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アブストラクトを通して、別の視点を提示する。OIL by 美術手帖でアートショーを開催するShohei Takasakiにインタビュー。

© Yosuke Torii

1948年に創刊した美術専門雑誌『美術手帖』が、アートのマーケットプレイスとして「渋谷パルコ」の2階に構えた店舗兼ギャラリースペース「OIL by 美術手帖」。

ここで、7月31日(金)から8月18日(火)まで開催されるのが、世界各国で個展を開催してきたコンテンポラリー・アーティスト、ショウヘイタカサキ(Shohei Takasaki)さんによる個展「sun, snake, nipples」です。

6年ほど過ごしたアメリカ・ポートランドから昨年帰国し、現在は東京に拠点を移したショウヘイさん。日々、作品を制作しているアトリエに出向き、今回の個展について色々とお話を伺ってきました。

PROFILE

Shohei Takasaki

埼玉県出身のコンテンポラリー・アーティスト。ポートランド、ロサンジェルス、クウェート、メルボルン、香港、東京など、様々な都市でペインティングを主体にショウを開催してきた。2019年の夏にアメリカ・ポートランドから東京に拠点を移し、近年取り組んでいるテーマ「機能」を中心に、サイト・スペシフィックな作品を発表している。

「2年前にショーをして以来、東京では開催できていなかったので、やりたいと考えていました。そうしたらキュレーターのエリを通して『OIL by 美術手帖』からオファーをいただいて。『美術手帖』はいいメディアだし、ぜひとお受けしました」

日本帰国後に借りたという白を基調としたアトリエのなかには、いままで描かれた大小さまざまなサイズの作品が所狭し並んでいました。大型の作品も描くショウヘイさんらしく、拠点となるアトリエ探しにも苦労があったそう。

「ポートランド時代は自宅のガレージをアトリエにしていました。日本では最初、アーティスト達と大きな工場跡地をシェアするという話も出ていたんですが、実現にはいたらず。いまの時代はインターネットもありますし、大きな作品を描くアーティストなら安く住める地方でスタジオをシェアをするのも手ですよね。月に何回か街に出てきて会いたいひとに会ったりして」

Found object(sun, snake and nipples)

Found object(snake, plant and bright sun)

今回行われる個展「sun, snake, nipples」。そのまま直訳すると「太陽、蛇、乳首」と、どこかギリシャ神話を彷彿とさせる不思議な文字の並びです。出展されるのは約10点ほどのアブストラクト・ペインティングの作品達。

「今回は、どちらかというとアブストラクトをやりたかったんです。アブストラクトの表現とは、簡単に言うと一見した時に何がモチーフなのか分かりづらいということ。たとえば、パッと見でハサミと分かるような実写的なペインティングはアブストラクトではないですよね。ハサミに見えないようにハサミを描くのがアブストラクト。これはなんだと思う? っていうチャレンジで、観覧者がアートピースと向き合ったときに、本人にとってのストーリーを作ることで生きてくるような作品をつくりたくて。アブストラクトはぼくの原点でもあるんですが、いろいろと学び、一周して帰ってきた感じもあります。気持ちいいですね」

続けざまに、「アブストラクト・アートは、1から10まで言葉で説明して他人を納得させるような表現ではないし、どう捉えられてもまったく問題ない」と。あくまで、鑑賞者が作品から何を考えるかという多角的な気づきを重視する姿勢を感じられました。では、いまのタイミングでアブストラクトな作品を展示することについての意味とは?

「このコロナ禍を機に、いままで自分にとって“普通”だったことが、実は“普通”じゃなかったのでは? と考える機会があったと思うんです。たとえば、今後どう暮らそうかとか、ここに本当にいたいのか、誰と一緒に時間を過ごしたいのかなど、物事を別角度から見るきっかけがありましたよね。アブストラクトな表現は鑑賞者を強制的に考えさせるから、作品と対峙することで、これは何? ここにある理由は? って、何かを考えるきっかけをつくれる。単純だけど、そういう行為はいますごく大切なことだと思うんです」

ショウヘイさんの好きなアーティストの1人にロバート・スミッソンというひとがいます。鉱物や鉄、岩をユタ州のソルトレイク湖に螺旋状に並べた代表作『スパイラル・ジェティ』は、全長約457メートルという長さで、作品を肉眼で俯瞰することはできません。

「ぼくはそこにアブストラクト・アートと繋がるところがあると思っていて。アートピースの一部しか肉眼ではとらえられないなかで、全体像を想像し、作品とコネクトする。大きな作品は、ディテールをだけを見ても何も理解できないですが、そこから想像してこれは何なのかと考えるんです。これは小さなアートピースとの体験の仕方とは異なっていて、そんな所もぼく自身が大きな作品を好む理由の1つと言えますね」

想像するということは、すなわち自分なりにその「もの」がどんな存在かという意味を見出すということ。提示された作品のなかに、そのひとなりの正解をつくっていかなくてはなりません。ただ、そこにはアート作品ゆえの難しさもあります。

「基本的には、『アート・ピース』って興味がないひとからしたらただのゴミなんですよ。アーティストって本当にエコではないですよね。たとえばペインティングだったら、木にキャンバスを張ってあるだけで、物としての『機能』は根本的にはゼロですから。ただ、何もないからこそ面白い。この作品にどんな価値を見いだせるのか、というスペースがそこには多く残っているということですよね。意味がないものに意味を持たせるというのは、人間にしかできない行為です。自分で作品を説明できないアーティストもいますが、ぼくはそれではアーティストとして成り立っていないと思うんです」

今回の個展の詳細をもらったときに、見慣れない点が1つありました。それはアートマネジメントなどで活躍する高根枝里さんがキュレーターとして参加するというのが大きく書かれていたことです。通常はアーティストの名前のみが乗る展示が多いなか、どうしてこのようになっているのでしょう。

「日本ではアーティストの下にキュレーターの名前が大きく出ることは珍しいかもしれません。今回、このショウについて彼女とトーク・イベントをする予定です。ぼくは今後も彼女にはキュレーターやアート・アドバイザーとして精力的に活動して欲しいと思っているし、日本でもインディペンデントなキュレーターがもっと増えていったらいいですよね。ギャラリーやミュージアムも外部のアイディアやマインドを取り入れることでプログラムをフレッシュに保てるという側面もありますしね」

凝り固まった考えに固執することなく、新たな提案も実行していくショウヘイさん。もし、いま何か新たにチャレンジするとしたらと質問すると、シェフや土木作業員、コメディアンをあげてくれました。

「たとば、職人みたいに一生同じことをやれる人はすごいなと思う。ぼくは飽きちゃうし、ミュージシャンで言えばラモーンズみたいなのは苦手(笑)。自分の人生が変わるにつれて、表現も変わっていかないと不自然だなと思います。何かを新しく始めようと思ったときは、とにかくトライしてみないと。どんどん変わっていかないと。『これがショウヘイタカサキだよね』って定義されたくはないんです。フレキシブルにいたいですね、ずっと」

INFORMATION

Shouhei Takasaki個展「sun, snake, nipples」Curated by Eri Takane

会期:7月31日(金)〜8月18日(火)
場所:OIL by 美術手帖
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷パルコ 2階
電話:03-6868-3064
時間:10:00〜21:00(パルコの営業時間に準じる)
観覧料:無料
ギャラリーホームページ
アーティストホームページ

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