PROFILE
石川の小松空港からほど近いロードサイドにポツッと佇む「フェートン」をはじめ、会員制ティーサロン「ティートン」や金沢に店を構える「ポータークラシック」「オールドジョー」など計7店舗を運営。メルセデスやポルシェ、ジャガーと十数台のクラシックカーを乗りこなす無類の車マニア。
パワフルなエンジンを積んだ服はいつの時代も美しい。
ー 坂矢さん自身が考えるこの秋冬のファッションの傾向を教えてください。
着やすくてコンフォートなデザインは当然として捉えていて、この秋冬は美しいカラーリングや柄使いに注目していますね。個人的には全身がピンクでもいいくらい(笑)。そういう意味では「フェートン」で取り扱っている、ロンドン発のデザインスタジオ〈トゥーグッド〉や糸の選定からデザインするイタリアの〈イザベラ ステファネッリ〉はその好例ですね。
ー ここ最近、思われていることなんですか?
1年前くらいからですね。正直、シンプルな服を見続けていることもありまして。クルマ好きの自分が表現するなら、どれほどのパワフルなエンジンを積んでいるかどうか。ただ単に派手だったらいいというのではなく、根底にあるものが不変的でないといけません。〈トゥーグッド〉や〈イザベラ ステファネッリ〉だけでなく、いつも最高のパンツをデザインする〈ナイジェル ケーボン〉、〈ポータークラシック〉と〈オールドジョー〉も素晴らしいですね。どんどん加速がよくなっていると感じています。
ー 〈ポータークラシック〉と〈オールドジョー〉は現在、「フェートン」ではなく金沢でそれぞれオンリーショップとして展開していますね。
そうですね。「フェートン」で販売もしつつ、もっとフルラインでお見せしたいと思いオンリーショップとして展開しています。オンリーショップで展開するのは、そういった意図がありまして。〈ポータークラシック〉は9年前にはじめた当初は1ヵ月に1着も売れなかったんですよ。その当時は「剣道着が15万円もするの!」なんて言われて(笑)。いまでは周知の通り日本を代表するブランドとして人気を博しています。〈オールドジョー〉は創業当初からいまも一貫してスタイルを変えない。どのシーズンのものも毎年着れるわけですから、ファンが増えますよね。
ー 共にワークウエアをベースとしたブランドですよね?
まさに働くひとが着る働く服だと考えています。コンフォートなパターンを引きながら、堅牢性が高くて気負いなく着られます。ぼくはドイツ製品を愛用していて、なかでも〈ライカ〉のオールドレンズを全種類揃えているんですが、やっぱり壊れないものは素晴らしいですね。その一方で花にも目がなく、時間の経過とともに枯れていく美しさも好きなんです。ユーザーと歳を一緒に重ねてくれる〈トゥーグッド〉と〈イザベラ ステファネッリ〉の服は他のブランドにはない魅力が詰まっています。
ー その他に隠し球っぽいブランドがあれば教えてください。
この秋冬は〈シーピーカンパニー〉がスタートします。アウターは正直、このブランド一択。自分のなかで化繊のキングだと思っています。ぼくは勝手に “アカイカ” って呼んでるんですけど、羽毛が透けて見えるダウンジャケットはオンリーワンのでき栄えです。「フェートン」では新しいブランドをセレクトする際、“トライミーティング” と題してそのブランドでお店を一色に染めるイベントを開催しています。メーカーの方をお呼びして、顧客さんと一緒になってスタッフも説明を聞きながら。〈シーピーカンパニー〉のトライミーティングは10月の中旬を予定しています。あとはクルマで例えるとタイヤ部分になるシューズは絶対に外しません。なぜなら、あらゆるブランドの靴を解体して見てきたので。中身を覗くことですべてが分かるんですよ。そのなかでも〈フラテッリ ジャコメッティ〉は細部に至るまで本物。短靴とブーツを合わせて、新作として6型ほどが入荷します。
ー 都会から離れた場所にあるからこそ、「フェートン」に行くのがひとつのイベントなのかなと勝手に思ってしまいました。
実は県外からのお客さんが8割を占めています。この場所にひとを呼ぶのは相当なエネルギーが必要でしたよ。今年で「フェートン」は10周年を迎えましたが、最初の2年間はひとなんて来なかったですから。「ブランキージェットシティ」の照井利幸さんを呼んでインストアライブをやったり、料理研究家・渡辺康啓さんによるイタリアンの料理会を開いたり、〈ポータークラシック〉の吉田克幸さん・玲雄さんをお招きしたワークショップは9年前から毎年のように開催しています。本当に小さいことの積み重ねですよね。お客さんとのコミュニケーションは常に大切にしています。10年前とスタンスが変わらないからこそ、コロナの影響も受けずに右肩上がりで成長できているんだなと実感していますね。
ー その結果、石川の新しい動線まで生み出したそうですね。
「ティートン」で紅茶を味わった後に「フェートン」でショッピングを楽しみ、そして「大勉強」(同店が独自に発行する雑誌)を読んで石川県の飲食店に足を運んでもらう。都会じゃ絶対にあり得ないですよね。田園風景のなかにある店ですが、いまはこの場所に「フェートン」を出店して間違ってなかったなと再確認しています。