PROFILE
セレクトショップ「エディフィス」にてバイヤーを務めた後に独立。自身の活動を経て、2015年に「レショップ」を立ち上げる。2019年よりオリジナルレーベル〈LE〉を始動。
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「ユナイテッドアローズ」にて、プレス、バイヤー、〈ユナイテッドアローズ&サンズ〉のディレクターなどを務めたのち、2018年に独立。現在はギャラリーを併設したスタジオ〈2G〉や自身のブランドである〈POGGYTHEMAN〉などさまざまなプロジェクトのキュレーション及びディレクションを手がける。
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数社のアパレルブランドにてパタンナーとして活動後、デザイナーである日高久代と共に「Masterpiece and Co.」を設立し、オリジナルブランドとして〈サイ〉を始動。古き良き時代のパターンを参考に、意味のある仕立てを追求している。
ジャケットに関しては着たいものが一致していた。
ー 今年の8月に、金子さんが小木さんとの2ショット写真をインスタグラムに投稿されていました。いまとなれば、あの写真はこのプロジェクトのキックオフだったというのが分かるんですが、そのときにどんな会話をされていたんですか?
金子:二人の共通の知人に小木さんをご紹介いただいて、ランチをご一緒したんです。そのときに一緒になにかしましょうというお話をしたんです。
ー 小木さんに対しては、どんな印象をお持ちでしたか?
金子:小木さんといえばやっぱり「ユナイテッドアローズ」のイメージが強くて。どこかのレセプションで見かけたのかな? スーツをきちんと着て、髪を撫でつけてっていう(笑)。
小木:ハハハ、そうですね(笑)。
金子:ビシッと英国調のスーツを着ていらしたんですよ。ドレスをきちんとかっこよく着ている人って、いつも印象に残るんです。それで「この人はめちゃくちゃ洋服屋の人だな」というイメージがあって。
小木:2010年に〈ユナイテッドアローズ&サンズ〉を立ち上げて、その頃から「ユナイテッドアローズ」本体のドレスチームと一緒にピッティも行かせてもらうようになったんです。それまでは面白さだけでスーツを着ていたんですが、基本もしっかりしないとダメだということに気づかされて。ただ一方で、基本的なスーツを着れば着るほど没個性というか、自分じゃなくなる感覚もあって、そのなかでいかに自分らしさを表現するかという試行錯誤をしていたんです。
ー なるほど。金子さんも以前「エディフィス」にいた頃に、ドレスの売り場に立たれていた時期があったんですよね?
金子:そうですね。26か7歳くらいの頃、「エディフィス 渋谷店」の地下に小さなクロージングコーナーがあったんです。当時はクラシコ・イタリアが全盛の頃で、〈ステファノ・ビー〉とか〈バルバ〉のシャツ、〈エドワード・グリーン〉の靴を買ったりしていました。〈エリック ベルジェール〉のシャツも着ていましたね。
小木:〈エリック ベルジェール〉、懐かしいですね。
金子: それまでなんとなく着ていたカジュアルも、クロージングを知ってからどこか変わったんです。そこでの学びが、よりカジュアルを進化させたというか、つながる部分がありましたね。
ー 今回のように、こうしてドレスの服をつくりたいという気持ちは昔からあったんですか?
金子:世の中的に年々スーツを着る人が減っていて、コロナウィルスの影響でさらにそれが顕著になりましたよね。そうした状況に対してなにかできることはないかと、心のなかでいつも思っていたんです。小木さんご自身もコロナによってご自身のスタイルがだいぶ変わったというお話があって、僕のそうした思いと少しだけリンクしたんです。
ー 小木さんのスタイルは、具体的にどのように変わったのでしょうか?
