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FEATURE
「É」の系譜最終回 L’ECHOPPE コンセプター 金子恵治
服の求道者たち

「É」の系譜
最終回 L’ECHOPPE コンセプター
金子恵治

2013年にフイナムで連載していた企画、「服の求道者たち ~「É」の系譜~」。そのとき、特に気になっていた服の作り手が、みなセレクトショップ「É」、つまり「エディフィス(ÉDIFICE)」の出身であるという繋がりを軸に、三回に渡ってお送りした対談企画でした。あれから7年の時が経ちましたが、満を辞してこの企画を締めるのにふさわしい人物である、「レショップ」のコンセプター、金子恵治さんに登場していただきます。インタビュアーは同じく「エディフィス」の出身である、PRオフィス「ムロフィス」代表の中室太輔さん。なお、本企画はフイナムのインスタライブと連動しており、お二人には一時間ノンストップで語り合っていただきました。インスタライブをご覧になった方も、最後に未配信トークも掲載していますので、改めてご覧ください。

Eの系譜
第一回:尾崎雄飛 
第二回:小森啓二郎 
第三回:板井秀司 

中室:あれ、意外と今いいんじゃないですか(笑)?

金子:けどそれって、自分が今「レショップ」でやってるアーミッシュハットとかとほぼ同じことだよね。田舎町のカルチャーからファッションを引っ張ってきて、その地域をより深く知ってもらうことというか。

中室:たしかに。より精神性の強い取り組みですよね。

金子:だからそういう意味では昔とあんまり変わってないんだろうね。

中室:この「求道者たち ~Eの系譜~」に金子さんに出てもらいたいなって思いついたのが、「レショップ」が青山にできて、〈サンカッケー〉の尾崎くんと「フイナム 」で対談してた企画があったじゃないですか?

金子:あぁ、あったね。

中室:それを見たときに、金子さんにようやく光が当たったというのがすごく嬉しかったんです。その企画、すぐにシェアしたのを覚えてて。で、なんで嬉しかったかというと、今みんなが「金子さんすごいなぁ」って思ってることって、実は15~16年くらい前からずっと同じことをやってたっていう。それにみんなが気づいてなかっただけなんです。だから金子さんをもともと知ってた人間からすると、すごく嬉しかったんですよね。

金子:なるほどね。

中室:だから変わってないっていうのは多分その通りだなって。ただバイイングはどうなのかなって思ってて、それについて聞きたいんです。僕一回だけ金子さんのバイイングについて同行させてもらったことがあるんです。プレスになった22歳のときです。で、こんなに歩くんだって思ったんですよね。“現物”をダッフルバッグにパンパンに入れて買って。あと、次のポイントに行くときにタクシーに乗らないんですよね。

金子:そうだね。

中室:どんなに荷物があっても、行くまでの間になにか見つかるんじゃないかっていう。バイヤーのひとってこんなに歩くんだっていうね。今も変わってないですか?

金子:変わってないかなぁ。基本、知らない道を行くっていう。そこに発見があるはずなので。

中室:あ、さっき話に出た“現物”ってなんですか?っていう質問が来てますね。

金子:普通の買い付けって、これを何着かオーダーしてそれが数ヶ月後に納品されるっていうサイクルで行うものなんですが、現物っていうのはそこにあるものをそのまま買って、それをお店に並べることですね。っていうと、なんか横流しみたいに聞こえるかもしれませんが(笑)。けど、決してそういうことではなく、古着屋さんが古着を買い付けるようなことに少し近いのかなって。自分たちがいいなって思ったものを、お客さんにすぐに紹介するっていう、そういうのがいわゆる現物商品っていうものですね。

中室:また当時「エディフィス」の渋谷店の横にマルシェ(マルシェ・オーパス)があったんですよね。ガレージのスペースを使って。そこにフランスをはじめとしたヨーロッパ各国から買ってきたものを並べて、パリからちょっと離れた場所で土日にやってる蚤の市みたいな感じでしたよね。

金子:そうだね。灰皿買いに南仏行ってたからね(笑)。

中室:あの場所はフランスの風が吹いてましたよね。ちなみに、あの当時のエディフィスは金子さんから見てどうでしたか?

