういうことを人生においてできるかどうかですよね」



〈プエブコ〉がインドに新設した巨大な倉庫と、建設中の工場。
さて、そろそろインドのものづくりの話を締めるとしよう。〈プエブコ〉のインドにおけるものづくりは、果たしてこれからどうなっていくのだろうか。
「インドでものづくりを続けられるのもあと10年くらいかなと感じています。というのも、先行事例として中国の変遷を目の当たりにしてきたからです。徐々にそうなりつつありますが、人件費が高くなり、より安価に済む機械化が進んでいくというのがこれから先のインドで起こることでしょう。インドに代わるような生産地も模索しながら、これから10年くらいはひとまずインドと中国でものづくりを進めていくつもりです」
田中さんは取材中何度も口にした、「仕事でも、人生でも主体性が重要だ」と。むしろ主体的でなければ、どうにもならなくなる時代が刻一刻と近づいてきている。そんな気がする。
正解のないそんな時代に、1,000分の1のひとが喜ぶ答えを求めて、〈プエブコ〉のものづくりは続く。

田中さんの後ろ姿はタオルや毛布の問屋街で。