来たる11月23日(土)、24日(日)の2日間にわたって、「2G」にてヴィンテージストア「CROWS」によるNBAジャージのポップアップが開催されます。NBA 1990-91シーズンから2001-02シーズンまでの11年間のみ製造された〈チャンピオン〉製のジャージーが200枚以上並ぶというイベントに先駆け、ファッションキュレーターの小木“Poggy”基史さんと、企画を立案した「2G」のUchiさんに話を伺いました。ファッション業界でも屈指のNBAジャージコレクターのお二人の話に耳を傾けると、デザインとしての完成度の高さだけでなく、それぞれのジャージにまつわるエピソードにもおもしろさがあるようです。ショーン・ウェザースプーンも応援に駆けつけたインタビューの模様をお届けします。
Photo_Yutto
Text_Shun Koda
Edit_Yuri Sudo
PROFILE
1976年北海道札幌市生まれ。ファッションキュレーター。1997年、「ユナイテッドアローズ」に入社。2006年に「リカー、ウーマン&ティアーズ」、2010年に「ユナイテッドアローズ&サンズ」を立ち上げる。2018年に独立。渋谷パルコ内の「2G」のファッションディレクターなどを務めている。
Instagram:@poggytheman
PROFILE
「2G」ショップスタッフ。2017年「ユナイテッドアローズ」に入社。その後、2019年に「2G」のショップスタッフへ。2022年に独立。小学校から大学までバスケに明け暮れる日々を送る。当時のポジションはガード・フォワード。
Instagram:@ryunosuke_uchida
日本では未開拓のNBAジャージ。
ー まずはバスケジャージに興味を持つようになったきっかけを教えてください。
小木: 自分が10年ほど前に〈ユナイテッドアローズ〉の「リカー、ウーマン&ティアーズ(Liquor,woman&tears)」というショップのディレクターをつとめていたんですが、そこがクローズしてから、ドレス部門に配属されたんですね。そこから、本格的に「ピッティ ウオモ」などに行くことになり、スーツの基本を学ぶことになったんですが、スーツを真面目に着れば着るほど、ストリートカルチャーを入り口にファッションを好きになった自分としては、自分が自分じゃなくなるような感覚に陥っていたんです。
小木:そんななか、酔っ払って帰ってきた時とかに、朝まで1人ファッションショーというか、実験的なコーディネートをいろいろと試していたんです。そのときにアメリカで買ったジョーダンのNBAジャージをスーツの中に着てみたら、予想外におもしろい着こなしで。当時、そんなスタイルをしているひとはいなかったですし、〈リーバイス〉のように年代ごとのディテールが明かされていないというところにも惹かれたんですよね。スーツにスポーツアイテムをMIXするというスタイルは好きですし、かれこれ10年ぐらいやりつづけています。
内田:そのスタイルはまさに小木さんって感じですよね。
小木:それがNBAジャージっておもしろいなと思ったきっかけで、深く掘り下げるようになったのは昨年末にバリに行ってからです。バリに行くとブート物のジャージとかが結構並んでるんですよね。そういうのを見て、自分の持ってるものもブートなんじゃないかと不安になって、いざ私物を見返したら、タグが付いてなかったり、NBAのロゴが刺繍のものとフェルトが混ざってたりしたんです。それでバスケ好きな内田君にいろいろ聞いたんです。
内田:僕自身もバスケは好きだったので、ある程度知識はあったんですけど、僕より遥かに詳しい「クローズ(CROWS)」のオーナーさんを紹介したんです。ここのオーナーさんは、バスケ古着界のレジェンド的な存在。NBAジャージコレクターで知らないひとはいないような方なんです。
小木:そう、それで聞きに行ったら、古いものはタグが付いていなくて、リブのボーダーの幅が広いとかを教えてもらったんですよね。僕もいろんなヴィンテージショップに行って、アメリカ製がどうこうっていうのは教えてもらってたんですけど、ディテールの細かな違いを知ってるひとはいなくて、知れば知るほど奥深い世界で、その魅力にのめり込んでいきました。そこから内田君とも話して、日本だとNBAジャージはまだまだ掘り下げられてないジャンルだから、いろんなひとに知ってもらいたいよねと今回のポップアップに繋がったんです。
ー 内田さんはどういった経緯でNBAジャージを集めるようになったんですか?
