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川田十夢公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。https://twitter.com/cmrr_xxxhttp://alternativedesign.jp/

青雲、それは君が見た光。

川田十夢
公私ともに長男。「AR三兄弟の企画書(日経BP社)」、「ARで何が変わるか?(技術評論社)」、TVBros.連載「魚にチクビはあるのだろうか?」、WIRED連載「未来から来た男」、ワラパッパ連載「シンガーソング・タグクラウド」、エンジニアtype連載「微分積分、いい気分。」など。発明と執筆で、やまだかつてない世界を設計している。
https://twitter.com/cmrr_xxx
http://alternativedesign.jp/

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雨の日の公園は、美しい。

2012.11.10

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5才くらいだっただろうか、母親に手をひかれて近所の公園へ出掛けた。あらゆる遊具の前には、はち切れんばかりの破天荒が列を為していた。彼らの振る舞いは、暴徒といってもいい。列は列の意味を為している訳ではなく、強いものたちが弱いものたちの頭を踏み越してゆくためのシステムでしかなかった。「ほら、あなたもみんなと遊びなさい。」僕はすべり台の列に入れられた。順番は守るものだと、教育されてきた。無闇に人の頭を叩いてはいけないし、ましてや踏み越えてはいけない。人の気持ちを考えて行動しなくてはいけない。守るべきものを守っていたら、いつまで経っても順番が回ってこない。さっき滑り終えたばかりの破天荒が、悪びれもせず僕の順番を抜かしてゆく。それに対して、僕は何も言えない。言葉が通じない連中に、何を話しても無駄だと思ったのかも知れない。単に、気が弱かっただけかも知れない。でも、自意識だけは一人前で、こっちを見ている母親には心配をかけたくない。少しでも楽しんでいる雰囲気を出したくて、抜かされる度に「僕が順番を差し出した」みたいな顔をしていた。結局、その日は一度もすべり台を楽しむことなく、帰った。酷く疲れた。
いつしか、僕は雨の日の公園に一人で出掛けるようになった。誰もいない静かな公園。遊具に雨があたる音まで、はっきり聞こえる。砂場からは埃ひとつ立たない。退色していたジャングルジムやすべり台が、新品みたいにキラキラしている。もちろん、破天荒も存在しない。しようと思えば遊具は独り占めできる。でも、しない。雨の日の公園は、雨のものだから。
雨のものと化した公園でも、想像することはできる。僕は順番を守って、想像の中で全ての遊具に触れることができる。ブランコを漕いで、勢いをつけたまま空高く飛ぶ。ジャングルジムのてっぺんに着陸して、するすると鉄骨の合間をくぐる。すべり台を逆走して、アーチになった部分でくるくると回転。勢いよくすべり台を頭からすべり下りる。勢い余って地面を突きやぶる。真っ暗闇の地下は、意外にやわらかい。素手で地層を掘って上ったら砂場に出て来た。手の平に残っていた、地下にしか存在しない特殊な泥。泥だんごを作って、空に向かって放り投げる。雲が一気に晴れて、太陽が顔をのぞく。光が遊具にふりそそぐ。公園に大きな虹がかかる。そんな他愛もない想像を、雨の日の公園は許容してくれた。

雨の日の公園は、美しい。それだけ書かれたメモを読み返して、思い出した。そう、僕は雨の日の公園が好きだった。弱きもの、でも正しいもの。その他愛もない想像を宿せる公園が、この世でいちばん美しいと思った。それを、思い出した。

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