コロナ禍において、海外に行くということ自体がずいぶん遠い存在となってしまいました。ですが、行けないとなると余計に行きたくなるというのが人情というもの。皆さん、いまものすごく海外旅行したくありませんか？ というわけで来たるその日まで、海の向こうの様々な情報をお届けするのがメディアの役割なのかなと。というわけで、先月から始まったパリで活躍する関隼平さんの連載、第二回です。
Photo&Text_Jumpei Seki
関隼平
FASHION IMPROVER
1979年東京生まれ。 パリをベースにFashion Improverとして、国内外の様々な企業の価値を高める仕事を手掛ける。 その内容はショップやブランドのディレクションから、合同展などのイベント運営まで多岐に渡る。 2019年10月にはパリ屈指の高級エリアである16区に自身のセレクトショップ「PARKS Paris」をオープン。
Instagram：sekijumpei
Vol.2_THE COOLEST MAN YOU KNOW
みなさまボンジュール！Fashion Improverの関と申します。30代も半ばにして突然フランスに移住してもうすぐ6年。フランス語もままならないままなんとか毎日を楽しく暮らしております。そんな一人のファッション好き中年男性がパリで出会った素敵なショップを、そこに関わる人たちとともにご紹介させて頂く本企画。みなさまと同じフイナム読者でもある、ワタクシ関が見たパリの魅力をお伝えしていけたらなと思っております。
さてさて、第二回となります今回はパリでは珍しい（？）セレクトショップである「ザ クーレスト マン ユー ノウ（THE COOLEST MAN YOU KNOW）」です。
日本って全国にたくさんのセレクトショップがありますが、ファッションの都と言われるパリは、いわゆるセレクトショップって少ないのです。その中でもこの店にはバーバーも併設されていて、毎日朝から格好良い男たちが集まるサロンのような場所になっています。
この場所を作った経緯や魅力を、オーナーでありディレクターのFranckに色々聞いてみたいと思います。
Franck Gauthé
大学で貿易を学んだ後、〈A.P.C.〉と「メルシー（Merci）」で経験を積み2015年にバーバーが併設されたコンセプトストアをオープン。2019年には現在の場所に2号店を作ったあと、共同オーナーと別れて名前を「ザ クーレスト マン ユー ノウ」に変更。セレクトのみならず、世界中の工場を回って作り出すオリジナルレーベルが大きな支持を得ている。
ーサリュー、Franck！今日はよろしく！
こちらこそ！
ーえーと、じゃあまずは最初にオープンした店のことから。「VBS」という名前の店をスタートしたのが６年前だったよね。その頃僕はパリに来たばかりで、アパートを探して不動産屋巡りしていたときに、道に迷ってたまたま入ったんだよね。
うん、覚えてる覚えてる。
ーその前からファッションウィークの時期には何度かパリには来ていたんだけど、こういったメンズのセレクトショップって珍しいなって思ったのね。場所もファッションエリアとは違った中心より少し北にある「Poissonnière（ポワッソニエール）」という駅の近くっていうのも驚きだった。しかもバーバーが併設されているのもすごく面白いって思って。もちろんアメリカには「フリーマンズ（スポーティングクラブ）」とかはあったけどパリでこういう男の世界っていうのかな、あんまりなかったじゃない。
そうだね。
ーそもそもはどうしてショップにバーバーを併設しようと思ったの？
僕は店にクールな雰囲気を作り出したいと思っていたんだ。来たお客さんにこの場所でたくさんの時間を過ごして欲しいってこと。素晴らしい音楽、居心地の良い空間、そこで髪や髭を整えてもらって、リラックスして欲しい。男性の身だしなみを整える場所っていえば良いのかな。とにかく僕が考える世界観を作り出すのにバーバーは絶対必要だったんだよね。
ーショップをオープンする前はどこで働いていたの？
大学では貿易を学んだんだけど、あまり好きになれなくて。デザインが好きだったのと、今のショップの構想はすでに頭の中にあったから、〈A.P.C.〉と「メルシー」で働いてショップの基礎を学んでから、「VBS」という名前の最初の店を2015年にオープンしたんだ。
—Franckのインスタグラムを見てるとたくさんのインテリアの写真が載っているから、そういう仕事をしていたのかと思ってた。
インテリアや建築のデザインを学んだことはないけど、とにかく大好きで。インスタグラムのポストはムードボードみたいな感じの使い方で、気に入った写真をポストしているよ。最初の店もこの店も、内装は僕が自分でデザインしたんだ。デザインは僕にとっての「情熱」。服よりも好きなくらい。
ーそうだったんだ。この場所は「VBS」の2店舗目としてオープンしたんだよね。それはいつ？
2019年の9月だね。その後けっこうすぐに、一緒にやっていた共同オーナーと離れることになって、僕がこの場所を名前を変えてそのまま引き継ぐことになったのが2020年の3月だったよ。