内田:僕は小学校から大学までずっとバスケをやっていて。NBAを何度も観戦しに行くくらいのNBAファン。当時は典型的なBボーイスタイルで、サイズ48の大きめのジャージを着ていたんですけど、小木さんがスーツにNBAジャージを合わせているスタイリングに衝撃を受けて、〈ユナイテッドアローズ〉に入社したんです。なので、当時集めていたサイズ48を手放して、44に買い替えている途中なんですけど、これが大変で(笑)
マイコレクションと、NBAジャージの見分け方。
ー タグやリブの幅といった部分以外で見分けるポイントなどはありますか?
小木:最初、内田君に教えてもらったのが、このホワイトレターです。多くのブルズのジャージはバックの選手名が黒文字で白く縁取られているんですけど、90年代前半まではホワイトレターと呼ばれる白文字だったんですよね。Netflixで配信されているドキュメンタリー番組の『マイケル・ジョーダン:ラストダンス』を観返しても初期のジャージは選手名が白かったんです。
内田:ホワイトレターを補足すると、この年代はフロントのNBAロゴも刺繍ではなく、フェルトなんです。逆に黒文字だけど、フェルトのものもあったりして、それはおそらく切り替えのタイミングのアイテムかなと思います。
内田:これもヤバい一着ですね。
小木:これは1996年のNBA創立50周年の一着で、NBAロゴがゴールド。フロントのチームロゴは80年代の筆記体ロゴを復刻しています。
内田:もう一つの50周年モデルは、ボディ自体がゴールドになります。
小木:これもネットで見つけたときに内田君に相談したんです。ボディが白には見えなくて、「これなんだろう?」って聞いたら、「おそらく50周年モデルです」と。その後に内田君も同じものを手に入れて、見比べてみると全然色が違っていて(笑)。
内田:日焼けで変色してるのかもしれないですね。
小木:そうだと思う。〈ロレックス〉の文字盤も日焼けしてるものがあったりしますけど、それと同じようにロマンを感じますね。
ー ネックの開き具合も年代によって異なりますね。
内田:そうなんです、古いものになると浅いですね。
小木:そういう風に調べていくと色々と発見があって面白いんです。これは僕が勝手に見つけたポイントなんですけど、通常は40、44、48といったサイズ表記なんですけど、たまにS、M、Lの表記のものがあったんです。でも、それはダサいなと思ってパスしてたんですけど、よくよく調べてみたら、ヨーロッパ規格のものもあるんですよね。それだけじゃなく、アメリカ製と比べるとメッシュが薄くて、プリントの風合いもペタッとしてないです。ヨーロッパ規格はまだあまり注目されてないんですけど、個人的に気に入っています。
小木:あとは、オーセンティックですね。僕はこれとジャケットを合わせるのが好きで、よく着てるんですけど、サイドがジャケットのベントのようにスリットが入ってるんです。
ー オーセンティックとは、どういうモデルのことなんですか?
内田:NBAジャージは、レプリカ、オーセンティック、プロカット、実際に選手が着用するジャージといくつか種類があって、オーセンティックは選手がゲーム中に着用するジャージを再現しているモデルのことです。
小木;あとデニス・ロッドマンも好きな選手なので、そこも気に入ってます。
内田:ロッドマンのアメリカ製のブルズジャージは、ジョーダンより全然見つからないですし、値段も高い。ブルズに在籍していたのが95年から98年までの4年間だけなので圧倒的に球数が少ないんです。それにロッドマン自体がすごく人気があるので、ジャージに限らず、Tシャツとかも値段が高騰してるんですよね。
小木:なかなか手に入らないんですけど、さっき内田君がプレゼントしてくれたのはブルズの後に入団したレイカーズのジャージです。これも滅多に見つからないよね?
内田:レイカーズには1年しか在籍していないので、相当レアだと思います。パープルボディのものに至っては見たこともないですね。
ー 今回のポップアップでは、1990-91シーズンから2001-02シーズンまでの11年間のみ製造されていた〈チャンピオン〉製のジャージのみが展開されます。NBAの黄金期ということもポイントだと思いますが、その他に〈チャンピオン〉製ならではの魅力はありますか?
