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小嶋享County Line Showroom代表元フリーライター、現在「County Line」ショールームの管理人。19年ぶりの日本に戸惑いながら、恵比寿にアメリカンスタイルのショールームをスタート。毎年2月にカリフォルニアで開催されるヴィンテージファッション・イベント「Inspiration」のメディアディレクターも兼務。www.countyline.jpinspirationla.com

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小嶋享
County Line Showroom代表
元フリーライター、現在「County Line」ショールームの管理人。19年ぶりの日本に戸惑いながら、恵比寿にアメリカンスタイルのショールームをスタート。毎年2月にカリフォルニアで開催されるヴィンテージファッション・イベント「Inspiration」のメディアディレクターも兼務。

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CALIFORNIA回顧録① タランティーノ・インタビュー

2013.08.01

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プロフィールに「前職:フリーランスライター」と書いているので、いままでどのような活動をしていたのか?とよく聞かれる。「いや〜、あんなところ、こんなところに行って、あんな人やこんな人を取材して、こんな場所でこんなハプニングに遭って、こんな下手物食わされて、あそこでハチに刺されて、エトセトラエトセトラ」。口で説明するのは簡単だが、裏付けがない。なにしろ、ハードディスク破損事件に見舞われて以来、証拠となる写真も、アメリカ生活19年の思い出もすべてなくなってしまったからだ。口惜しい。

取材という大義名分のもと、これまで多種多様な人物に会う機会に恵まれた。アメリカ各地を飛び回り、ガイドブックにもGoogle Mapにも載らないような僻地も訪れた。その貴重な経験を本ブログで紹介したいと常々考えていたのたが、ハードディスクが死んだことによって、カリフォルニア回顧録はすっかりお蔵入りした。かに思えた。のだが。

昨晩、押し入れを漁っていると、アメリカのホームセンターのロゴが入ったビニール袋を発見した。そして、中から貴重なプリント写真が出てきた。忘れもしない、2003年に撮ったクエンティン・タランティーノの写真だ。デジタルファイルはすべて消え去ってしまったが、紙焼きはかろうじて残っていた。

そもそも、アメリカ生活19年の履歴を500GBのハードディスクに詰め込んで持ち帰ろうとしたのが間違いだった。フィルムで撮った写真もわざわざデジタル化して、ポジもネガも捨ててしまった。帰りの荷物を軽くしたいという気持ちが勝ってしまったのだ。とんでもない愚行だ。デジタル<アナログ。今頃になって身に染みています。

前フリが長くなってしまったが、幸運にも写真が見つかったので、『カリフォルニア回顧録その①』と題して、クエンティン・タランティーノをインタビューした日を振り返ってみようと思います。

溯ること10年前。映画『キル・ビルvol.1』の公開に合わせて、映画試写会&タランティーノ・インタビューという貴重な取材が舞い込んできた。

<試写会>
試写会場は高級住宅地の代名詞、ビバリーヒルズにあった。立派なスクリーンと最高の音響設備を備えた、試写会のためだけに作られた特別な空間だった。受け付けを済ませ、試写会場内に足を踏み入れると、完全アウェーな空間が待っていた。映画配給会社のスタッフ、映画関係者、プレス関係者が親しげな雰囲気で歓談している。一方、こちらは初めての映画取材なので、知り合いなど一人もいない。転校生の初日ってこんな気分なのかな? そう思いながら、軽い会釈で人混みをすり抜け、いち早く座席を確保。新参者ですから、下座の下座、会場後方の端の座席に座り、試写が始まるのをじっと待っていた。会場が暗転し、試写会が始まろうとしたときだった。な、な、な、なんと。タランティーノ監督が隣の席に腰を下ろしたではないか! そりゃ〜映画の内容も気になるけど、隣が気になって気になって、リアクションも通常の1.5割り増しになっていた。

試写会が終わると、会場にほど近いパーティー会場へと移動する。会場は、高級ホテルの代名詞、ビバリーウィルシャー・ホテル。そう、映画『プリティーウーマン』の劇中でリチャードギアが泊まっていたのがこのホテルだ。パーティー会場にはタランティーノ監督を始め、プロデューサーのローレンス・ベンダー、服部半蔵役のサニー千葉(千葉真一)さん、ビル役のデヴィッド・キャラダイン、エル・ドライバー役のダレル・ハンナもいる。THE場違い。転校生どころの騒ぎじゃない。宝塚歌劇団にフンドシ一丁で弟子入りする、ぐらい場違いだ。賑やかな会場の隅っこで、ハリウッドセレブを遠巻きに眺めながら、時が過ぎるのをじっと待ち、パーティー終了の合図と同時に足早に帰宅した。