ーそれで店名も「THE COOLEST MAN YOU KNOW」に変わったんだね。この名前の意味を教えてくれる？
僕が考えたこういう文があってさ。
“彼は何も喋らない。彼の服は物語を囁き、彼のアクセサリーは物語を語る。彼の靴は彼が行った場所の記憶を表す。”
つまり格好良い男っていうのは多くを語らずとも魅力が滲み出てくる、という内容だね。前の店名の頃から「ザ クーレスト マン ユー ノウ」というのはコンセプトとして掲げていたんだ。だからそれをそのまま店名に使うことにしたってわけ。
この店はもちろん服を売っているんだけど、服自体が一番大事なことではないんだよ。それよりも自分のスタイルを持つことが一番大切なことだと思っている。もちろんクオリティの高い服があってのことなんだけど、蘊蓄などに縛られすぎるのは良くないよね。僕は誰かにスタイルを押し付けたいとは思わない。これが一番大切にしていることかな。
ー店の名前以外で変えたものってあるのかな？
コンセプトはそのままなんだけど、ビジネスモデルを変えたんだ。具体的にいうとブランドのセレクトの仕方かな。以前取り扱いのあったブランド数は半分以下に減らしたんだよ。もちろん今までも素晴らしいブランドたちと仕事をしてきたし、だからこそたくさんの人に支持されてきて今があることは理解しているよ。
ーよりコンセプトに沿った店作りをするためってこと？
その通り。あるときからどこのショップも同じようなセレクトになっているかなと感じ始めたんだよね。どのブランドを扱っているかよりも、その製品が高いクオリティを持っているかの方が重要だと気付いたんだ。以前からたくさんの良い服を見てきて、自分だったらこうしてみたいという思いもあったから、工場を訪ねて「ザ クーレスト マン ユー ノウ」のための物づくりを始めたってわけ。
ー最初に作ったアイテムは何だったの？
ニットウェアだよ。僕はずっと前からニットが大好きだったから、まずはそこから始めたかった。店の名前を変える前から「ザ クーレスト マン ユー ノウ」という名前のレーベルを始めるつもりで動いていたから、それをリニューアル後の店の名前にそのまま採用したんだ。2019年から工場に行き始めて、商品が入荷したのは2020年になってからだよ。それからシャツや革靴、ソックスなどのアイテムへとラインナップを広げていっているよ。
今はそれぞれのアイテムに合わせた国の工場で、メンズファッションのベーシックを揃えていきたいと考えているんだ。プライスを適正価格にできるというのもメリットの一つだよね。セールをしなくても済むからビジネス面でも良いチョイスだったと思うよ。実際に以前よりも売り上げも利益も上がっているし。
この店に来る人はブランドよりもアイテムのクオリティを求めていることが分かっているから、そこに付いているブランドネームは重要ではないんだよね。だからこそ、今も取り扱いを続けている〈オールデン（Alden）〉や〈パラブーツ（Paraboot）〉、〈デ ボン ファクチュール（DE BONNE FACTURE）〉にはクオリティ面で絶対の信頼を置いているんだ。
ーオリジナルのレーベルではどのアイテムが人気なの？
やっぱりニットウェアだよ。アイテムによってイタリアとドイツの工場で作っているんだ。シェットランドやメリノウール、カシミヤなどたくさんのラインナップがあるよ。
ードイツ製のニットって日本ではあまり見ないから気になるな。確かにすごく良いね。
でしょ。あとは他のアイテムだとイタリアで作っている革靴もすごく売れているよ。やはり価格とクオリティのバランスが売れている理由だと思う。イタリアの職人によるハンドメイドで370ユーロだからね。
ー前は〈コンバース（Converse）〉や〈ニュー バランス（New Balance）〉も扱っていたけど、今はやっていないの？
〈コンバース〉はやっていないけど、〈ニュー バランス〉はMade in UKとMade in USAだけ展開する予定だよ。あとは〈パドモア＆バーンズ（Padmore&Barnes）〉のシューズももうすぐ入ってくるね。
ー日本のブランドはどこを扱っているの？
〈マスターピース（master-piece）〉のバッグは前のショップの初期から今も扱っているよ。あとは〈ロッキーマウンテンフェザーベッド（Rocky Mountain Featherbed）〉も入荷したらすぐに完売するほど人気で、僕も大好きなブランド。今後は有名ではないけど優れた日本のブランドを取り扱っていきたいと考えている。
ーそれは日本のブランドも喜ぶんじゃないかな。日本製でオリジナルも作りたいんじゃない？
そうなんだよ。良い工場があったら紹介して欲しいな。
ーもちろん。これから作っていきたいアイテムってある？
スーツとコートをもっと作っていきたいね。
ーよりクラシックなアイテムってこと？
いや、必ずしもクラシックというわけではないんだ。良い素材を仕立てて、タイムレスなアイテムが作れたら良いなって思っている。一部の人たちに向けたものではなくて、もっとたくさんの人たちに装う楽しさを知って欲しいから。
ージャンルじゃないってことだよね。皆に向けてってのも良いな。共感する。
