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生きて死ぬことを歌う。TOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)
〜PACK FOR LIFE〜 OUTDOOR PRODUCTS

生きて死ぬことを歌う。
TOSHI-LOW(BRAHMAN、OAU)

1970年代、カリフォルニアで誕生した〈OUTDOOR PRODUCTS(アウトドアプロダクツ)〉。デイパックの原型とも言えるモデル“452U”を、生み出したブランドが掲げてきたひとつの言葉があります。「PACK FOR LIFE」。”生活(人生)のためのバッグを”そして“生活(人生)のために荷造りしなさい”。生活を捧げ、人生をかけて一つのことに打ち込む人は、この哲学と響き合うのではないか? そんな目論見を持って、BRAHMAN、OAUのフロントマンを務めるTOSHI-LOWさんに会いに行きました。歌を歌い続けること、30代を迎えて変わったこと、父として子供に教えること、震災のこと、OAUのニューアルバムのこと…“主張”する歌い手は、取り繕わず、シンプルに語りかけます。

  • Photo_Hiroshi Takagi
  • Text_Yu Onoda
  • Edit_Shinri Kobayashi

避難所にいる人たちの前で歌える曲がない。

452U ¥4,800+TAX

ー OAUは、人生における大きな転機を象徴するものでもあったんですね。

TOSHI-LOW:そして、自分の音楽人生とはまた違う意味でのタイミングで、2011年に東日本大震災が起こったんですけど、震災直前はそれまで続けてきた表現を全て止めようと考えていて。歌が上手いわけでもないし、才能があるわけでもない。その一方で、続々と出てくる新しい世代が魅力的に、逆に自分たちが時代遅れであるように感じたり、そうかと言って、自分達のやり方を変えてまで音楽を続けたいとも思っていなかったし、そういう30代のどんよりしたタームを迎えるなか、起きた震災によって、命の重さを突きつけられたということもありますし、一度しかない人生が多くの人が予想しなかった天災によって大きく変わってしまう現実を目の当たりにして、自分が持っているもの全てを考え直さざるを得なかった。

ー どう考え直したんでしょうか?

TOSHI-LOW:支援のために、焼けただれ、瓦礫だらけになった街の真ん中で思ったのは、『また、この街に来て、歌いたい』ということ。つまり、震災前には捨ててもいいと思った歌という表現を、一番欲していたのは自分だったんですよ。しかも、そこでは、自分が一生懸命やっていなかったということにも気づかされた。それまでやっていたことといえば、格好つけたり、大きく見せることばかりで、避難所にいる人たちの前で堂々と歌える曲が1曲もなかったんですよ。だから、東京に帰ったら、歌をもう1回ちゃんと習おうと思いましたし、諦めかけていたことをもう1度取り戻そう、と。だから、自分が何をしたいのかがより明確になったんですよね。

ー 震災以降、TOSHI-LOWさんは日本語詞を歌うようになり、ライブでは今まで一切やらなかったMCを介して、オーディエンスとコミュニケーションを取るようになったり、表現も意識も変化していきましたよね。

TOSHI-LOW:一面だけを切り取って見せて、自分のことを理解してもらうというような表現は、震災のような極限的な場において、何の役にも立たないことがよく分かったんです。そうではなく、全身全霊を傾け、考え、伝えることで初めて信頼されるんですよね。だから、震災以降、全てを開いて、それによって嫌われたら、それはそれで仕方ないなと思えるようになりました。かつての自分は嫌われていいと思って、つっけんどんに音楽をやっていたつもりだったんですけど、実は嫌われることを恐れて、そういう自分を守るように先行的な態度を取っていたんだなって。その頃と比べて、開けっぴろげになった今は怖いものがだいぶ少なくなり、例えば、人格攻撃をされても「別にそういうところもあるわ、にんげんだもの」みたいに自分の弱さをあっさりと認めつつ、笑っていられられるようになりましたし、結果、今の方が生きていくための技術が上がっていると思うんですよ。

子供に教えるべきはサバイバル術。

『鬼弁: 強面パンクロッカーの 弁当奮闘記』
TOSHI-LOW(ぴあ)

ー インタビュー冒頭でOAUの始動に父性の芽生えを重ねて語っていらっしゃいましたが、昨年刊行された『鬼弁』、TOSHI-LOWさんがお子さんのために6年間作り続けた弁当奮闘記もまた父性を象徴するものであるように思います。TOSHI-LOWさんが考える父性とはどういうものなんでしょうね。

TOSHI-LOW:最近は父性が強すぎて、父性というより母性なんじゃないかって思ったりもするんですけど(笑)、自分にとっての父性とは、父親が子供に何かを教え伝えたいという気持ちと大いに関係していて。父親が子供に何を教えるべきかというと、俺はサバイバル術なんじゃないかと思っているんですよ。生きていくためにどうするか? アウトドアでのキャンプの技術もサバイバル術の一つですし、この社会で生きていく術、そのために自分の心を見つめることも大きな意味でのサバイバル術ですよね。なぜならば、自分で自分自身が分からければ、自分に向いていることが分からないし、自分が本当に好きで続けられる仕事や表現が手に入らないわけですから。そういう生きていくって意味のサバイバル術を教えるのが父親の役割であって、『鬼弁』もその一つなんですよね。料理出来た方が面白いということもあるんですけど、何のために料理を学ぶのかというと生きていくためなんだよって。

ー つまり、TOSHI-LOWさんのなかで父性とは生きていく術ともリンクしているわけですね。2010年から主催されているNew Acoustic Campはキャンプを通じて生きていく術を学ぶ機会でもある音楽フェスティバルなんですよね。その運営に携わってきた10年の経験は音楽にどう反映されていると思いますか?

TOSHI-LOW:New Acoustic Campを始める前は他のフェスに出させてもらっては、ケータリングの料理がマズいだ、音楽に対して愛情がないだと文句を言うだけ言っていたんですね。でも、人が集まってもルールでがんじがらめにせず、みんなの自主性で成り立つ束の間の夢の村を作ろうと、脱フェスを掲げて、いざ、New Acoustic Campを始めてみたら、どうしてもシステマティックになってしまう部分やルールを決めなければいけないところが出てきて。最初の趣旨を変わらず維持するために、そういう部分を色々と変えていく必要があるんですけど、かといって手を入れすぎても趣旨に反してしまうので、変えていく部分を最小限にしようとずっと努力を続けているんです。その作業は大変なんですけど、長らく続けてきたことによって、物事を捉える際の気づきが全然違うんですよ。

ー 気づきというのは例えば?

TOSHI-LOW:定番のデイパックがあるとする。長い間、同じ形のままでずっと存在しているように思うかもしれないけど、その時代の定番であり続けるために、ファスナーや素材のディテールの部分はその時代に合う一番いいものに変わっているはずなんです。つまり、変わらないために変わり続けるということですよね。そういう大切な視点を持つことが出来ることもあって、フェスを色んな角度から見ているんですけど、それは快適だったり、便利にしたいからではなく、喜んでもらいたいという気持ち、愛情だと思うんですよ。長く愛されるのはそういうもの。つまり、利益の追求より先に喜びがまずあって、その反応からより良いものを作ろうという更なる幸せの追求が生まれていくものですよね。若い頃には口にしたくはなかったけど、そこに愛があるかどうか。愛がないものは長く続かないなと思いますね。

INFORMATION

アウトドアプロダクツ
カスタマーセンター

電話:06-6948-0152
www.outdoorproducts.jp

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