小木:僕はもともとストリートファッションが好きでセレクトショップに入って、2年前に「ユナイテッドアローズ」から独立した頃は、そうした本来自分の好きだったことをやりたいという気持ちが強かったんです。でもコロナの影響で家のなかを掃除して、クローゼットも大幅に整理していたら、色々と気づいたことがあって。
スーツに関しては、2001年にエディ・スリマンが〈ディオール・オム〉のデザイナーに就任してスーツが細身になったりとか、2004〜5年くらいにトム・ブラウンが出てきて細身のトラッドなスーツをつくったりしてたんですけど、それ以前につくられたスーツのほうが定期的に着ているなと。
今回もそういった服をつくりたいというのがありました。この先に残るものって限られてくると思うんですが、そうした服を世の中に提案していきたいという気持ちがあったんです。いまのオーバーサイズ、カジュアルが全盛の時代でそれをやるのはかなりリスクがあるとは思っていたんですが、金子さんとお話をしているとお互い好きなものが似ていたりして、ジャケットに関しては着たいものが一致していたんです。
金子:ほぼほぼ同じでしたよね。いまふと思い出したんですけど、“アメリカのおじさん”好きというのも一致してましたよね。
小木:あぁ、そうですね(笑)。
金子:今日、僕たちキャップをかぶってますけど、まさにこういうアメリカのおじさんの格好が好きなんです。
小木:ただ、金子さんがお好きなのは、テキサスから出てきてサンフランシスコとかニューヨークへ渡っていった品のあるおじさん、というイメージがあるんですけど、僕の場合はテキサスから出てきて、LAのハリウッドへ行っちゃうような、ちょっと浮かれたおじさんが好きで(笑)。
一同:笑
金子:ものを見るときのフィルターのかかり方は異なりますけど、根っこは同じアメリカなんですよね。
ー 金子さんは「エディフィス」出身ですし、フレンチの影響も大きいと思うんですが、それでもやっぱりアメリカなんですか?
金子:結局いま持っているものとか、買っているものはアメリカものばかりだったりするんです。90年代に買えなかったものをいまになってひたすら買っていたりしていて。一方で、今日たまたま2人とも〈ロロ・ピアーナ〉のニットを着ていますけど、こうしてヨーロッパブランドをミックスする感覚を楽しんだりしてもしています。カジュアルはそういった感じなんですが、テーラードのジャケットでは好みがピタリと一致したんです。
ー 先日Youtubeにアップされていた動画でも語られていましたが、それが英国式のジャケットだったわけですね。
金子:はい。最初にランチしたときに、英国式のスーツをつくりたいという話でまとまったんですが、僕のなかでなにかひとつ欠けているなと思ったんです。このままではスタイルの打ち出しだけで終わってしまう。ものづくりの部分でサポートが必要だなと。
「ベイクルーズ」には「エディフィス」でスーツをつくっていた実力派の生産チームがいるんですが、僕と小木さんが言わんとすることを理解して、なおかつスーツに対して一家言持っている人に参加してもらったほうが、より高いクオリティでものづくりができると思ったんです。
ー そこで宮原さんの顔が思い浮かんだと。
金子:そうですね。ここで宮原さんが参加してくれたら、スーツが好きな人はもちろん、若い人たちに向けても間違いないものができるという確信がありました。
宮原:お話をいただいて、すごくうれしかったですね。金子くんが「レショップ」で活躍しているのは知っていましたし、実は知り合ってからも長いんですよ。〈サイ〉がデビューした当時から僕らの服を見てくれたりしていて。いろんな諸事情があってなかなか取引ができなかったですけど、その後「エディフィス」でお取り扱いいただいたりして。昔は事務所も近くて、しょっちゅうランチで会ったりしたんです。ただ、今回のようなものづくりの作業はしたことがなくて。
金子くんと小木くんがランチしたというインスタの投稿を見て、ぼくも“いいね”はしていたんですけど、その数日後に連絡があって。楽しそうだし、ぜひ参加したいということで仲間に入れてもらいました。
金子:きっと“いいね”をくれるだろうと思っていました(笑)。だからすごく相談がしやすかったですね。
ー こうしたプロジェクトに宮原さんが加わること自体珍しいですよね?
宮原:そうかもしれません。打ち合わせを重ねながら、「ボタンはこうしよう」とか、「ここのシルエットはこうしよう」とか、細かい部分をいろいろ話して本当に楽しくお仕事させてもらいました。何回もミーティングをして、かなり濃いものができていると思います。というか、それはもうこのメンバーを見てもらえれば一目瞭然だと思いますけどね(笑)。