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COLUMN

成り上がり。

文:瀧川鯉斗

今、空前の落語ブームといわれています。有名噺家の独演会はもちろん、寄席でも満員になることがしばしば。その理由の一つに若手噺家の台頭があります。今年5月、真打に昇進した瀧川鯉斗さんも注目を集める一人。若かりし頃、暴走族の総長だったという、落語界切っての異色の経歴の持ち主です。このコラムの第一回では落語の扉を叩くまでの経緯を紹介しましたが、今回は前座修行の始まり。そこにはどんなエピソードがあるのでしょうか。

第二回 芸名決定! そして前座修業が始まった。

さて、めでたく弟子入りを許されましたが、それですぐに落語家になれるわけではありません。師匠から始めに教えて頂いたのが、まず自分で着物を着ることです!

 

「毎日着るんだから、自分で着られないと駄目だよ。他の人が手伝ってはくれない」

 

師匠の浴衣をお借りして着てはみるものの、帯を後ろで結ぶことができなくて随分と苦戦したのを覚えてます。

 

着物と同時進行で教わっていたのが、前座仕事に必要な一番太鼓、二番太鼓、それと落語一席「新聞記事」でした。落語の噺の稽古は、師匠が向かい合って見てくれるのでとても緊張します。

 

噺に入る前に枕と言うのがあるんですが、「新聞記事」の枕で、「付け焼き刃は剥げやすい」と言わなければいけない所を「付けまつ毛は剥げやすい」と言ってしまって、師匠が「…お、おれ教えてない。でも合ってる!」って言ってたな(笑)。

 

2004年を迎えた頃、師匠が右手にメモ用紙を持ってタバコを吸いながら(タバコの銘柄は〈マイルドセブン〉の1ミリ)稽古場に入って来ました。

 

真剣な目をして1分くらい沈黙が続いたあと、神妙な顔をして「お前の名前を考えた。どっちがいい?」と、右手に持ったメモ用紙を僕に差し出しました。

 

そのメモ用紙には、2つ名前が書いてありました!

 

僕はそのメモ用紙の名前を見て、僕なりにどちらの名前が良いか考えました。

 

「鯉鯉? それとも斗茂?」

 

師匠の芸名には鯉が付いているのだから、もちろん鯉鯉だ! っと思い、こっちの名前がいいです! と返事をすると、師匠はにっこり笑って「そうか! 鯉茂(こいも)か! わかった!」と。

 

その瞬間、師匠が何を言ってるのか訳がわかりませんでした。

 

「師匠どうゆう意味ですか?」問いただすと、「こっち(右)に書いてある名前が鯉茂(こいも)で、こっち(左)に書いてあるのが鯉斗(こいと)だよ…あっ、お前、日本語の読み方を知らないか? 日本語は、縦に読むんだ」

 

当時の僕は、なるほど! と思いましたね。そんなルールがあるんだと!(笑)

    

「あっ! 師匠! やっぱりこっちで!」間髪入れずに言うと、師匠は「…まだ間に合う」と。こうして「落語芸術協会」に芸名の登録の電話をしている光景がありました。

 

年が明けて2005年3月1日。晴れて前座として楽屋入りをして、今までの本名「直也」ではなく「鯉斗」としての前座修行、落語家生活がスタートしました!

今は亡き三笑亭笑三師匠(左)と前座時代の瀧川鯉斗さん(右)。

 

僕が初めて前座修業をする寄席は「新宿末廣亭」でした。末廣亭さんは落語家になる前に師匠に「寄席が仕事場になるから見て来い」と言われて何回も通ったところだったので、着物を着て楽屋に入る時には「俺はこれから落語家になるんだ! 頑張るぞ!」と気持ちが高ぶったのを今でも覚えています。

 

前座修業をするに当たって一番始めにやることは、楽屋での挨拶です。

 

挨拶をしないで、師匠たち、先輩たちにお茶を出したりすると「誰だ? お前は?」としくじってしまいます。

 

何人かいる前座の中では役割が大まかに決まっていて、一番下がお茶を出す係で、その上が師匠たちの着物の着付けを手伝ったり、出番の終わった師匠たちの着物を畳んだりする係。さらにその上がお囃子を弾いて下さるお姉さんたちの三味線に合わせて太鼓を叩いたり、落語の演目に入るツケなど叩く係。

 

そして一番上が立て前座といわれ、その芝居の時間調整を始め、どの師匠が何のネタをやったかを筆で大福帳(ネタ帳)に記入をしたり、楽屋全体を任される前座なのです。

 

お茶出しの前座がしくじると、立て前座も楽屋全体を任されていますから、一緒にしくじった師匠に謝らないと行けません。

 

さぁ! ここから波乱万丈な? 前座修業の幕開けです!

PROFILE

瀧川鯉斗
落語家

落語芸術協会所属。1984年名古屋生まれ。高校時代からバイクに傾倒し、17歳で地元の暴走族の総長に。2002年に上京。新宿の飲食店でアルバイトをしている時、師匠・瀧川鯉昇の独演会を観たことをきっかけに弟子入り。05年に前座、09年に二ツ目に昇進し、2019年5月、真打に。

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