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【FOCUS IT.】DASKが二葉をカルチャーシーンへ揺り動かす。世田谷から品川に拠点を移した、オーナー佐藤誠悟の真意とは?

セレクトショップ、カフェ、ブックストア…etc。オーナーの眼光鋭いインディペンデントでディープな店がひしめく世田谷区。カルチャーを求めて小田急線沿いに住う文化人は少なくありません。

世田谷の松陰神社で、その発信源としての一端を担ってきたセレクトショップ「ダスク(DASK)」。3年前にオープンし、いまや名店とも言えるこの店は、しかし2022年の1月に移転を決めました。

場所は品川区二葉。西大井駅まで徒歩6分、中延駅まで徒歩9分の位置に構えています。耳慣れない地名で、すぐには風景が浮かばなかった方も多いのではないでしょうか。

それもそのはず。二葉はどこを切り取っても申し分ないクリーンな住宅街。活力あふれる若者にとってはすこし物足りなさを感じさせる場所かもしれません。

一体なぜ、「ダスク」は二葉を次なる拠点としたのでしょうか?ほやほやの新店舗で、オーナーである佐藤誠悟さんの真意を探ります。

建物にひと目で惚れた。

ー 佐藤さんだけに見えている二葉の魅力があるのでしょうか?

佐藤:いや、ないです(笑)。品川区のことをよく知らなくて、移転を決める前にこの近くをあちこち散策したり、ひとから情報を仕入れたりしてみましたが、以前の世田谷区のような店は見当たらなかったですね。

ー (笑)。なぜそんな場所に移転を?

佐藤:松陰神社のお店が入っていた建物は、借りるときから取り壊される予定だったので、最短で3年後には移転しなければならないことは決まっていました。ただ、“とはいえ4年から7年くらいは持つだろう”みたいな話もあって結構悠長に構えていたのですが、コロナなんかの関係できっちり3年で取り壊すことになりまして。去年の10月からバタバタ物件探しをしていました。

自分が住んでいたこともあって世田谷が気に入っていたので、近くで探していたんですがこれぞという場所がなく…。“場所が決まらないよー”なんてインスタグラムで流していたら、知り合いの建築家の方がここを紹介してくれたので内見してみることにしたんです。

ー 実際に目にしてどうでしたか?

佐藤:もうこの建物のかっこよさに一目惚れです!ぼくは元来、リノベーションされた賃貸とか、改装された倉庫みたいな建物が好きなんですが、ここは新築なのにグッときました。四角い形とか、側面の沖縄チックな様式がよくて。見た瞬間から店の絵はもう浮かんでいました。“ここに商品が並んだときのインパクトはハンパないだろうな”って。いろいろ悩みましたけど、最終的にはこの建物の姿のよさに負けました。

古着もあれば和食器もあり。佐藤誠悟というカルチャーの坩堝。

ー 軒先のサインボードに書いてあるのは、置いてあるアイテムのジャンルだと思うのですが、この何とも言えないちぐはぐ感は一体…?

佐藤:なんか適当でしょ。“VANS”なんてブランド名だし。自分のルーツを詰め込んだらそうなりました。古着があったりスケートボードがあったりポスターがあったり、ラインナップはてんでバラバラだけど、どれも好きなものなんです。

ー とくに食器が並んでいるのが異色な雰囲気です。

佐藤:ここ5、6年は和物の食器にハマってて。長い間80年代ごろのアメリカが好きだったんですけど、キャンプに行きはじめたらローカルなものが気になるようになりました。再発見ですね。お店をはじめてからは陶器市に出かけたり、自分が使っていてよかったものを注文したり、とくに気に入ったものは現地まで赴いて直接仕入れたりしています。女性のお客さんに手に取ってもらうことが多いかもしれませんね。夫婦で来店されて、旦那さんは服や靴を、奥さんは食器を眺めてる、というのがよくあるパターンです。

ー お店の感度は高いけど落ち着きも感じられるのは、どっしり構えた食器のおかげでもありそうです。

佐藤:お店でリラックスしてほしいという思いはありますね。狭いながら椅子をちゃんと設置してます。お会計のときに荷物を置いてもらったりとか。

ー 靴の試し履きもできますね。靴といえば、サインボードに〈ヴァンズ(VANS)〉とわざわざ入れているということは、かなりお好きなのでしょうか?

佐藤:扱っている靴の9割が〈ヴァンズ〉なのでそう書くしかないというか。〈ヴァンズ〉はいつでも扱っていて、価格的にも「ダスク」でいちばん手に取りやすいアイテムですね。どんな気分のときでも履けるブレなさがありつつ、ストリート的バックグラウンドがあってちょっとヤンチャな匂いがするところが気に入っています。スポーツ系のスニーカーだと気分に波が出るんですよね。かっこいい! と思うときといまいち乗らないときがあって、自分のなかで流行りが終わるともう履きたくなくなっちゃいます。近いのは〈コンバース〉だけどちょっと真面目すぎるな、とか。

とくにアメリカ企画の〈ヴァンズ〉は、型が同じでも微妙にカラーを変えていたりと絶対的な定番っていうのがなくて面白いんですよ。毎年、気に入ったのをあれこれ仕入れています。〈ヴァンズ〉に関してはサイズも幅広く揃えているので女性にもご用意がありますよ。