内田:ジョーダンをはじめ、この年代ならではの選手とかももちろん魅力なんですけど、NBAジャージ独特の素材感とかもいいんですよね。
小木:メッシュも少し分厚いような印象がありますね。
内田:〈チャンピオン〉のあと、〈ナイキ〉や〈リーボック〉にライセンスが移るんですけど、〈チャンピオン〉のコレクターしかいないですね。いろんな国にNBAジャージのコレクターがいるんですが、どこの国でもやっぱり〈チャンピオン〉。
隠されたストーリーにも注目。
ー お二人のおすすめアイテムを教えていただきたいです。
内田:僕の私物ですが、ジョーダンが野球に転向して、その後NBAにまた戻ってきた最初のシーズンにだけ着用した伝説の45番のジャージです。
小木:これはアメリカ製?
内田:はい、アメリカ製の後期ですね。コンディションもいいですし、レアだと思います。ジョーダンのお兄さんが元々45番をつけていて、その半分でも上手くなりたいと言って23番をつけてたんです。この45番には、そういうストーリーもあるんです。
ー 単純にデザインやカラーリング、選手名だけじゃなく、それぞれのアイテムにストーリーがあるというのもNBAジャージならではのおもしろさですね。
内田:そうかもしれませんね。実はショーツもあって、これも販売します。
小木:チャンピオンのトリコタグのような古いタグが付くんだね。
内田:そうなんです。ショーツはまだ深掘りできてないんですけど、ほとんど出てこないですね。サイズが小さめなので、女性におすすめですね。
小木:今はなくて、ポップアップのタイミングに並ぶんですが、サンアントニオ・スパーズ時代のロッドマンのジャージはおすすめです。
小木:あとおすすめなのは、僕も持ってるウィザーズ時代のジョーダンのジャージですね。これは肩幅が広くて着丈も短いのでベスト感覚で着れます。夏によく着てましたね。
内田:この辺の〈チャンピオン〉の後期モデルもいいですね。シャキール・オニールとコービー・ブライアントのジャージもあります。
ー ゴールデンコンビなので、2枚とも欲しくなりますね。
内田:そうなんですよね(笑)。
内田:パワーダンカーとして人気だったショーン・ケンプのジャージもデザインがいいですね。左側がレプリカで、右側がオーセンティックなんですけど、レプリカは左胸にNBAロゴがあって、オーセンティックとは逆なんです。これはおそらくデザイン上の問題で逆にしているんだと思います。
小木:〈カーハート〉のブラウンダックと相性良さそうなカラーリングだね。
内田:たしかにそうですね。本拠地を移してチーム名も変わってしまいましたが、ここのロゴもかわいくて好きですね。
ショーンのコレクション。
ー そんな話をしていると、お二人の友人でもあるショーン・ウェザースプーンが取材現場に登場。彼も今回のポップアップイベントのためにレアアイテムを持ってきてくれたそう。販売はされませんが、アイテムにまつわるエピソードを話してくれました。
ショーン:このジャージは、HIP-HOPアーティストのDEFARI(デファーライ)がCDのジャケットで着ていたものとよく似ていて、HIP-HOPのコレクターから数年前に買ったもの。おそらく世界に一着しかないアイテムだよ。何度も売ってもらったコレクターから「やっぱり返してくれ」って言われてるんだけど、毎回断っている。それぐらい僕にとって宝物なんだ。
ショーン:これを事務所に飾っていたんだけど、ある日僕の事務所で〈アディダス〉の撮影をすることになって撮影クルーが来たんだ。そうしたらフィルマーの1人が、「なんでDEFARIのジャージを持ってるんだ」ってびっくりしていて、手に入れた経緯を説明したら、まさかのそのフィルマーがDEFARI本人だったんだ! すごく驚いたよ。このサインは、その時のもの。もうこれは誰にも譲れない一着だよ。
ー せっかくなので、ショーンのお気に入りのジャージも教えてください。
ショーン:普段、NBAジャージは着ないけど、1枚選ぶとするならピストンズのグラント・ヒルのジャージかな。
ショーン:昔、彼が僕の通っていた学校に来て、シュートの打ち方を教えてくれたことがあったんだ。覚えることはたった2つ。ピザを運んで、鳥のように手首を曲げる。たったこれだけでNBAプレーヤーさ(笑)。
PROFILE
1990年生まれ。2017年に未来のエアマックスを作るプロジェクト「VOTE FORWARD」で1位に輝き、エアマックス 1/97を発売。ヴィーガンとしても知られており、〈アディダス オリジナルス〉とのコラボでは動物性成分を一切使用しないヴィーガンスニーカーを発表した。またヴィンテージストア「ROUND TWO」の共同設立者で、ロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴ、マイアミ、リッチモンドに店舗を構えている。現在はアメリカと日本の二拠点生活を送っている。