金子:うーん、あんまり客観的に見れてはいなかったけど、僕も当時は何も知らなかったので、とにかく今のフランスを表現しようと思っていて。「エディフィス」に古着を並べたのは、僕が最初だったと思うんだけど。最初は古着はまずいだろ、ということでデッドストックを探してて、作業着屋のストックに入れてもらって見つけたり。ただ、段々エスカレートしてきて、古着も置くようになって(笑)。ああいうお店でそういうものを置くことっていうのが、何か突破口になるような気がして。普通では考えられないことをやってみるというか。一般的な展示会で買い付けることとは、まったく別の頭の使い方をするので、すごく面白い表現ができたりするんだよね。お客さんもいつ来ても同じだな、ということではなくて、つねに発見があるというか。そう、発見は多いお店だったはず。

中室:そうでしたね。

金子:あと、現物は「ベイクルーズ」の伝統として、やらなければならないことではあったので。僕は器用ではないので、人一倍歩いてものを探したりしていましたね。ただ、今みたいにSNSとかブログがない時代だったので、スタッフに直接教えることしかできなくて。直接世の中に発信できてなかったのが今との大きな違いだね。だから渋谷のあのお店でコソコソやってただけというか。

中室:そうですね。だから知る人ぞ知るお店でしたよね、今思えば。どこに何があるかわからないから、とにかく行くっていう。さっきお話しした、金子さんに同行させてもらったヨーロッパでのバイイングでの話なんですが、バルセロナでミリタリー物がすごく集まる展示会があるらしいという情報をキャッチして、そのために二日間とってたんです。で、行ったら何も(買えるものが)なくて、30分でその展示会は終わって、あとのほぼ丸二日、ビーチで寝てましたよね(笑)。

金子:あったねー。今だから言えるけど(笑)

中室:シエスタがあるから、お店もやってないし。で、夜になったらお腹がすいたら、うまい飯食べに行って、みたいな。

金子:バルセロナはメシはうまいよね。あとビーチも最高。

中室:そんな無駄のある出張って今はないでしょうね。もっとパンパンというか。

金子:けど、買い付けのノリとしては、そんなに変わらないんだけどね。勘を頼りに行くっていうか。けど、当時とはその精度が全然違うね。経験がやっぱり大事みたいで、だんだん外さなくなるんだよね。けど、行きたい街の感じとかそういうのはあんまり変わらないかなぁ。でもちゃんと仕事につながってるというか。そこはもっと分析して、後輩に伝えていかなきゃなとは思うんだけど。遊びで終わることはもうほぼないかな。逆に寂しいかなとも思うんだけど。

中室:けど、結局無駄な時間ってないですよね。必ず何かしら身になってるというか。

金子:そうだね。無駄って、実は無駄じゃないんだよね。それが糧になってるっていうのは、自分でもすごく感じてるし。

中室:金子さんが海外で見つけてきたブランドってたくさんあると思うんですが、いわゆる発掘したブランドって、なにがありますかね?

金子:今メジャーなブランドだと〈フランク リーダー(frank leader)〉かな。

中室:どうやって見つけたんですか?

金子:ロンドンのよくわからないセレクトショップにあったんだよね。お店のなかをパッと見た感じで明らかに欲しいものは何もないんだけど、こっちも開拓精神があるからなんか見つけてやろうって思って。そしたら片隅の方に〈フランク リーダー〉が3~4枚あって。

中室:どんなアイテムですか?

