自然界のもののように、成るべくしてなったデザイン。
中室: ぼくも最近デザイナーさんと話をしていて、コロナでものづくりの考え方が変わったという話をよく聞くんですよ。とあるブランドの展示会に呼ばれたときに、それまでのものづくりとはまったく違ったコレクションになっていて。ミリタリー由来の形はそのままで、デザインはほとんどいじっていないんですけど、染め方や生地のギミックで従来とは異なるものをつくり上げていたんです。
どうしてそうしたのか聞くと、「こうした状況になって本当に必要なものだけしか欲しくなくなった」と仰っていて。デザインでモディファイされたものよりも、ミリタリーウェアそのものを着たくなったそうなんです。そこに唯一、こうだったらいいなという自分の好みを反映させた、と。
それを聞いたときに、中川さんの話を思い出して。ものづくりやデザインに携わっている人は、コロナとか世の中の状況が変わると、考え方も変わってしまうのかな、と思いました。あるいは、別の起点をつくれるのかなと。

中川: ぼくの周りでものづくりをしている人も結構変わりましたね。なんなんでしょう、ナイーブなんですかね。
中室: 敏感なんですよ、きっと。ぼくは鈍感なタイプで、全然変化がないんです。だけど敏感な人は、いろんなところに変化がでてきそうですよね。
ー 世の中の状況を吸収して、それを形にしやすい職業ですもんね。
中川: たしかに全部アウトプットしたいという気持ちはありますね。自然とそうなっちゃうんです。見たもの、食べたもの、経験したことが全部外にでてしまう。
中室: インプットがすごい大事なんでしょうね。ぼくの場合、トルクスネジを見てもインプットできず、すぐ流れていっちゃうんで。中川さんはコロナのこの状況をストレートに吸収して、その影響が大いにあったということですよね。
中川: 生活が変わるじゃないですか。電車に乗って、事務所に行って、作業するという日常がなくなって、その代わりに散歩して緑をよく見るようになって。そうした生活の変化もデザインにやっぱりデザインに反映されちゃうんですよ。

ー 今回のアイテムが完成したとき、どんな感情が生まれたんですか?
中川: 機能の積み重ねによって生まれたものなので、ある意味では自分のデザインの範疇ではないんです。自然界のものがそうであるように、成るべくしてなったデザインなので。だからこれでいいのか、ちょっとふわふわした気持ちでいましたね。
だから代表に見せるのがちょっと不安だったんですよ。だけど、すごくいい反応を得ることができました。営業のメンバーも「いいじゃん」って言ってくれて。それでようやく楽しくなってきたというか、他のブランドと真逆の発想でできたものだから、いろんなことが明確になっていったんですよね。
中室: めちゃくちゃいいメガネですもんね。〈アイヴォル〉のメガネを「ラクだから」という理由で家でかける人が周りに何人かいて、あれって軽さやかけ心地がいいという機能性と装飾的なデザインのバランスが近しいところにあるじゃないですか。だけど〈E5 eyevan〉はその要素が一体化してますよね。そこが優れたポイントで、家にいるときはラクだし、外へでかけるときもかけられる。だから究極なんですよ。〈アイヴォル〉を家で使っている人は、外に出るときに〈アイヴァン 7285〉をかけるそうなんです。
中川: たしかに〈アイヴォル〉がいちばん近しいのかもしれません。あれはアクティブシーンに向けてつくっているブランドなんですけど、それが結果的に家でもハマっているというだけで。
ー スポーツウェアを部屋着にするような感覚ですか。
中川: まさにそうですね。だけど〈E5 eyevan〉の場合、シーンを限定してないんです。生活を送るうえでの必要な道具なので。その違いが出ているのかもしれませんね。

中室: 本当に究極すぎて、ファンとして他のブランドのことが心配になっちゃうくらい素敵なメガネですよ。だけど、並べてみるとやっぱりそれぞれに魅力はあって。〈アイヴァン 7285〉は装飾的だし、〈10 アイヴァン〉はシンプルだけど重みがあって、〈アイヴォル〉は中川さんが仰ったようにアクティブな場面で使いやすい。本当に違いが明確にありますね。
中川: 〈E5 eyevan〉ができたことで、他のブランドのデザインがしやすくなりました。それと「〈アイヴァン 7285〉って、どうしてこういうデザインなの? 」って聞かれたときに、「かっこいいから」とシンプルに言い易くなって。そうやって言い切れるのがラクだし、ぼくとしてはうれしいんです。