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小西康陽音楽家NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。pizzicato1.jphttp://maezono-group.com/http://www.readymade.co.jp/journal

小西康陽・軽い読み物など。

小西康陽
音楽家

NHK-FM「これからの人生。」は毎月最終水曜日夜11時から放送中。編曲家としての近作である八代亜紀『夜のアルバム』は来年2月アナログ発売決定。現在、予約受付中。都内でのレギュラー・パーティーは現在のところ、毎月第1金曜「大都会交響楽」@新宿OTO、そして毎月第3金曜「真夜中の昭和ダンスパーティー」@渋谷オルガンバー。詳しいDJスケジュールは「レディメイド・ジャーナル」をご覧ください。
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http://maezono-group.com/
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眼鏡の弦。

2011.08.10

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眼鏡の弦(つる)の内側に何か文字が刻まれている。何と書いてあるのか、読もうとするが、眼鏡を外すと読むことが出来ない。眼鏡を掛けると内側の文字は読めない。パラドックス。
 
抽斗から大きな拡大鏡を取り出して読んでみると、ひどくガッカリするようなブランド名の刻印だった。銀座の裏通りにある、モダンなディスプレイの眼鏡屋で買ったのだけど、何だか損をした気分。
 

 
バンクシーの映画、こと『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』、という作品を、先週観てきた。
 
前から観たかったのだが、渋谷の映画館でしか上映していない。映画を観るために渋谷を歩くのが厭で、なかなか観ることが出来ずにいたが、ちょうどNHKでの仕事の帰りに行くことが出来た。
 
だが、映画の感想はここで書かないことにする。ストイシズムについての映画なのか、と考えたが、では、現代美術におけるストイシズムとは何なのか、と考えると、もう分からない。
 
タイトルの通り、美術館のスーベニア・ショップでDVDのパッケージを買って観るのがいちばん相応しい、そんな映画だった。
 

 
このところ、自分は何を観ても、まったく感動することが出来ない。音楽も同じ。他人の作ったどんな音楽を聴いても、まったく感動しない。もちろん、自分の作った音楽に対しても。
 
たまたま目の前にあったチェット・ベイカーの歌うアルバムを聴いている。やはりこれがいちばん良い。いろいろなことを諦めたような、そんな感情がパッケージされている。
 
● 
 
眼鏡の話に戻る。
 
ここ数日、いよいよ眼鏡がないと何も出来なくなった。この老眼鏡を作ったときは、物を読むときだけ掛けていた。歩くときに眼鏡を掛けていると足許が不安定になるので、普段は掛けずにいたのに、先月から、ついにDJブースの中でも眼鏡を手放すことが出来なくなった。
 
先週の録音スタジオでは、眼鏡がないと他人と話すことさえもどかしい。そして眼鏡を外していると、ひどく目付きの悪い顔をしているということに自分でも気付く。いよいよ、自分は年を取ったのだ。
 

 
年を取ると、食生活も変わる。酒を飲まなくなったことが大きく味覚を変えたのだ、と考えていたが、それ以上に年齢のせいだ、ということが判ってきた。
 
いちばん食べなくなったのは、ラーメン。外で食べることは、もうほとんどない。その替わり、家ではときどきインスタント・ラーメンを作って食べる。
 
昔はインスタント・ラーメンの具は卵しか載せなかった。ところが最近、大好きになった具材がある。海苔だ。海苔だー、とか書いてみる。
 
数年前、自分の単行本を編集してくれたA新聞のKさんが、年に何度か会う度に、福岡から取り寄せている、という板海苔をくださる。
 
家で握り飯や手巻き寿司をやるでもなし、初めのうちは使いあぐねていたのだが、ある日、うどんだったか、蕎麦だったかを茹でて食べるときに、この海苔を手で千切って載せて食べたら、何だかひどく旨かった。
 
今度はインスタント・ラーメンにトッピングしてみると、ああ、これだ、これしかない、という程に相性が良かった。海苔と、胡麻。そして高菜があれば、もうそれで充分だ。
 
あるとき、DJの伊藤陽一郎くんにこの話をしたら、半ば呆れながらも、インスタント・ラーメンは何を食べてるんですか、で、どのタイミングで海苔を食べるんですか、とお義理で尋ねてくれる。
 
家で食べているのは、もっぱらマルタイの棒ラーメン、と答えると、へー頑張ってるじゃないですか、と伊藤くんが言う。チキンラーメンも好物ですが。
 
次に、食べるタイミング。いちばん最初に食べる、ということは、まず、ない。最後まで温存する、ということもない。だいたい、半分を食べ終えた、と思う辺りで、食べる。こんなところでしょうか。
 
若い人にはたぶん理解してはもらえないだろう。けれどもある日、海苔が旨い、海苔こそはラーメンにおける最も重要な具だ、と知る日があなたにもやってくる。そのとき、自分は伏し目がちに黙って頷くはずだ。
 
ラーメンに限らず、食への強い情熱に、いつも感動する伊藤陽一郎さんのブログは、こちら
 
そういえば、40歳を過ぎてから、味噌汁の具は「あおさ海苔」がいちばん好みだった。ラーメンに海苔を入れるのは、この延長線上の好みなのか。でも、あおさ海苔はラーメンに載せると、すこし主張し過ぎる。それに何だか、もったいないです。
 

 
若くして死んでしまう人たちは、老眼鏡を掛ける生活も、ラーメンの中の海苔の旨さも知らずにこの世を去ってしまうのか。それがどうした。ごもっとも。