<インタビュー当日>
翌日、インタビュー会場となるビバリーヒルズの高級ホテルへ行く。やはり場違い感を拭えない。プレス用の受け付けを済ませ、プレス関係者が大挙する待合室で、自分の順番をひたすら待つ。ホテルのスイートルームにて各プレスごとに30分のインタビュー時間が割り振られる。昨晩同様、完全なるアウェー状態。ローカルオンリーのサーフポイントにも似た雰囲気。知り合は一人もいないので、待合室の隅っこで自分の出番が回ってくるのをひたすら待つ。事前に作成した質問項目のメモに目を通しながら、自分の順番が回ってくるのを待っていると、一人の女性記者が話しかけてきた。この道ウン十年のベテラン映画ライター、といった雰囲気の女性だ。なんだか手強そう。

「どちらの雑誌の方?」と聞かれたので、某メンズファッション誌の名前を告げる。「へ〜、そうなんだ」。うす〜いリアクションのお手本が返ってきた。そんな雑誌は知らない、と顔に書いてある。決して嫌味ではない。畑が違いすぎるのだ。「クエンティンに何聞くの?」と聞かれたので、質問を30項目ほど考えてきたのだが、何から聞こうか考えているところだ、と返答する。タランティーノ、ではなく"クエンティン"と呼ぶところが通っぽくて、好感が持てない。でも、悪い人ではなさそうだ。なにしろ、隅っこでアウェイ感を醸し出している転校生に話しかけてくるくらいだから。「持ち時間30分だから、5問聞けたら御の字ね。クエンティンは自他共に認める映画オタクで、尚かつ話し好きだから、一つの質問に対して30分間しゃべり続ける可能性もあるわよ」と適切なアドバイスをくれた。

まずい。事前シミュレーションが音を立てて崩れてゆく。うまく話しを切り上げ、次の質問に進まないと、質問一つで30分を使い切ってしまう可能性がある。質問一つで4000字のインタビュー原稿を埋めスキルはない。慌てて、質問内容を精査して、インタビュー内容を5問に絞りこむ。あとは、開き直って堂々とインタビューするしかない。

1時間後。ついに出番が回ってきた。高級ホテルのスイートルームのドアをノックし、中に入ると、にこやかな笑顔でタランティーノが出迎えてくれた。横には通訳、その後ろには映画配給会社のスタッフが数名いる。朝から同じような質問を何度も浴びせられているであろうクエンティン。話し好きのクエンティン。ここは"つかみ"が大事だ。

ここぞとばかりに、隠し持っていた"日本刀(おもちゃ)"を差し出してみる。『キル・ビル』はマカロニウエスタンとチャンバラを融合させたような映画で、日本刀で斬り合うシーンがカギとなる。日本からきた取材チームは、飛行機に日本刀など持ち込めないはずだ。リトル東京で手に入れたニセモノ丸出しの日本刀だが、地の利を生かした"隠し球"でゴキゲンを伺ってみる。

配給会社のスタッフの顔色が一瞬変わったが、タランティーノ本人は大喜び。刀を振り回して、チャンバラの真似事までしてくれた。サービス精神の塊のような人だ。よし、つかみはOK 。この流れでインタビューに入ろう、と思ったらタランティーノから予想外の一言が。

「昨日の試写会場でボクのとなりに座っていたよね。日本のオーディエンスがどのシーンでどういう反応するのか知りたくて、キミのリアクションをずっと観ていたんだ」。

まずい。タランティーノのカウンターパンチで頭が真っ白になる。完全にタランティーノのペースに引き込まれてしまった。。。

取材時間はキッチリ30分。1秒たりとも無駄にはできないのに、チャンバラと試写会の話題で5分が経過。。。つかみの代償は大きかった。残り25分、放心状態でインタビュー開始。シミュレーション通りにはいかなかったが、残り25分で何とか7問のインタビューを得ることができた。まずまず。

次なる関門は撮影。
事前にアナウンスされた撮影時間は15分。手短に済ませなければならない。入念にスタンバイして、撮影時間まで隅っこで待機する。話し好きのタランティーノだから、取材スケジュールは押しに押している。予定時刻から大幅に遅れて、撮影場所にタランティーノがやってきた。ここで、衝撃の事実が告げられる。

「撮影時間は15分を予定しておりましたが、インタビューが押してしまい、お時間が3分しかありません。早速いきますよ。よーい、スタート!」

え? テンパる時間すらない。

ふたたび日本刀のおもちゃを手渡し、放心状態でシャッターを押しまくって撮った写真がこちらです↓
IMG_6320.JPG
他にも貴重な取材資料がいくつか出てきたので、カリフォルニア回顧録②でご紹介します。