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自分ごと化を徹底することで生まれるビジネスの種。龍崎翔子(ホテルプロデューサー)
〜PACK FOR LIFE〜 OUTDOOR PRODUCTS

自分ごと化を徹底することで生まれるビジネスの種。
龍崎翔子(ホテルプロデューサー)

23歳にしてホテル5つをプロデュース。龍崎翔子さんを語るときに、なにかと“若さに似合わず…”というフレーズがついてまわります。たしかに豊かな経験と柔軟な発想をお持ちではありますが、アイディアを出すためには地道な作業を繰り返していることがわかります。〈アウトドアプロダクツ〉が掲げる”生活(人生)のためのバッグを”そして“生活(人生)のために荷造りしなさい”という「PACK FOR LIFE」をテーマにした今企画。龍崎さんは、自分の理想を叶えるためにどんな荷造りをしてきたのでしょうか。

  • Photo_Ari Takagi
  • Text_Ayano Yoshida
  • Edit_Shinri Kobayashi

問題を解くのではなく、社会の課題を見つける。

ー 最近、“アメーバがつながった”ことはありましたか?

龍崎:まだ構想段階ですが、産後ケア施設をつくりたいなと考えています。創業してから今までずっとホテルの可能性を模索していたのですが、ある日、ツイッターのタイムラインに産後ケア施設というものがある、という記事が流れてきたんです。それは、産後、数週間から一ヶ月近く滞在して、子どもの世話をしてもらいながら、産婦がよもぎ蒸しや骨盤矯正などのサービスを受けて体を癒していく、というもの。日本ではまだあまり定着していないけど、中国、韓国、台湾などの東アジア諸地域では、女性を支えるサービスとして社会に受け入れられているそうなんですね。これってまさに、ホテルのビジネススキームをもとに社会に対して新しい価値を提供しているもので、しかも、自分たちにもできるのではないかなと思いました。

また、きっと自分も近い将来に出産することになるんだろうな、と考えていたんです。でも、今の日本だと、出産後の生活の仕方として、親に頼るか自力でカバーするかの二択しかない。しかも、親に頼ることができない人にとっては、自力でやるしか選択肢がない。それってすごく閉塞感があるなと思っていました。そんなときに産後ケア施設というものを知り、それが第三の選択肢として身近な所に存在するようになれば、私自身もハッピーになれるし、同じような課題を抱える誰かを満たすことができるのではないか、と。

ー ビジネスのなかで感じた課題感と、一個人としての課題感がご自身のなかでくっついて、産後ケア施設の構想へとつながった、ということですね。

龍崎:そうですね。そういう課題感のようなものを私は「渇き」と呼んでいるのですが、自分が世の中に対して感じている渇きを、最初から言語化できていることはほとんどありません。漠然とした状態でいろんな渇きが心の中に山積していて、それが少しずつ形を帯びたり言語化されたりしていきます。

産後ケア施設があればいいのにな、と考えるところまでたどり着けたら、次に、既存のプロダクトや過去の事例をチェックします。そして、自分ならどんな施設にしたいかを明確にしていく。韓国の産後ケア施設では、キムチが出るらしいんですが、自分だったら産後はキムチの気分ではないだろうな…と。では、自分なら何を食べたいのか、と突き詰めていく。あるいは、国内の施設を調べてみると、1泊約4万円ほどかかることがわかったんです。自分だったら、産後ケア施設を利用するとしたらどのくらいお金をかけられるだろう?と考えます。すると、自分が運営してみたい施設の価格設定もイメージがわいてくる……。そんなふうに、すでにあるものに対して自分がどう感じるかを掘り下げていくことで、自分の渇きの正体がよりはっきりと見えてきて、満たし方もわかってきます。

龍崎:産後ケア施設について考えるうちに、自分のなかでホテルの概念もどんどん広がっていきました。以前は。ホテルはライフスタイルを試着できる場所だと思っていました。たとえば、大阪の「HOTEL SHE, OSAKA」にはオープン当初からレコードプレーヤーを客室に備え付けています。そうすることで、雑誌やSNSを通じてアナログレコードに興味を持った人が、実際に音を聴いて体感することができるから。ホテルは、五感を通じたライフスタイルの提案ができる場所だと思っていたんです。

今はそれに加えて、ホテルは生き方に対する新たな価値観を提示できる空間だと考え始めています。“生活を変えるには引っ越しが一番”なんて言われますが、ホテルはいわば仮住まいのようなもの。だからこそ新しいライフスタイル、つまりは新しい暮らし方が提案できると思っています。産後ケアはその一つ。

今の日本の女性は、産後に自分をいたわる習慣があまりないですよね。産後は体力も消耗しているし、骨盤もゆがんで、ボロボロなのに、自分のことは二の次で子どもを優先するのが当然だとみんなが思い込んでいる。でも、本当はそれってヘルシーじゃない。だから、産後ケア施設を通して、女性はもっと産後の自分の体をケアするべき、という価値観を広められるといいですよね。

選択し続けることで見えてくるもの。

ー 事業を通じて世の中の価値観を広げていく、というのは、龍崎さんの経営者としての理念ともつながっていきそうですね。

龍崎:はい。私の会社が経営のビジョンとして描いているのは、世の中の選択肢を多様にすること。多様性を受け入れる環境を作る側に立つというよりは、これまでにないプロダクトを世に出して多様な分子の一つを生み出していくことが、私たちの目指す方向です。だから、ターゲットを絞って尖ったコンセプトのホテルを運営したり、産後ケア施設をできたらいいなと考えたりしているんです。

自分らしさって、選択を繰り返していくなかで見えてくるものだと思うんです。自分はこう思うからこれを選ぶ、と最初から意思がはっきりしている人もいるし、無意識で選んで、後からなぜ自分がそれを選んだのかを考えてもいい。アプローチはいろいろあるけど、とにかく、選択がアイデンティティを削り出す。自分にフィットするものは何かを考えながら、居心地のいい場所を探していくと、社会のなかでの生きづらさを減らせるんじゃないか。そう仮定しています。そのための選択肢を、私たちは増やしていきたいです。

ー 日本の社会のなかにいると、特に若い人がはっきりと自己主張していくことの難しさもあるのではないかと思います。「出る杭は打たれる」ではないけれど。

龍崎:あまりそういう風に感じたことはないですね。多くの優しい方々にサポートしてもらって、事業をやらせていただいています。自分の価値観を示したり、尖ったプロダクトを世に出したりするときの主張は躊躇しません。会社自体が社会の多様な分子のひとつとなることで、「世の中の選択肢を多様にする」という会社の理念を体現していけるんじゃないか、とも思っています。

INFORMATION

アウトドアプロダクツ
カスタマーセンター

電話:06-6948-0152
www.outdoorproducts.jp

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