西表島に、神々が訪れる日。
「みなさん、節祭、ユークイ吉日、誠におめでとうございます!」
翌朝、集落の公民館に集まったところで、館長の発声とともに節祭がはじまりました。これが、今旅のラストを飾るイベントです。
約500年前から続くとされる西表島の節祭は、八重山諸島における節(正月)を祝う祭りで、国の重要無形民俗文化財にも選ばれています。五穀豊穣と子孫繁栄を願う、集落にとって特別な一日です。
「周辺のいろんな集落で開催しているんですが、ひとが神になる瞬間——つまり仮面をつける瞬間を見られるのはここだけらしいです。仮面をつけたら最後、トイレも飲食も、喋ることすら禁止される。10時間近く神になるのですから」
田中さんが言う「神」とは、「ミリク様」のこと。地域によりミルク様とも呼ばれるそのお方は、白い顔に黄色の衣装をまとい、ニライカナイ(海の向こうの理想郷)からやってくる、豊穣をもたらす来訪神です。この集落では、ミリク様を先頭に行列が組まれ、集落を通り抜け海を目指します。
そのうしろに距離をあけてしたがうのが「アンガー行列」。その先頭を歩くのが、黒い衣装に黒い布をまとう「フダチミ」と呼ばれる二人組の女性です。
「フダチミも、この集落の節祭でしか見られません。いろいろ諸説はあるんですけど、何者なのか、何を意味するのか、謎が多いんです」
別の集落の節祭にも足を延ばすと、今度は「オホホ」という、ひょうきんな仮面を被った神が登場しました。オランダ人をモデルにしたと伝わる来訪神で、お札(金)をばらまきながらひとびとを誘惑します。
「オホホは、非常におもしろいですね。祭りのトリックスターなのかもしれない。同じ祭りでも集落ごとに微妙に違うのも興味深いです」
祭りを楽しんでいる最中、またひとり、前日まで元気だったクルーの具合が悪くなった、という知らせが届きました。
「偶然かもしれないし、何かに当てられたのかもしれないですね。こういう世界に足を踏み入れると、理屈では説明できないことがたまに起こります。ぼく自身も、いま、ちょっとしんどいかも」と言いながら、偶然居合わせたファンと楽しそうに、そして元気そうに、写真を撮る田中さん。この祭りを見るために、予約していた飛行機を数本遅らせているのはここだけの話です。
この旅では、怪談もひとつ仕入れたといいます。宿のオーナーから聞いた不思議な話。
「本筋とはまったく関係ないところから出てくる話は痺れますね。詳しくはちょっと話せないんですけど、神様が家に来て、そのあとすべてが順調に進んだって話。またどこかでお話するかもしれないし、もしかしたら、ずっとしまっておくかもしれない。そんな話が五万とあるんです」