あの街のこの人

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「人生を変えた一足の革靴」

関 大地

J.S.Homestead 堀江店

「『J.S.Homestead 堀江店』に革靴博士がいるらしい」。そんな噂が飛び交うほど革靴を愛し、いまもなお魅了され続けている人物こそ、このお店に在籍する関 大地さんだ。彼の革靴に対する知識は全国のショップのなかでも随一。お店のなかで革靴の勉強会を開くほどだという。

「たまに知らないお客さまが尋ねてきてくれることもあるんです、『関さんはいますか?』って。他店のスタッフが『革靴のことなら彼に聞くといい』って紹介してくれたみたいで。そのときはすごく嬉しいですね。スタッフ冥利に尽きるといいますか、革靴好きでよかったって心から思います」

関さんが革靴に魅了されたのは〈ジャーナル スタンダード〉に入社する前のこと。当時もショップ店員をしていた彼は、おなじお店で働く先輩のスタイルに影響されたと話す。

「その日たまたま先輩が珍しい革靴を履いていたんですよ。それを見てぼくのなかに電流が走ったというか(笑)、『なんだこれ! カッコいい!』と思って先輩に聞いたんですよね、『このブランドなんていうんですか?』と。そしたら『〈トリッカーズ〉だよ』って教えてくれて。フォルムとか、ディテールとか、ビジネスシューズにはない特長が〈トリッカーズ〉にはあるじゃないですか。そんな唯一無二の存在感を示すその革靴に、まだまだ未熟だったぼくは強い興味を抱いたんです」

そうしてディープな革靴の世界にどんどんのめり込んでいった関さん。どんなところに革靴の魅力があるのか尋ねると、優しい柔和な口調で語り出してくれた。

「デニムとおなじで履く人によって味の出方が違うんですよね、革靴って。履けば履くほど自分の足になじむ感覚がありますし。そうやって履いていると自然と愛着も湧いてくる。足にフィットするまでに時間がかかるんですけど、かかった分だけ思い出も増えますし。出来の悪い子ほどかわいいってよく言いますけど、それとおなじです(笑)」

現在、関さんの家には玄関に入りきらないほど革靴があふれているという。ヨーロッパもアメリカも、さまざまなブランドのシューズに実際に足を通し、どういった変化が起こるのか? どういった魅力がそのアイテムにはあるのか? ということを自分なりに吸収し、知識として蓄えているようだ。

「これは個人的な意見ですけど、やっぱり〈オールデン〉と〈トリッカーズ〉はぼくのなかでズバ抜けた存在ですね。昔から変わらないデザインのアイテムをつくりながら、いつの時代もいろんな人に愛されている。そして、どのシューズもメンテナンスさえ行なえば一生履き続けることができる。それほどクオリティが高いんです」

定番と呼ばれるシューズをひと通り履いた関さんは、いまではショップの別注アイテムなど、珍しい革靴があると物欲が湧くそうだ。

「珍しさでいえば〈トリッカーズ〉がいちばんだと思います。別注できるポイントが多いので、各ショップオリジナリティあふれるアイテムがつくれるんですよ。で、実はぼくもオーダーしたことがありまして…」

そう言って見せてくれたのは、表地にデニムを採用した革靴。靴好きが高じて、イギリスのノーザンプンにあるファクトリーへ訪れた際にオーダーした一足らしい。

「ノーザンプトンはすごくいいところでした。いろんなシューズブランドの工場があって、“革靴の聖地”と呼ばれるような場所なんですけど。〈トリッカーズ〉のファクトリーは意外なことに20人も満たない少数精鋭で運営をしていて、規模を大きくしようとせず、自分たちの手の届く範囲のモノづくりをしているんです。だからこそ、各ショップの細かいオーダーにも対応できるというか。ぼくがデニムで一足つくってもらったときは、『こんな珍しい靴をオーダーするのは君くらいだよ』と職人に言われて。そのときはなんだか嬉しかったですね」

靴が好きでコレクトしているという人はとくに珍しいわけじゃない。しかし、関さんのように海外にまで足を運んで、そのモノづくりの様子をくまなく観察する人は別だ。稀有な存在と言っても過言ではない。実際にノーザンプトンで得た経験は仕事にも活きていると関さんは話す。

「そこで目の当たりにした光景を接客でお客さまに伝えたときに、いままで以上に納得してお買い物していただけるんです。それは自分にとっても嬉しい瞬間ですね。そうやって接客したお客さまがまたお店に戻っていらして『あの靴よかったよ』とか言ってくれると喜びも倍増します。だから接客って楽しいんですよ」

そうして入社した〈ジャーナル同僚や友人たちには「そんなに靴が好きならば靴屋にならないの?」と言われることもあるらしいが、彼にはその気持ちはないそうだ。どうしてなのか? 最後にその理由を尋ねてみた。

「ぼくはお客さまに洋服を通して革靴を提案したいんです。つまり、ファッションツールのひとつとして革靴があるわけで、あくまで主役はファッションであると思っています。とはいえ、シューズは着こなしの土台となる部分。だからこそ疎かにできないと思うんです。そういったことをしっかりとお客さまにお伝えして、ファッションを楽しんでもらうのが、ぼくの使命だと思っています」

Profile

関 大地(せき だいち)
入社4年目。いくつかの関西店舗で販売を経験したのち、現在の「J.S.Homestead 堀江店」へ配属。洋服で好きなブランドは〈S.H.KELLY〉。

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