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ストリートバスケとアートの融合。国内第1号となるアートコートが、日本橋浜町に誕生。

世界におよそ4.5億人もの競技人口を抱えるバスケットボールシーン。低年齢層への普及や「NBA」における八村塁選手の活躍、そして一層の盛り上がりを見せるBリーグの存在も相まり、日本国内においても年々ファンや競技人口を拡大し続けています。今秋公開予定の映画『スラムダンク』を心待ちにしている方も少なくないことでしょう。

そんなバスケ人気に拍車をかけるかのような、なんともユニークなプロジェクトがスタートしました。仕掛けたのは、2019年に始動した一般社団法人「ゴーパーキー(go parkey)」。公園内のバスケコートのリノベーションを通してアーティストと地元民を繋ぎ、地域一丸となって「アートコート」を創り上げる団体です。

その日本第1号としてピンが打たれたのは、東京都中央区浜町公園。「ゴーパーキー」の取り組みに共感した〈スポルディング(SPALDING)〉や現代アーティストの今井俊介さんも参画し、長年区民に愛されつつも経年劣化を見せていたバスケットコートを、中央区在住のキッズたちと一緒にリノベーション。見事、色鮮やかなアートコートとしてリニューアルさせました。

その活動を振り返るべく、プロジェクトの根幹を担う「ゴーパーキー」代表の海老原奨さんと〈スポルディング〉マーケティングチームの清水さん、そして心躍るアートを描いてくれた今井さんに話をお伺いしてきました。

アートコートというストリートカルチャー。

左から、「ゴーパーキー」代表 海老原奨さん、
〈スポルディング〉マーケティングスペシャリスト 清水健太さん

ー まず、「ゴーパーキー」ってどんな組織なんですか?

海老原:簡単に言うと、公園にあるバスケットボールコートを、アートのパワーを借りて綺麗にリノベーションする団体です。アーティストさんがデザインした作品を床一面に落とし込み、床にペイントする過程を地域の子供たちと一緒に取り組む。つまり、地元住民の方たちと一緒につくり上げること、一緒に再生することが本質的な狙いになります。

ー なるほど。コートを再生させるだけでなく、町全体を活性化させる意図もあると。

海老原:そういうことです。

ー そもそも「ゴーパーキー」を立ち上げた経緯というのは?

海老原:2018年から、アメリカを中心にアートを掛け合わせたバスケットコートのリノベーション活動が広がりを見せていて。ぼく自身、バスケを始めたのが公園のコートだったんですけど、そこでたくさんの人との出会いがあったりと、個人的にすごく思い入れがある場所。

だから、公園のコートがもっと注目されてほしいし、その魅力をより多くの人に知ってもらいたいという気持ちが強くなっていって。そんななかリノベーション活動のことを知り、日本で立ち上げることにしたんです。

ー 現在、海外におけるアートコート文化はどれほど普及しているのでしょうか?。

海老原:ヨーロッパでも見受けられるようになりましたし、アメリカではぼくが知っているだけでも50箇所くらい。これからもどんどん広がっていくと思います。

ー 日本はどうですか?

海老原:デザイン性のあるコートはありますが、いわゆるリノベーションの文脈であったり、アーティストさんと地域の人たちが一緒になってつくり上げるっていうコンセプトのコートはまだないかもしれません。

ー そう考えると、浜町公園がアートコートの日本第一号と言えるかもしれませんね。

海老原:そうですね。さらに言うと、ここは区が管理している公共のバスケットコート。そのリノベーションを民間団体の人間が手がけるというのは、ほかの公共施設でも前例がないと思います。

アートの持つ無限の可能性を公共の場で表現する。

ー そんな「ゴーパーキー」の取り組みに〈スポルディング〉も参画されていますが、具体的にはどう関わっているんですか?

清水:〈スポルディング〉は1876年生まれで、約150年の歴史があるブランド。次の150年に向けて、“サステナビリティ”をテーマに掲げたプロジェクト「PASS FOR THE FUTURE」をスタートさせ、誰もがスポーツを楽しめる環境づくりを企画していました。

その一環としてアメリカ本社は、ストリートバスケの聖地と言われるニューヨークの「ラッカーパーク」を「NBA 選手会」と一緒にリノベーションしたんです。そこで、日本ではどうする? と考えていた時に、以前から親交のあった海老原さんから相談があり、協賛という形で参加することを決めました。

ー 今回、第1号として浜町公園を選んだのはなぜでしょうか?

海老原:実はここ、個人的に縁のある場所なんです。前職で「東京2020」の3人制バスケットボールの競技運営統括をしていて、浜町公園のなかにある「中央区総合体育館」が公式の練習会場だったんですね。

当時、ぼくも担当者として中央区の方々と一緒に練習会場を準備したり、それこそ、激励の意味を込めて中央区の子供たちがつくった折り鶴を選手に渡す計画も立てていたんですけど、コロナの影響で流れてしまって…。でも、その時は既に「ゴーパーキー」を構想していたので、ここでアートコートをつくったら、子供たちの想いをレガシーとして残せるんじゃないかと。実現に至るまでは大変でしたけど(笑)。

ー 今井俊介さんにアート制作をオファーした理由は?

