ぶち抜いたものをつくらないと意味がない。
ー いま、「街の景色をつくりたい」というお話がありましたが、兜町という街に根ざした施設をつくりたいというお気持ちはあったんですか?

本間:ぼく個人でいえば、地域に根ざすということはあんまり考えてないです。とはいえ、ここが金融の街だったという背景や歴史は大事だと思っています。それってストーリーじゃないですか。街の物語を無視したことをやっても意味がない。背景をどう汲み取って、なにをやるかというのが大事だと思うんです。とはいえ、ここにいる3人ともそのスタンスはちがうような気もします。
松井:ぼくは都市が好きなんですよ。よかった場所がダメになったり、ダメだったところが回復したり、そうゆう感じで都市がどう変化していくか? というところを気にします。
兜町は金融の街ですよね。だけど、売買が電子化されるにつれて人も会社も大手町に離れていきました。だけど、「K5」ができることによって街がどう活性化されるかというところにぼくは興味があって。だからこそ、この場所が誰も見たことないような施設になる必要があると思ってます。
本間:そうだよね、「誰もみたことない場所をつくる」っていうのはみんな一致してるんだよね。それぞれ捉え方にちがいはあっても、ぶち抜いたものをつくらないと意味がないんです。
ー そうした話はプロジェクトが立ち上がったときにされたんですか? 「こういう施設にしよう」みたいなこととか。
松井:それが結構変化してるんですよ。ここでホテルをつくりますっていうのがスタートでしたけど、最近になって「もはやここはホテルじゃないよね」っていう話になって(笑)。もちろんホテルはあるんですけど、俺らがやろうとしているのはホテルをつくることではなくて。
岡:先ほどの背景の話に戻りますけど、ぼくは兜町に対してよくも悪くもグレーなイメージがあるんです。金融都市としての役割が大手町や丸の内にうつって、石の建物ばかり残って、外観はかっこいいけど中身はなにもないという建物もあります。そんな場所でぼくらに与えられたのは、そこにエネルギーを吹き込むことなのかなと。だからこそ、ホテルひとつをつくるんじゃなくて、バーやレストラン、ビアホールそれぞれが対等の立場で、いろんな目的を持った人が集まる場所にしたいというのはありますね。

本間:そもそも、「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」にはコンセプトがあるんです。「リバイタライズ(再生)」というのがそれで、ぼくらのミッションは街を再活性化することなんです。だからホテルをつくって終わりじゃなくて、ここを起点に街がよりおもしろくなっていくことがなによりも大事。そのためにはまず人が元気になることが重要で、それをするためには感性を開いたり感じてもらうことが必要不可欠だと考えました。そこから「センシャス・ホテル」というコンセプトができたんです。要するに“五感で感じるホテル”ということです。そのコンセプトはいまでも生きてて、みんな意識しているんですけど。
普通のプロジェクトって方向性がブレないように進めないと空中分解しちゃうんですけど、今回は口うるさく言わなくてもみんなコンセプトが常に頭の中にある状態で進行できたというのはありますね。判断があまりバラけなかった。
ー それはどうしてだと思いますか?
本間:3つ要因があると思います。ひとつはコンセプトがハッキリしていたこと。もうひとつは、そのコンセプトの振り幅、器が大きかったこと。最後は単純に仲がいい(笑)、ということだと思います。
ぼくら3名だけじゃなくて、テナントとして入ってもらうレストランやバーの人たち、デザインチームとして入ってもらったスウェーデンの「クラーソン・コイヴィスト・ルーネ(以下:CKR)」や、「ADX」っていう建築設計チーム、そして植栽の「ヤードワークス」もそう。飲み会するとただただ楽しくて、それとおなじテンションで仕事ができる。そういうプロジェクトってすごい珍しいんですよ。つまりはみんな感じあっていて、あまり衝突とかも起きないんです。
ー 仕事をしながら感じ合い、アイデアも常に出る状態が続いているんですか?
本間:そうですね。本当にその通りです。

松井:決め切らないんですよ。最後まで議論して、最後になってまた変わる、みたいな(笑)。そうするとどこかにしわ寄せがくるじゃないですか。でも、みんなそれを理解してやってるから分かり合えるというか。
岡:クリエイティブがロジックを凌駕するというか、そういう瞬間がたくさんあって。自分たちの想像を超えるクリエイティブが生まれて、それだったら時間や予算、労力っていう制約を超えてもやるべきだよね、っていう認識が全員にあったんです。