一つの勝てる方法を突き詰めると、逆に危ない。

ー 今まで趣味だったものが仕事になるという点で、ゲームとの向き合い方が変わったりは?
梅原:やっていることは同じはずなんですけど、やっぱり「やらなきゃいけないこと」になったことで、生まれて初めてゲームに対して飽きを感じましたね。それはゲームが好きで好きでたまらなかった僕にとっては、精神的にも大きな打撃でした。自分が勝てる理由というのは、とにかくほかの人よりも長い時間プレイするというその一点しかないと思っていたので、飽きは命取りなんですよ。そこで危険を感じて対策を講じました。
ー どんな対策をされたんですか ?
梅原:例えば1日プレイをして、その日に気付いたことやできるようになったことを必ず、どんな些細なことでもいいからメモする。一つでも発見があれば、今日ゲームをやった意味を見出せるし、一歩前進したという手応えも得られるし、じゃあ明日も頑張ろうという気にもなれるんです。
ー 梅原さんは著書『勝ち続ける意志力』(小学館)で、他人から「よい」と指摘されたプレイは極力捨て、ある戦術を完成させた瞬間から別の戦術を探り始めると書かれていました。それも飽きないようにする工夫なのかなって。
梅原:それはありますね。あと「とにかく早く成果を出したい」と思っていたときに、どんどんプレイを効率化させていって、たしかに勝てるようにはなったんですけど、それから1年か2年後ぐらいにピタッと勝てなくなったんですよ。要は、手っ取り早く勝つ方法を突き詰めちゃうと、必ずあとでしっぺ返しがくるということを経験から学んだんですね。だから勝てる方法を一つ見つけたとしても、それを突き詰めるんじゃなくて、20〜30%ぐらいは遊べる余地を残しておくというか……投資みたいな感覚なのかな。
ー 投資?
梅原:今、確実に利益が出る銘柄に100%突っ込むんじゃなくて、それ以外の、ひょっとしたら利益が出ないかもしれないものにも何割か振り分けておく。そうやって常に別の投資先を探していると、いざというときの選択肢がめちゃくちゃ増えているんですよ。要は一つの必勝法で、言うなれば一本道で勝ち続けてきた人は、その道が塞がれたときに打つ手がなくなるんですよね。しかも効率重視でプレイしているから非効率なことはしない。だから手持ちの情報も少ないんです。逆に、寄り道をいっぱいしてきた人は、進むスピードは遅いけど、そのぶん抜け道を知っていたり、余計なものも含めて情報も持っている。やっぱり行き止まりになるということが一番危ないと思っていて。

ー 梅原さんは今年、ちょうどプロになって10周年なんですよね。この10年間で変わったことはあります?
梅原:1年目のときのようながむしゃらさはなくなりましたけど、ゲームへの取り組み方は洗練されてきていると思います。
ー その洗練というのは、今おっしゃった効率化という意味ではない?
梅原:いや、効率化ですね。ただ、それは戦法が効率化されているんじゃなくて、努力の仕方が効率化されているんです。例えば1年目は、1日に16〜18時間ぐらいゲームをやる生活を続けていたら、限界が来ちゃったんです。もう、レバーを触るのも気持ち悪くなっちゃって。そこで、自分にとって無理のない負荷のかけ方を探し始めたんですよ。まあ、どうしても大会が近付いたりすると時間に頼ってしまうんですけど、やっぱりそれって自己満足だったりするので、効率の面でいうと悪いんですよね。だから、きちんと前進できる練習の仕方というのは、この10年でかなり洗練されてきたかなと。