Instagram:@sean_wotherspoon
カラーリングを活かしたスタイリング。
ー 最近ですとサッカージャージをスタイリングに取り入れることも多くなりましたが、NBAジャージをコーディネートに取り入れるコツみたいなものがあれば教えていただきたいです。
小木:僕みたいな感じで、シャツの上にベスト感覚で羽織ってもらって、ジャケットを合わせてもらってもいいですし、Tシャツの上にNBAジャージを着て、デニムジャケットを羽織るみたいなスタイルでもおもしろいと思います。
内田:そのスタイリングもかっこいいですね。
小木:NBAジャージは、同じサイズ40でも着丈が長かったり、身幅が狭かったり、結構な個体差があるので、実際に着てみて選んでいただきたいですね。
内田:おそらく、ロットの関係で個体差が激しいんだと思います。
小木:インナーとして着るためにつくられたアイテムではないので、基本着丈が長めなんです。なので、着丈が短いものを選ぶ方が合わせやすいと思います。
ー 今日の着こなしのポイントなどはありますか?
小木:今日は全体をダークトーンでまとめつつ、NBAジャージを差し色として使ってます。
このオーセンティックのジャージはストライプ柄なので、少しドレス感があるというか品を感じるんですよね。ジョーダンのスーツスタイルも好きでしたし、エア・ジョーダン6はポルシェ911から着想を得てデザインされたと言われているのもあってキャップもポルシェ。今日着てるジャージはロッドマンですけど、散らばった要素を集めながら、コーディネートを考えるのも楽しいと思います。
内田:僕は、あまりみんなが注目しなさそうなダラス・マーベリックスのジェイソン・キッドのジャージをチョイスしました。僕がバスケをやっていたときに活躍していた選手で、すごく影響を受けました。ブラックウォッチのジャケットとも相性がいいカラーリングですね。
ー NBAジャージはカラーが豊富なので、色も拾いやすいですし、差し色にも使えますね。
小木:そうですね。他にはない組み合わせが楽しめると思います。
ー お二人にとってのNBAのマイヒーローは誰ですか?
小木:僕はバスケにのめり込んでいたわけではないので、やっぱりジョーダンですかね。多感な時期に雑誌の『Boon』などでよく特集されていたので、憧れの存在でした。あと、『スラムダンク』からも影響を受けました。NBA選手が登場人物のモデルになっていたり、主人公の桜木花道がAIR JORDANシリーズを履いていたりと、NBAを意識している作品なので。
内田:選手ではないんですが、クレイグ・セイガーという名物スポーツレポーターがいて、その方が好きですね。派手なジャケットを着て、選手にインタビューするのが恒例で、多くの選手やファンから親しまれたレポーターともいわれています。実は今回、僕がヴィンテージのベッドシーツを解体してつくったテーラードジャケットも販売させてもらうのですが、それはそのひとをイメージしたもの。それもチェックしてもらえたら嬉しいです。彼にリスペクトを込めて作成したので、名前はセイガージャケット。
小木:僕もよく着ています。
ー 八村塁選手や河村勇輝選手など、NBAで活躍する日本人プレーヤーが増えてきたり、日本バスケの躍進など、バスケに注目が集まっている絶好のタイミングだと思います。プレーを観戦するのとは、また違った視点でバスケを楽しめるいい機会になりそうですね。
内田:ファッションからNBAに興味を持ってもらったり、今のNBAしか見たことないという方にも楽しんでもらいたいですね。それに今だったら価格もそこまで高騰していないので手に届きやすいです。
小木:僕自身ここまでハマると思ってなかったくらい知れば知るほどおもしろいので、実際に見てもらいたいですね。うんちくだけでなく、着こなしとしてもおもしろいアイテムなので、NBAジャージを着たことがないひとにも挑戦していただきたいです。
Vintage Champion NBA Jersey POP UP「Hall of Fame」
営業時間:11:00から21:00
場所:2G POP UP STUDIO
住所:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 2F
電話:03-6455-3003