長く愛される日常に寄り添う器。
ーそもそも、阿部さんが陶磁器に興味を持ったきっかけを教えてください。
日常に最も多く登場する素材だからですかね。毎日の食事に加え、コーヒーやお茶を飲んだりと、誰もが一日に一度は器に触れるじゃないですか。ひとの暮らしに寄り添う道具をデザインできることに魅力を感じたのだと思います。
ー大学では陶磁器を専攻されていたそうですね。卒業後はすぐ西海陶器に入社されたんですか?
卒業後は、スウェーデンへ留学しました。当時は〈アラビア(ARABIA)〉や〈グスタフスベリ(GUSTAVSBERG)〉〈ロールストランド(Rorstrand)〉のような北欧のメーカーに惹かれていて、器づくりを学ぶなら北欧だと思っていました。でも実際に行ってみると、もう自国では生産していなかったんです。工場は残っていても、作家のアトリエになっていて、実際の生産はアジアへ移っていて拍子抜けしました。
帰国して数年後、縁あって知り合った西海陶器の会長からうちの社員として「タイの工場へ行かないか」とお声がけいただいたんです。タイでなら、スウェーデンでは見れなかった生産の現場に立ち会えると思い、おもしろそうだなと。それで入社を決めました。世界中のいろんなブランドの生産を請け負っている工場だったので、その現場を見れたのはいい経験でしたね。
ーそんな経緯があったんですね。現在は陶器デザイナー・エンジニアとして活躍されていますが、陶器エンジニアというのはどのような仕事なのでしょうか。
デザイナーが考えた形を、実際に製品として成立させるのがエンジニアの仕事です。やきものは窯で焼くと12〜15%ほど縮むので、完成形から逆算して型を設計しなければいけません。他にも、持ち手は焼くと少し下がるので最初から角度をつけておくとか、器同士が綺麗にスタッキングできるように釉薬の厚みを計算するなど、細かな調整をしています。
ーデザイナーとしては、どのようなことを大切にしていますか?
生活に自然と溶け込むことですね。波佐見焼はもともと大衆のための日用品として発展してきたやきものなので、そのルーツは大切にしています。シンプルなものほど、汎用性が高いし、長く使い続けてもらえる。これまでいろいろつくってきましたが、結局は変化球よりもストレートなもののほうが愛されると感じています。
ー「西海陶器」はいくつかのブランドを展開していますが、阿部さんが最初に手がけた〈エッセンス オブ ライフ(essence of life)〉はどんなブランドなのでしょうか。
“暮らしのなかで、豊かさを感じられるものづくり”をコンセプトに立ち上げました。波佐見焼きでいう十草柄をストライプ、格子紋をチェックとして謳ってみたり、おちょこのサイズ感を変えてアイスクリームカップとして売ってみたりと、伝統的な波佐見焼きと現代を繋ぐ実験の場としても機能しています。柄をすべて手描きで施しているのも波佐見焼らしいポイントです。
ーとても手描きには見えませんね! ほかのブランド〈コモン(Common)〉and ... and〈ハサミポーセリン(HASAMI PORCELAINS)〉も気になります。
〈コモン〉は、もっと現代のライフスタイルに合う器をつくろうというところから始まったシリーズです。波佐見焼は和食器のイメージが強かったので、もっとニュートラルなものが必要だと思ったんですよね。「ブルーボトルコーヒー」で使われているグラスも〈コモン〉のものなんですよ。
〈ハサミポーセリン〉は、ロサンゼルス在住のディレクター・篠本拓宏による、お重からインスピレーションを受けたブランドです。マグ、ボウル、皿などすべてのプロダクトの直径を揃えていて綺麗にスタッキングできるんですよ。
彼は、ロサンゼルスで日本のプロダクトを海外に発信する「 トータスジェネラルストア(Tortoise General Store) 」を運営していて、そこで〈ハサミポーセリン〉のマグを見た〈アップル〉の社員が気に入ってくれて、〈アップル〉のオリジナルマグをつくったこともありました。
※展示のみの参考商品