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FEATURE
ごちそうさまに生きる人。 のはら農研塾 代表 野原健史
The interview of FOOD People

ごちそうさまに生きる人。 のはら農研塾 代表 野原健史

世界でも有数の食の国、日本。人びとの関心は常に高く、新しいお店が続々と誕生しています。では、どんなひとたちがいまフード業界を支えているのか? そのなかでもフイナムではスタイルをもったひとたちに注目しました。今回は、食の生産者である農家の方。日本では珍しい循環型オーガニック農業を実践している、のはら農研塾の野原さんにお話をお伺いしました。“パンクな農家”とも言われ、長いものに巻かれない行動力と情熱をもった、のはら農研塾の農業のやり方、社会との向き合い方には未来の農業を感じずにいられません。

  • Illustration_Michiko Otsuka
  • Text_Aki Fujii
  • Edit_Shinri Kobayashi

PROFILE

野原健史(のはら・けんじ)
「のはら農研塾」代表

1971生まれ。熊本で循環型オーガニック農業を実践する「のはら農研塾」を主宰。ゴミの最終処分場を営む家に生まれたからこそ挑戦できる農法は、人が捨てたものを循環させ、産業として上手に回る仕組みとして、業界内外から注目を集める。シンガーソングライター・東田トモヒロさんによるプロジェクト「change the world」の一環として、「福島の子どもたちに食べてもらうお米を、熊本で育てよう」というコンセプトのもと、今年から〈キーン(KEEN)〉とともに「Rice field FES.」をスタート。

産業廃棄物に向き合って来たからこそできた挑戦。

「のはら農研塾」は今年で8年目を迎えますが、実家が営む産業廃棄物処理場の会社にはもともと農業部門がありました。というのも、産廃処理場を増やすうえで、代替え地として農地を購入しておく必要があるんですが、実際に使う大きさより広い土地を確保せねばならず、どうしても余分な農地が残ってしまうため、増えすぎた農地を活用する役割でした。

10年ほど前までは、僕も家業の産廃業を続けていたのですが、娘がアトピーになったり、後輩の奥さんが癌を発症したり、グループの副社長も肝臓癌で亡くなったりと、身近でショックなことが続いて…。後輩の奥さんに何かカラダにいいものを食べさせてあげたいと、農業事業部に、「免疫を上げるような、無農薬のもので何かないかな?」と聞いてみたところ、はじめて、自社の農作物には無農薬ものがないことを知りました。

そこで、僕は家業を辞め、自分でその農業部門を引っ張ることを決めて、「のはら農研塾」として分社化。せっかくやるなら、人がやらないことをやろうと思って、まず“農薬を使わない”と決めて、ポリシーから変えました。農業について学んでわかったことですが、昔の農業って、農地や肥料など人が捨てたものを循環させて成り立っていた。ならば、うちだって、人が捨てたものを循環させて、ビジネスとしてうまく回る仕組みの農業を作ってやろう! と。産廃屋の息子としての意地もありましたし、一般ゴミや産業廃棄物といった、社会で不要になったものと向き合って来たからこそ挑戦できることだと感じたんです。

ゴミの最終処分場を営む家に
生まれて。

焼酎や醤油の製造過程でできる米や大豆の搾りかす、大量に廃棄されるトマトピューレは堆肥に、古米は鶏のエサにしているんですが、たとえばトマトピューレに関していうと、トマトはアルカリ性なので、自分らでPh数値を測って、酸性土壌がひどいところに溝を掘って、地中に入れてあげれば、酸性土壌が中和されていくんです。

ほかにも、牡蠣殻は、うちでは田んぼの水抜きに有効活用しています。田んぼの下にはガチガチの粘土層があって水が下に抜けないため、横からパイプなどを通して水を抜くのですが、通常は竹を割ったものを敷き詰めて、水が浸透して、横に流れていくような仕組み。牡蠣殻には小さな穴が開いていることに気づき、「あ!田んぼの構造にぴったりじゃん!」と、竹の代わりに、牡蠣殻をいれたんです。牡蠣殻は水抜けがいいだけでなく、微生物が住みやすく、永遠にカルシウムを出し続けるので、結果、お米がすごくおいしくなって、一石二鳥。

僕らみたいな循環型の農家さんが増えてくれれば嬉しいし、僕は、“数が増えたときが本当の正義になる”と思っているんです。

数が増えたときが、本当の正義。

妻とよく話すのですが、いまの世の中って、農薬が使われている野菜は何も表示されないで販売されているのに対して、無農薬のものが「オーガニック」「無農薬」って表示をしている。けど、本当は逆ですよね? 本来なら、「この農薬を口にするとこんなことが起きる」って危険を表示するべきだけど、大勢が正義になってしまっている。

もしかしたら、僕らがやっているオーガニック農法というのは、世の中的には「(農薬)NO」と反対派のように見られるかもしれないんですが、それでもスタイルを貫いて、きちんとビジネスとして経営も成り立っていて、「あの人たちみたいになりたいよね」って言ってもらえるようになれば、数が増えて、それは正義になると思うんです。

ウチで作った無農薬の米や野菜はたしかに高いかもしれません。だけど、食べてもらうと本当にみんなその違いがわかるって言ってもらえるんですよ。たとえばスイカのそのみずみずしさとか、お米の味わいとか。おかげさまで、オンライン販売のみでほぼ売り切れで、ほとんど卸せる余裕もないですね。

確かに農業って辛いんですよ。肉体的な辛さだけでなく、世の中の考え方と異なるジレンマや、災害や自然との闘いなど、思い通りにいかないことばかり。でも、辛い以上に面白いということを、これまでの農家さんって、若い人たちに教えられていない気がするから、これからはそこを伝えていきたいですね。スタッフは僕をいれて5人が中心ですが、ありがたいことに、全国からボランティアの方々が参加してくださって、必然的にこういったお話をさせていただく機会がある。「のはら農研塾」と、名前に「塾」をつけているのは、教えて共有することで、僕らみたいな環境保全に対する志の人たちを増やしていきたいからなんです。

地産地創。ブツブツ交換システムの農家へ。

近い将来、僕らは「手間返し」ができる仕組みを目指していきたいと思っています。オーガニック農法ってやっぱり時間と人手がかかる分、作物の値段ははってしまうのですが、僕らの農業活動に賛同してボランティアとして働いてくれたり、手間を貸してくれた方々に、日当ではないけれど、オーガニック食材やお米でお返しする。そうすることで、高いお金を出さなくてもオーガニックを身近に取り入れてもらえるようになれば、お互いにWin-Winの関係になれますよね。

さらにいえば、ひとつの町において、空き缶をもっていったポイントでオーガニック食材が安く購入できたり、さらにその空き缶を小さくプレス・圧縮する場所もあって、それが資源物になってその町でリサイクルまでできて、いつかはスプーンなどに生まれ変われたら、いいですよね。ひとつの街のなかで循環しつつ、その最後まで責任をもてる、地産地創の未来を思い描いてます。

INFORMATION

のはら農研塾

www.nohara-nouken.jp

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