Coolというのは決して服のことではなくって、その人自身のことだと思うんだ。自然体でいられるためにクオリティの高い服を着ることが大切なんじゃないかな。
ーそうだね。他にはどんなアイテムを作っているの？
あとはフランス製のTシャツとスウェットも作る予定。
ーフランス製のTシャツも今は珍しい存在になりつつあるよね。店にはどういったお客さんが多いのかな？
コロナの前は旅行者も多かったけど、僕たちの店のメインのお客さんは30代から60代の人たちで、僕たちのセンスを信頼してくれてバーバーに来たり買い物してくれている人たちだよ。
ーこうやってインタビューしていても朝から本当にたくさんの人が出入りしているね。バーバーのお客さんもいるんだろうけど。この雰囲気すごく好きだな。
そう、皆が居心地よく過ごせる場所にしたいと思っているよ。だから僕はここがショップだとは考えていないんだ。男性のためのサロンって言えば良いのかな。例えばもし今何も買わなかったとしても、後で欲しくなるような素晴らしい服をセレクトしている自信もあるしね。
ー日本人のお客さんも多いの？
たくさんの格好良い日本人に来てもらっているよ。その理由の一つに中澤さん（バーバー）の存在が大きいと思っている。
ー中澤さんとはどこで知り合ったの？
前の店ができてすぐに彼が遊びに来たんだ。それで色んな話をして意気投合して一緒に働くことになったんだよ。彼はパーフェクトだね。僕たちはそれぞれ異なるバックグラウンドとアイデンティティを持っているから、彼からはたくさんの日本のことを教えてもらっているし、僕からはたくさんのフランスのことを教えている。
ー違うスタイルを融合することで、より魅力的な店になっていくよね。
中澤さんもそうだけど、店で一番大切なことは「人」だよね。どんなに美しい内装で素晴らしい服が並んでいたとしても、店の雰囲気を作り出すのはそこにいる人だと思うんだ。
ーそれは僕も日本で働いている頃から一番大切にしていることだから、とても共感できるな。ところで日本についてはどんな印象を持ってる？
まだ行ったことがないから、いつか行くことは僕にとっては一番の大きな夢だね。日本について最初に思うことはクラフツマンシップかな。全てにおいて作り手側の情熱が感じられるし、それが高いクオリティで完成されていると感じる。僕が今まで見てきた中で日本のプロダクトが一番優れていると思う。もし日本に行くことがあったら、たくさんのことを体験してみたいと思っているよ。
ーこれからこの店をどうしていきたいって思ってる？
パリはここだけで良いなって思っているんだけど、もし他の国で店を出すなら日本しかないと思っている。僕たちのコンセプトを一番理解してもらえると信じているから。僕たちのオリジナルを卸して欲しいというオファーをヨーロッパのショップからはもらうんだけど、卸をするつもりはなくって、やっぱり直営店で世界観を伝えたいと考えているんだ。でも日本の店からの卸のオファーだったら受けちゃうかもね。
ーそっか。たくさん店を出したいとかは思わないんだね。
うん。ただここの店ではカフェを作れたら良いなとは思っているよ。実は同じ敷地の通りに面した物件が空いているから、交渉しているところなんだ。
ーそれは最高に楽しみだね。Franck個人としてはこれからやってみたいことってある？
もっとインテリアデザインをしたいな。自分の店だけではなく、他の会社のレストランとかショップのデザインができたら良いなって思ってるよ。
ーやっぱりインテリアデザインが好きなんだね。それじゃあ最後に。コロナのあとに一番変化したことって何かな？
コロナの前からウェブショップを強化したいと考えていたので、取り組むスピードを早めたことかな。もちろん僕たちにとって一番大事なのがこの場所というのは変わらないのだけれど、ウェブショップを通して「ザ クーレスト マン ユー ノウ」を世界中の人たちに知ってもらえるのはとてもエキサイティングだよね。
ー普段の生活ではどう？ 変わったことはある？
外出する機会が減ったから家族との時間、妻や子供たちと過ごす時間が増えたし、それをより大切だと思えるようになったことかな。
ー僕もそれはあるかも。そういう意味ではこの状況が生んだ良いことの一つだよね。
うん、そう思うよ。
ーまあ、でも早くアペロできるようになりたいけどね！ 今日はありがとう！
こちらこそ、ありがとう！
～取材を終えて～
Coolなのは服ではなくあなた自身
Franckが一番大切にしているのが服そのものではなく、どういうスタイルを表現するかということに強く共感しました。そしてそれが店名にも込められているんだなって思います。あと印象に残ったのは、他のショップとの差別化のために今まで売れていたブランドの取り扱いを減らしてまで独自性を求めていったことで、とても興味深いと感じました。
店をやっている以上、売れることはもちろん大事なことなのですが、今は世界のどこのセレクトショップを見てもブランドのラインナップが均質化されているなと感じることがあります。そこを理解しつつも勇気を持って大きな一歩を踏み出したFranckのこれからを、楽しみに見守りたいと思っています。
さて、次回はパリでもコロナ後にますます競技人口が増えている「ランニング」に特化したショップをご紹介します。お楽しみに！