海老原:「ゴーパーキー」には、いろんなメンバーが所属しています。それぞれ得意分野があって、写真を撮る人もいれば、クリエイティブを専門にしている奴もいる。。多彩なメンバーがいるなかで、ブレストを繰り返しながら、場所は浜町が良さそう! じゃあアーティストは誰にする? ってなった時に、アメリカのパートナーが今井さんの絵を見つけてくれて。

みんなで作品を見たときに、完成図のイメージがすんなり浮かんできたんです。別に美大を出てるわけじゃないんですけど、一瞬で何かを感じたと言いますか。でも、その感覚こそがアートの醍醐味だと思ったので、すぐ今井さんにオファーしました。

ー その一瞬でグッと来る感じ、分かる気がします。

海老原:ただ、ぼくらの目指すゴールは、デザイン性を追求することでなく、綺麗になったコートで新しいコミュニティを形成すること。これからバスケを始める人もいれば、バスケしか興味なかったけど絵を描いてみたくなったりとか、アートコートを通していろんな角度から刺激を受けもらいたいんです。

ぼくのなかでの公園のバスケコートって、やっぱりそういう場所。いろんな人に会えるし、友達が増えるし、何なら大人ともバスケできるし、すごくダイナミックな場所なんです。アートの持つ無限の可能性が、公共の場所にあること。これはテーマとして大切にしていきたいですね。

ー 清水さんはいかがですか?

清水:ぼく自身、海外に住んでいたこともあり、公共の場所でバスケができることをすごく幸せに感じていました。バスケコートとグラフィティアートを掛け合わせたら、絶対に良いものができるという想いがあったので、個人としてはもちろん、会社としてもしっかりサポートできればという一心でした。

ー お互いに良い関係が築けているわけですね。お二人は、このアートコートがどういう場所になってほしいと考えていますか?

海老原:ここがきっかけとなって、世代や人種の壁を越えて地域が盛り上がるような、ポジティブなエネルギーを与えられる場所になってほしいですね。

清水:海老原さんと一緒で、地域全体でみんなが繋がれるハブスポットになって欲しいと思っています。

ー ちなみに、第2号はもう決まっているのでしょうか?

海老原:決まってるんですけど、事情があってまだ告知できないんです。ただ、次も今回同様、素晴らしいプロジェクトになると思うので楽しみにしていてください。

ここまでは、「ゴーパーキー」の海老原さんと〈スポルディング〉の清水さんに、浜町公園のアートコートができるまでと、これからの展望ついてお伺いしました。そしてここからは、アートを手がけた今井さんがどんな人物なのか、掘り下げてみたいと思います。


常に自分をワクワクさせられるかどうか。

ー まずはフイナム読者に向けて自己紹介をお願いします。

今井:えっと、画家です。基本的にはパキッとした色面の構成で抽象絵画を描いてます。

ー 画家になろうと思ったきっかけを教えてください。

今井:父がぼくの通っていた高校の美術の先生で、親子で同じ高校に行ってました。大学は、行きたい学部と行きたくない学部を削っていったら、美術くらいしか残らなかったので美大に通ってました。あと、小さい頃から「つくる」「見る」っていう環境が身近にあって、美術雑誌が絵本代わりみたいな育ち方をしたので、自然に美術の道を選んだ、という感じです。

ー いま、活動を始めて何年くらいですか?

今井:どこからを活動と呼ぶかにもよりますが、ちゃんとしたギャラリーで作品発表するようになってからは、15年が経ちますね。

ー 今回のように、公共の施設の壁や敷地にアートを施す取り組みは初めてですか?

今井:もう現存していないんですけど、横浜に「YCC」っていうアート関連の施設があって、6×8メートルほどあるエントランスの壁面にグラフィックを描いたことはあります。出力したものを貼り込んでいく作業でしたが、それに次いで2回目になりますね。

ー 今井さんの作品は流れるような線で描かれていて、見る人によって色んな捉え方ができるのかなと思いました。自身の作品を言語化するならどういう表現になりますか?

今井:すごく難しいんですけど、ひと言で表すなら美術。とくに影響を受けているのは、アメリカの戦後の美術です。抽象的な表現というものが50~60年以上前からあって、それをどうすればアップデートできるのか考えながら描いています。

でも、ほとんどの人は歴史のことを知らない上で見るから、やっぱり単純に綺麗だなとか、デカいなとか、平面なのにすごく奥行きがあるなとか、そういうふうに楽しんでもらえるのがいいのかなと思っていて。で、そこに興味を持ってくれたら、この人はどういうことやってるんだろうって、またひとつ階層を深く捉えるようになる。そうやって勉強していくと、いろんな作家を知れるだろうし、そのきっかけになれればと思っています。

ー つまり、ひと目でこのアートは面白い!と感じてもらい、どんどんアートの奥深さにハマっていってほしいと。

今井:そうですね。やっぱりそういう人がもっと増えて欲しいなと思います。

ー 資産としてのアートの価値が高まる、現在のアートシーンはどのように捉えていますか?