ー “いまどんな〈ヴァンズ〉が入っているんだろう”と定期的に見に行く楽しみにもつながりますね。あとは“MUSIC”も“ANIMAL”も気になるところですが…。

佐藤:どちらも商品の割合としては多くなくて、音楽関連でいうと壁にあるヴィンテージのバンドポスターやバンドTくらいです。ただ毎週末、気分のCDをインスタにアップしたり、店内BGMも有線ではなくCDデッキでかけていたりしています。時間帯によってかける曲を変えたり、店番しながらDJです。80年代のニューウェーブやポストパンク、オルタナティブ、打ち込み系も…。音楽のジャンルって狭くて細かいから、同じものが好きだと自然と仲間意識が生まれるんですよね。きっとそれもあって、インディーズバンドをやってるようなお客さんも来てくれていました。

ー 商品に惹かれてくるお客さんばかりじゃないということですね。では“ANIMAL”の方は?

佐藤:ぼく、動物がすっごく好きで! かわいらしいのじゃなく、牙があったり角が生えてたりするの。鳥だったらワシやタカなんかの猛禽類ですね。別に獰猛な肉食獣がいいとかいうことでもなくて、セイウチとかも好きです。

ー 確かに、お店をよく見てみると動物的なモチーフのものがちらほらありますね。

佐藤:そうそう。商品ラインナップにがっつり反映していなくとも、なんとなく雰囲気を感じられるようにはしています。

松陰神社でのオープンから不安は変わらずそこにある。

ー これだけ趣向と工夫が凝らされたお店なら、お客さんが集まるのも必然であるように思えます。

佐藤:ありがたいことにやっていけてますが、常に不安な日々です。土日にどれだけたくさんのお客さんが来てくれたとしても、次の月曜日は雨で、ほとんど客足もなく…なんてことがあるだけで“もう飽きられたかな…”といまでも落ち込みます。

ー これだけ人気があるのに意外です。であれば二葉への移転はかなりの決断だったのでは?

佐藤:約1ヶ月、超悩みました! これまで来てくれていたお客さんの生活圏内からも外れる上に、知らない土地で、さらにこんなに何もないとなると…。“場所が代々木上原だったら即決なのに…”とか思いながら(笑)。
松陰神社時代は、近所のお店とイベントをやることも多かったのでそういうことも簡単にはできそうにないなと。

二葉でDASKが仕掛けていく。

ー それでも決断されたのは、建物の魅力以外にも理由があったのでしょうか?

佐藤:結局、自分の生き方とこの場所の相性はそう悪くないかも、というところでしょうか。あんまり意味のないことっていうのが好きなんです。“なんかコイツ、適当だな〜”と思われていた方が楽というか。店名も、最初は“夕暮れどき”という意味の「DUSK」にしたかったんです。なんとなく日本的な情緒がありませんか? けど、調べてみたらすでに別のお店で使われていました。でも語感と文字の並びが気に入ったので、一字変えて「DASK」はどうだろうと。こっちはデンマークのコンピューターの略称とのことだったので、使っている店もないだろうと遠慮なく掲げています。

意味はないけど、二葉。ひとと同じことはしたくないという性分もあるので、知り合いには“合ってるね”と言われます。
流行っている場所はそれだけ競争が多いってことでもあるし。

ー 一等地が絶対にいいとは一概には言えないですね。

佐藤:どちらにしろお客さんが来るか来ないか考える日々は変わらないので、飽きられないよう工夫に工夫を重ねていくことかなと思います。お店を生きている状態にしておきたいんです。作家の個展や、デザイナーの展示会などのイベントを定期的に開くとか。ただ商品を仕入れて売るだけじゃなくて、常に工夫しながら何かを仕掛けています。

ー 店内BGMやセレクトの仕方も、佐藤さん流の仕掛けですね。ご近所さんも、徐々に工夫に気づいてくれるのではないでしょうか。

佐藤:住宅街だからひとはたくさんいますしね。旗の台のあたりも最近盛り上がりつつあると聞いています。渋谷や武蔵小杉へのアクセスも悪くないし、若いひとが集まりはじめているらしいとか。まだ時間はかかりそうですが、この辺りはそれこそ代々木上原のように、いい雰囲気のお店が点在するような場所になるんじゃないかなって睨んでます。なんとも言えないところではあるけど、ポテンシャルはあるのかな。

ー 「ダスク」を皮切りにそんなお店が増えるかもしれませんね。

佐藤:だといいんですけどね。同じ業態でなくても花屋とかできたらいいな。この建物は新築なので、まだどの部屋にも誰も住んでいないんです。SOHOやテナント利用もOKとのことで、じゃあ2階でコーヒーショップをやろうか、というひとがいたり。そうやってお店が増えて、他の店とコラボしたりして、街が盛り上がっていったらうれしいなと思います。

ー 次は二葉がローカルな流行発信地として注目されていくかもしれませんね。まずはこの建物から。

佐藤:お店が入ってくれたらうれしいな。まだ上の部屋、空いてますよ!

INFORMATION

DASK

住所:東京都品川区二葉3-10-2 100号
電話:03-6421-6626
時間:12:00〜19:00

オフィシャルサイト
Instagram:@dask_wkb

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