PROFILE

ラフォーレ原宿にあるセレクトショップ「GR8」で、バイイングをはじめ、インショップイベントなどのスペシャルプロジェクトマネージャーも務める。
SNSの力でバズとストーリーを丁寧につくっていく。

ー ファッションアイテムが売れにくくなっていると言われる昨今ですが、ハイエンドなブランドから日本での取り扱いの少ないコアなブランドまで取り扱われている「GR8」で、2021年春夏シーズン動きのよかった商品を教えていただけますか?
高橋:コロナ禍の影響でオーダーがキャンセルになったケースもあり、立ち上がりきっていないのですが、爆発的に動きがよかったものは3つありました。まず、〈ジェントルモンスター(GENTLE MONSTER)〉という韓国のサングラスブランド。2つ目は2月に1日限定のポップアップをしたばかりの〈ナイスドリームス(nicedreams)〉。ラッパーのKOHH君のお店「Dogs」のアートディレクションを担当しているJelly(Yuki “Jelly” Miyazaki)さんが新しく立ち上げたブランドです。3つ目は、〈99%IS-〉のシューレースですね。
ー それぞれが劇的に売れた理由を高橋さんはどのようにみていますか?
高橋:〈ジェントルモンスター〉は国内ショップの取り扱いも少ないので、まだ供給量が足りてないことがあると思いますが、発売されるたびにコレクションがしっかりとアップデートされていること、そして何よりSNSの力がすごく強いですね。世界レベルのインフルエンス力のある、韓国人アーティストたちが次々とIG(インスタグラム)でポストし、販売に直結していると思います。サングラスが動くブランドは少ないのに1週間ちょっとで40パーセント以上も消化しました。

2011年に韓国で誕生したサングラスブランド〈ジェントルモンスター〉のウェリントン型のアイウェア。過去には〈フェンディ〉や〈アレキサンダー ワン〉とのコラボレーションも。各¥34,650
ー 「Dogs」の熱気を踏まえると根強いファンがいそうな、〈ナイスドリームス〉はいかがでしょうか?
高橋:ポップアップを開催した日、Jellyさんにマネキンに雲の絵を描いていただいたんです。もともとのファンの方も多くいらっしゃいましたが、ライブペインティングから派生し、彼のアートワークそのものを好きになった方もちゃんとついてきている印象がありましたね。「GR8」は発売前にメルマガを配信するんですが、担当スタッフに〈ナイスドリームス〉にちなんだ詩を書いてもらい、当日までの流れをストーリー性のあるつくりにしました。メルマガの登録者数も10万人近くいるのでそうしたことが紐付きながら、「Dogs」まわりのお客さんからJellyさんの友人まで一日中来店客が絶えませんでしたね。服も1日でほぼ完売して、そのペイントされたマネキン(33万円)を購入された方もいました。

〈ナイスドリームス〉のフーディスウェット。刺繍の部分は、Dr.Dreの名盤「The Chronic」のジャケットに用いられたモチーフで、2000年代のHIPHOPウェアをリメイクしている。このブランドのアイテムはすべて完売。
ー あとは、高橋さんもいまつけていらっしゃる〈99%IS-〉の靴紐ですね。
高橋:約1年前からデザイナーと話していた企画でした。今回は、発売前にアセットとしてルックと動画、ティザーを入念に用意し、いわゆるバズをつくりたかったんです。デザイナーも毎日のようにインスタにポストしましたし、「GR8」とブランド側のスタッフ全員がアップしようと進めてきました。先陣を切って韓国の「HYPEBEAST」が取り上げてくれて、本国と日本版にも拡がり、そこからは各スタッフが媒体のアカウントからブランド、「GR8」、ぼくに至るまで全部をタグ付けしてすべてを連動させてリグライムしていったんです。プライスや発売方法を前日まで公開しないようにスケジューリングすることで、コンシューマーの購買意欲が上がっているのも感じ取れました。それぞれのフォロワーが「なんかやってるな」と分かる雰囲気が生まれましたね。
「GR8」は基本的にオンライン先行で発売しているんですが、今回のシューレースはフィジカルの店頭販売を先に。その場でぼくがスニーカーにシューレースつける姿をお客さんがストーリーズに上げてくれるので、それをぼくもリグラムして…とストーリーをつくっていきました。たった1日で80パーセント消化し、翌日オンラインでの発売は5分くらいで即完でしたね。


バジョウが手がける〈99%IS-〉がローンチした、上から下に紐を通して固定するシューレース「UPSIDE DOWN ATT1%TUDE」。幼い頃に言うことをただ聞くのが嫌で、靴紐を逆に通した体験から生まれたという。
ー そうした盛り上がりをつくっていくには、デザイナーとの密なコミュニケーションが前提になっていきそうですね。
高橋:そうですね。いまの状況になってから特に、デザイナーとのコミュニケーションが深くなった実感はあります。以前よりも、「売れ行きはどう?」といった連絡が頻繁にきて、情報交換以上に、お互いの要望を話し合う時間は明らかに増えましたね。もちろん全ブランドは無理ですが、毎日IGに誰かしらからアプローチが来たりします。
ー いまの状況というと、やはりパンデミックからくるさまざまな変化が影響しているかと思います。この1年を通して、お客さんの消費傾向の変化、もしくは変わらないと感じることはありますか?
高橋:シンプルなものにいく傾向は強くなりましたね。例えば派手なアイテムを着れるシーンがあったひとから「着ていくところがない」という声を聞いたり、コロナ禍でのネガティブな面もはっきり分かってきました。売れるブランドは売れるし、難しいブランドも実際にあります。ただ、ぼくたちは少ないオーダーだとしても継続を念頭にお取引させていただいていて、その上で、消化率を上げるという面に目を向けています。そうすることで、スタッフも、そしてつくり手も意識が変わるということを実感しています。それによっていまのネガティブな状況が前向きになる。その変化はすごくありましたね。

ー 緊急事態宣言下ではお店を閉めざるを得なかったと思いますが、オンラインが前年比非常に伸びたというお話も。
高橋:はい。インスタグラムにアップしてから発売する流れは徹底していたんですが、オンラインで売れるものはデザインが分かりやすくシンプルなもの、サイズ感を知っているものがよく動きますね。一方の店頭は、スタンスの変わらない、ぼくたちとしても心強い顧客さんを中心に、高いアイテムでも実際に見て購入されるというのがはっきり分かれましたね。
ー ちなみに、前シーズンの2020年秋冬で好調だったものはなんだったんですか?
高橋:バジェットの差がすごくあるので、単純に比較はできないのですが、〈バレンシアガ〉や〈レディメイド〉、〈リック オウエンス〉でしょうか。ただ、消化率で見たら、〈99%IS-〉をはじめ〈ポストアーカイブファクション〉や〈カンヒョク〉などの韓国勢がすごい。若い世代のファンがついている韓国ブランドに共通していることは、先程お話ししたようにSNSでの見せ方が世界レベルに上手いんですよ。店頭にも残っていないですね。


高橋さんが注目しているブランドのひとつ、〈ペナルティメイト(PENULTIMATE)〉のTシャツとニット。中国出身のデザイナーのシャン・ガオは「パーソンズ美術大学」を卒業後、ニットウェアデザイナーとしてラフ・シモンズが手がけた〈CALVIN KLEIN 205W 39 NYC〉のチームに立ち上げから所属した。2019年秋冬に自身のブランドをスタート。Tシャツ ¥37,400+TAX、ニット ¥77,000
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