金子:たしかショップコートとかだったかな。そこの一角だけ明らかにおかしかったんだよね。すごく好きな素材感だったし。手に取ってみたらまったく全く知らないブランドだったんだけど、すぐに買って。で、コンタクトを取ってみたらそのときフランクはロンドンに住んでいて。「ベイクルーズ」の当時のロンドンの駐在員である、西垣さんの家のほぼ隣くらいに住んでたんだよね。

中室:駐在員というのは、各ブランドのバイヤーにロンドンの情報を教えてくれたような人ですね。

金子:そう。で、そこから最初の何シーズンかは「エディフィス」だけでやっていて、そのうちロンドンコレクションに出るようになってどんどん大きくなってきて。僕は、彼の落書きが面白いのを知ってたから、そのTシャツを作ってもらったりして。

中室:それ買いましたよ。バスキアみたいなやつですよね。

金子:そうそう。それは彼の家で見た落書きが可愛いってことで生まれたんだよね。

中室:そうなんですね。

金子:あとは、他のものがあんまり売れてなかったから、なんか売れるものを作らなきゃいけないっていう気持ちも正直あったね。Tシャツ以外にもエコバッグみたいなの作って。

中室:ありましたね。そこからどれくらいで有名になったんですか?

金子:2~3年くらいかなぁ。代理店が付いたりして。そこからはちょっと疎遠になってしまったんだけど。

中室:なるほど。あと、、コメントをいただいてますね。〈ジェシカ・オグデン(Jessica Ogden)〉もじゃないかと。これは「ベイクルーズ」の方からのコメントですけども(笑)。

金子:〈ジェシカ・オグデン〉はもともとレディースとしては、「ドゥーズィエム クラス」でやっていて。ただこの人のメンズコレクションがあったらいいなということで、「エディフィス」用に作ってもらいました。

中室:あれもかっこよかったですよね。

金子:売れなかったけどね(笑)。

中室:ショップスタッフはみんな買ってたんじゃないですか?

金子:今考えると安いけど、当時は高かったのかもね。あれはレディースをメンズに、っていう最初のコラボレーションだったんだよね。それからパリとかにもレディースのコレクションを見に行ったりするようになって。

中室:へー、そういうことをしてたんですね。ほかにどんなブランドがあったんですか?

金子:あとは、、野口光さんっていうロンドンのニットのアーティストがいて、そういう方にも作ってもらってたね。あとは〈オノレ(HONORE)〉とか。

中室:あー、ありましたね。あれもそういう企画で生まれたんですね。

金子:そうそう。

中室:〈マノロ・ブラニク(Manolo Blahnik)〉は誰が仕込んだんですか?

金子:あれは僕だね。

中室:あ、あれも金子さんだったんですね。僕たち販売員からしたら、〈マノロ・ブラニク〉ってあのピンヒールのでしょ?って。メンズなんて全然なかった時代に。それを「エディフィス」が頼んで、世界で初めてメンズの靴ができたって聞きましたけど。

金子:あ、それは誤情報だね。実はこっそりとマノロさんがちょっとだけメンズを作ってたんだよね。

中室:あ、そうなんですね。確かあれは2001年くらいだったと思います。

金子:そうだね。それくらいだったと思います。とある筋からマノロさんに繋がって、メンズの靴を「エディフィス」だけで仕入れることになったんだけど、全然売れなかった(笑)。いや、当時は本当に申し訳なかったけど、全然売れなかったんだよね。

中室:(笑)。けど、僕はレースアップのブーツとサイドゴア買いましたよ。あの靴は、なんか色気がありましたよね。いやー、あれが金子さんの企画だったとは。

金子:男性ものを作っているところとはまた違うものができるので、そこにも魅力を感じていたんだよね。

中室:こないだ〈マディソン ブルー〉ともメンズを作ってましたけど、基本の考え方は変わってない感じですか?

金子:そうだね。基本なんでもフラットに見るようにするのが自分のポリシーなので。なおかつ自分のアイデアでレディースをメンズにできるんだったら、いつでもやる準備はできていて、臨戦態勢というか。

INFORMATION

レショップ 青山店

電話:03-5413-4714

レショップ渋谷店

電話:03-6712-5770

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