Case.1
mita sneakersPROFILE
1976年生まれ。上野の老舗スニーカーショップ「ミタスニーカーズ」へ、1996年に入社。あらゆるブランドとのコラボレーションや別注を仕掛けたり、ブランドのプロジェクトやディレクションに携わったりと、シーンのキーマンとして世界的に注目を集める。
Instagram:@shigeyuki_kunii
靴の作り方の根本が大きく変わった2010年代。
ー まず、今年のスニーカー事情に入る前に、1990年代から2010年代までを10年周期で見た場合の、スニーカーシーンをおさらいしたいです。
国井:分かりやすいようにあえて70年代からお話しすると、まず、70年代に現代でも復刻リリースされているようなスニーカーが生まれました。運動靴がスニーカーとして認知された時代ですね。80年代は、ゴールデンエラと言われていて、今のスニーカーシーンの原型となるカテゴリーが形成されながら、クッショニング競争が激化。90年代に入ると、そこへテクノロジーの波がアッパーにもやってきて、スポーツだけじゃなく、アウトドアをはじめとした、より広いフィールドにフィットするモデルが多く見られるようになりました。さらに、90年代後半からライフスタイルに着目したブランドやモデルがリリースされ、2000年代にかけてはコラボレーションのラッシュ。スニーカーショップやアパレルブランドはもちろん、アーティストなど、いろんな人たちがそれぞれ協業して新しいスニーカーを生み出すという、ひとつのビジネスモデルが確立された時代でしたね。
ー なるほど。とても分かりやすいです。
国井:そこから、2010年代に入ってからは、靴そのものの作り方の根本が大きく変わりました。例えば、アッパーのニッティング製法が出てきたことで、縫製を減らしたノーソーデザインやシームレスなスニーカー構造が主流に。ミッドソールもそうですね。30年以上、EVA(エチレンビニールアセテート)かPU(ポリウレタン)の二択だったミッドソール素材に変革をもたらした〈アディダス〉のブーストフォームをきっかけに構造や機構から素材の研究開発へと大きくシフトしました。
ー つまり2010年代は、デザインというより素材や機能面が目立っていたと。
国井:そうなります。90年代中期まではシューズデザイナーさんが機能もデザインしていたのが、2000年代以降、テクノロジーはテクノロジーで個別に開発し、それを最大限活かすためにデザインするといったように、役割が細分化されたことで作り方が一変しました。なので、機能や素材開発が一気に進んだのだと思います。あとは、〈ナイキ〉の「アダプト」に代表されるような、電力を使ったモデルとか、ライフスタイルの多様化によって、純粋に競技用だけじゃないモデルも増えましたね。
ー たしかに、スニーカーがファッションアイテムとしての市民権を得て以降、2000年代までは良くも悪くもデザイン先行型のモデルが多かった気がします。それが2010年代に入って、いわゆるパフォーマンスシューズとファッションとしてのスニーカーの境界線がなくなり、より選択肢の幅が広がりました。
国井:デジタルがものすごいスピードで成長したのと同時に、ライフスタイルも大きく変わりましたからね。全ての境界線が曖昧になったというか。それこそ昔は、お店に行かないと在庫があるのかすら分からない時代でした。でも、今はネットでほぼ完結。もちろん、両方ともリアルなんですけど、今はスニーカーは履くものじゃなくて投資目的で買う人たちも一定数いたりして。新たなビジネスモデルとでも言いますか…。個人的には、スニーカーは履いてなんぼだと思っているんですけどね。
スニーカーの原点回帰説浮上!?
ー それだけスニーカーマーケットが世界規模で大きくなっているということですね。では、本題の2021年。ズバリ、何が流行るんでしょうか?
国井:大きな流れとしてはコート系のシューズがあります。もちろんオススメは山ほどあるんですが、今回は分かりやすさ重視でピックアップしてみました。〈ナイキ〉の「エア フォース 1」、〈アディダス〉の「フォーラム」、〈プーマ〉の「スウェード」、〈ニューバランス〉の「550」、最後はコート系ではないのですが、〈アグ〉の「ウエストサイダー ロー ウェザー」です。
ー なんだか馴染みのあるラインナップですね。
国井:スニーカーヘッズもファッションフリークも、ここ数年みんな見てる方向が一緒だったというか。例えば、ファッションとスポーツ、ラグジュアリーとストリートみたいに、両極にあるものがクロスオーバーするのがここ最近の流れでした。うちも〈ジバンシー〉とコラボレーションしたぐらいですし。ただ、昨年ぐらいから、徐々に元の位置に戻っている気がします。
ー 元の位置というのは?
国井:ブランドのアイデンティティを感じるアイテムだったり、タイムレスなモデルですね。昨年だと〈ニューバランス〉の「992」が良い例で、定番カラーは在庫が追いつかない状況が1年以上続きました。後半にリリースされた「2002R」も物凄い勢いで売れてましたし。要は、足元を際立たせるというよりは、馴染むものにお客さんの嗜好がシフトしていったのかなと。実際に昨年1年間で一番売れたのは〈ナイキ〉の「エア フォース 1」の白×白のローカットですから。
ー それは予想外でした。
国井:ハイプだったりレアと言われるモデルばかり履いてるのも、それはそれで照れくさいですし。最近はむしろSNS上では見かけるけど、街で履いてる人を見る機会は減ったかも知れません。そういう状況の中で、逆に「エアフォース 1」の白×白が、昨年からずっと在庫がなくて、入荷したら即完売するのが続いていました。気になって知り合いの女の子に聞いたら、SNSで「エアフォース 1が無くなるらしい!」っていう噂が一気に広まったのが要因らしいです。
ー そんなが事あったんですね。
国井:あとは、ソールやアッパーをエイジングしたり、自分でカスタムしてる子も多いですよ。80年代のバッシュに見られるような、日焼けしたシューレースを再現した〈フォックストロットユニフォーム〉というブランドもあったりして。なので、逆に言うと、みんなが追ってるものを買ってはいるけど、それを自分のスタイルに取り込むためにDIYしちゃうっていう流れが、若い子たち、特にZ世代に多いです。欲しいものはいくら出しても欲しいし、いらないものはいくら安くてもいらないっていう。
ー 若い世代の方がシビアですね。となると、総体的にコート系をはじめとした定番モデルに目が向いていると。
国井:そうですね。買う理由が明確なものが売れると思います。となると、話題性(限定品)か必然性(定番品)の両極になりがちではありますが、決められたタイムラインの中で同じモノやコトをプッシュするのがショップ本来の役割ではないし、ユーザーに対して新たな選択肢を増やすのが本来の役割。コロナ禍においてデジタルで買い物をする人たちももっと増えると思うので、その中で、どう伝えるかっていうのは僕たちお店側の問題。それ次第でムードも流れも変わってくると思います。
国井さんが選んだ2021年の5足を紹介。
- 1
- 2