今井:アートに触れる間口が広がるのはいいことだと思うんですけど、世の中には流行に関係なくたくさんのアートがあって、流行っているものだけがアートだっていう風に捉えられてしまうと、文化としては先細りしてしまう。有名な作品以外にも、いろんな美術があることをもっと知ってもらえたらいいですよね。

アートコートが広まっていったら、日本はもっと楽しくなる。

ー 自身の表現活動において、一番大切にしていることは何ですか?

今井:当たり前のことなんですけど、続けることなんです。やっぱり似たような作品をつくり続けていると技術が上がってくる一方で、飽きてくる瞬間は絶対にやってきて。それでもまたひとつ、あれ? と感じたことを次の制作活動のヒントにしながら、常に自分をワクワクさせられるかどうかっていうのを大切にしているかな。

ー そういう意味では、今回のプロジェクトのお話を聞いた時にワクワクしました?

今井:何か面白そうだなって、直感的に感じました。最初は半信半疑でしたけど、海老原さんからの説明を受けて、あぁなるほどって。自分の絵が床全面に描いてあって、その上でいろんな人が楽しそうにバスケしてるのって、すごくいいなと思うんです。それがどんどん汚れていって、いつかは消えていくかもしれないけど、それも意義があることなんじゃないのかなと。

ー 自分が描いた絵の上でプレーされるわけですからね。

今井:なかなかない経験ですよね。でも、それが面白いなと思んです。

ー 今回の絵は何をイメージしているのでしょうか?

今井:やっぱり日本って緑がすごく多い国なので、そういう色彩をベースに、あえて自然界にないような色を組み合わせてみました。違和感がありつつも、公園に溶け込むようなものができたらいいなって。

ー 公園内のコートという限られた床面で描くにあたって、何か難しいことはありました?

今井:床面に描くっていう経験がないので、どのような工程を踏むべきなのかやってみないとわからないかったですし、どうしても天候に左右されてしまうのがすごく難しかったですね。規模感も異なれば、材料も違うので。

ー プロジェクトに参加してみて、得た気付きはありますか?

今井:要望を聞きながら、自分の理想を叶えて行く作業になるので、制作に至るまでのプロセスは面白かったです。例えば、色の組み合わせに対して、自分は綺麗だなと思っていても、一般的にはそうではないって捉えられてしまったり。

そういった気付きはすごくあって、極端な話、ぼくの展覧会に来たお客さんが、「この色の組み合わせはちょっと…」なんて言わないし言われないので(笑)。お互いの意見を踏まえて進めていく、という面ではすごく勉強になりました。

ー 生まれ変わったアートコートをきっかけに、この町や公園がどうなってほしいですか?

今井:ここでバスケを楽しむ人たちにとっての風景になってくれたら嬉しいです。「浜町公園といえば、あのバスケコートがある所でしょ!」って言われるくらい、当たり前のものになってほしい。あとは、今回コートが綺麗に整備されたことで、ここでバスケをする人たちのなかに、コートを綺麗に守っていきたいっていう気持ちが芽生えるかもしれない。そのきっかけになれたらと思いますし、これをサンプルとして日本中にアートコートが広がっていったらもっと楽しくなりそうですね。


今回の舞台となった浜町公園バスケットコートは、東京湾から近く、潮風を感じられ、美しい樹木に囲まれた、近隣住民に長年愛されてきた場所。そんな歴史あるコートが、仕掛け人である「ゴーパーキー」、〈スポルディング〉、今井さんのタッグにより、アートコートとして新たな息吹を吹き込まれました。ストリートバスケとアートの融合。ありそうでなかったこの掛け合わせは、今後、次世代のコミュニティを形成する手段のひとつとして、欠かせない存在になっていくかもしれません。

Text_Jun Nakada
Photo_Yutto
資料写真提供_go parkey

INFORMATION

東京中央区浜町公園屋外バスケットコート

住所:東京都中央区日本橋浜町2-59-1 浜町公園内
主催:一般社団法人 go parkey
協賛:SPALDING
後援:中央区役所
Instagram:
@go_parkey
@spalding_japan
@imsn

ART COURT by go parkey プロダクト

アートコートの発表に伴い、〈スポルディング〉から、「ゴーパーキー」とのコラボグッズが登場。アートコートと同じデザインを採用した、カラフルでポップな7号球バスケットボールとマイクロミニ(ミニチュアゴール&ボール)を制作。リリースは2023年を予定している。

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