猪木の舌出し失神<その3>
2013.07.10
舌出し失神から一晩明けた6月3日の朝、一般紙でさえも猪木失神を報じたことはすでに書いたとおり。小学生だった僕がニュースを知ったのもこのタイミングであった(東スポは夕刊なので4日付)。
病院に運び込まれた猪木の経過は良好で、病院のベッドで8時に目を覚まして朝食を取り(一般の入院患者と同じメニューで、トマトのサラダ、きんぴらゴボウ、ちくわの煮付け、ごはん、みそ汁、ヨーグルト)、再検査の結果も問題なし。
美津子元夫人、その父・倍賞美悦氏、マネージャーの新間寿氏の3人が病室に集まって話し合いがもたれた結果、正午過ぎに猪木の退院が決定。別の病院に移る発表もあったが、病院名は明かされず、ここから1週間、猪木は公の場から姿を消したのであった...。
以上がプロレス史に残る「猪木舌出し失神事件」の試合から翌日までの動きである。
当時の猪木は糖尿病、事業経営の悪化、従業員の独立など頭を悩ます問題を数多く抱えており、舌出し失神の原因については諸説ある。試合前から猪木が事件をほのめかしていたという証言もある。しかし、いくら関係者の声を集めても真相は確認しようがないのだ。
騒ぎの張本人である猪木は、6月10日に開かれた記者会見でジョーク混じりに試合を振り返る。
「舌がもつれてね。それに目がやたらと重いんだ(中略)ホーガンのアックスボンバーをくって糖尿病がびっくりしたのか、まったく正常になった」
一方の加害者となったホーガンの試合後の発言も紹介しよう。
「あそこまでイノキを傷つけたくなかった。一時は殺してしまったかと思い、気が動転してしまった。脈だけは動いていたようなので少し安心したが、とにかく、こんな野蛮な商売からは一日も早く足を洗いたい」
プロレス記者相手の発言だが、読み方によっては本音が覗く発言だ。猪木が仕掛ける野蛮なプロレスに惑わされるのはファンだけではないのである。
<つづく>