CLOSE
COLUMN

成り上がり。

文:瀧川鯉斗

ネタを覚えては高座にかける、覚えては高座にかけるの繰り返し。二ツ目時代の鯉斗さんは師匠と出会ったレストランで勉強会を開き、とにかく落語の修行に励みました。一方では、師匠にお供して地方の落語会に行くことも。高座はもちろん、楽屋、移動中…、そこには落語家としての心構えや立ち居振る舞いなど、超一流の師匠から学べることがたくさんあったといいます。しかし、旅にはハプニングがつきもの(笑)。いまだから書けるマル秘エピソードもあるみたいですよ。入門からの思い出を赤裸々に綴ってきた「成り上がり」もいよいよクライマックスです。

第六話 令和第一号の真打誕生!

本格的に、二ツ目の修行がはじまりました。前座の時と違って、毎日寄席に行って高座に上がれる環境ではなくなったのです。

 

それでも私はありがたいことに、師匠たちに可愛がってもらい、彼らの落語会で高座に上がって勉強することができました。落語会は東京に限ったことではなく、全国各地で行われます。それによくお供させてもらいました。

 

そこでは高座はもちろん、楽屋でご一緒する時の会話にも落語に通じる言葉が飛び交います。その時は何を言っているのか分からなくても、「10年後、20年後にその言葉の意味が分かれば良い!」っとおっしゃって下さった超一流の師匠たちの側にいれることが本当にありがたかった。

 

この言葉は一生の宝物になっているし、これから私が同じ年齢になった時、若い落語家にこの言葉を教えて上げられたらいいなと思っています。真面目な話はもちろんですが、やはり売れている師匠たちは私生活が面白いし、お供しているといろいろな出来事が起こります。

岡山まである師匠について行った時、独演会が終わってホテルに戻ったのが21時頃。師匠がホテルのスタッフに「バーがありますので是非お立ち寄りいただいて楽しい時間をどうぞ!」と言われて行くと、「お酒がズラーっと並んでおりますので隅から隅までお好きなだけ飲んで下さい!」とバーテンダーの方が言いました。

 

すると師匠は、本当に隅から隅まで並ぶお酒を全部飲み干していました(笑)。この時、私は落語家は酒が強くないと駄目だと心底実感しました。

 

翌朝、東京に戻る新幹線の時間は11時。ホテルから岡山駅まで30分位。前の日に、ロビーに集合する時間は決めてあリました。当然、私は遅刻しては駄目なので10時に部屋を出ました。しかし、集合時間である10時20分になっても誰ひとりとしてあらわれません。これはおかしいな…? と思って師匠の部屋まで行き、ノックをしたけど返事がない…。大慌てでフロントに戻り、鍵を借りて部屋に入ると、ベットの上で大の字に寝ている師匠が目に飛び込んできた!

 

大慌てで揺さぶって起こしました! 目を開けた師匠は、明らかにまだ酔っ払っているけど意外と冷静でした。「今、何時だ…?」と聞かれて「10時45分です」と答えると、「用意するからロビーで待ってろ」と師匠は言いました。

 

私はホテルの入り口に立って、師匠がいつ降りてきてもすぐ向かえるように、タクシーを正面につけてもらい、後部座席のドアは全開で、今か今かと待ち構えていたその時、猛ダッシュしてくる師匠が目に入リました!

 

大慌ての私も「師匠! こちらですー!」と言って、カモン! カモン! こっち! こっちー!! なんて学生がやるような手つきで、必死に叫んでいました。新幹線に乗り遅れてはいけないという気持ちがすっごく強く、大変失礼な態度をとってしまったな…と今では反省しています…。

 

その緊急事態を感じとったタクシーの運転手さんも私たちと同じテンションで運転していました。体感スピードはなんと150キロくらい(笑)。ギリギリで駅に到着し、無事東京に戻ることができました。

 

その1ヵ月後、再び岡山で師匠の独演会があり、お供でついていきました。駅から会場に向かうタクシーが、やけにスピードを出すな? と思ったら、バックミラー越しに「こないだは大変でしたね!」とまさかの同じ運転手さんで超ビックリ…! 師匠たちも超一流になるとやはり持っているものが違うなと思ったものです。

 

さあ、そんな二ツ目時代を終えて、ついに私は2019年5月、令和初の真打に昇進させて頂きました。真打昇進となると、「口上書き」という師匠たちのお認めの言葉が詰まった挨拶状を作るのですが、やはり自分の師匠、瀧川鯉昇から直字で書いた文面を頂いた時は涙があふれました。

 

真打昇進後の瀧川鯉斗をどうぞご贔屓に!

   
 
 
 
 
 

PROFILE

瀧川鯉斗
落語家

落語芸術協会所属。1984年名古屋生まれ。高校時代からバイクに傾倒し、17歳で地元の暴走族の総長に。2002年に上京。新宿の飲食店でアルバイトをしている時、師匠・瀧川鯉昇の独演会を観たことをきっかけに弟子入り。05年に前座、09年に二ツ目に昇進し、2019年5月、真打に。

連載記事#成り上がり。

もっと見る